なんのために存在するのか—今、企業に求められる「パーパス」とは<デジタルトランスフォーメーションを考える39>

複雑化する社会のなかで注目される「パーパス経営」

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、世界各国の企業がロシアとの事業を相次いで停止しています。「情報統制が厳しくなっている」、「物流が困難になっている」などの理由を挙げる企業もありますが、多くは侵攻への抗議の意味をこめて事業を停止しているようです。いち早く戦争反対のメッセージを掲げて多額の寄付をする企業もあれば、なかなか事業停止の判断をせずに「ロシアで事業を続けることで戦争に加担し、資金援助をしている」と厳しい批判にさらされる企業もあり、この戦争をきっかけに世界の問題に対する企業の姿勢が大きく問われています。

 

最近、「パーパス」という言葉をよく目にします。一般的には「目的・意図」といった意味ですが、ビジネスの文脈では「企業の存在意義」を表す言葉として使われています。戦争のみならず、深刻さを増す気候変動や自然災害、人権・多様性の尊重などが重要な課題となっている今、持続可能な社会をつくるための取り組みが個人・組織に強く求められています。経済活動にも社会貢献が求められる風潮が強まっており、企業にとっては自らの「パーパス(社会的な存在意義)」を明確に示すことが非常に重要になっています。

企業の「パーパス」が注目される背景

実は「パーパス」というコンセプト自体は新しいものではありません。この言葉が注目されたきっかけとなったのが、2009年に公開されたサイモン・シネック氏のTED Talkの動画です。「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」というタイトルのこの動画は5000万回以上も再生され、TED史上最も多く視聴されたものの一つとして世界中で話題になりました。その後出版された『WHYから始めよ インスパイア型リーダーはここが違う』(日本経済新聞出版)もベストセラーとなりました。

 

シネック氏は円の中心にWhy、その周辺にHowとWhatと配置するモデルを「ゴールデン・サークル」と名付け、Whyを考えることから物事を始める重要性を提唱しました。「なぜそれを行うのか」というWhyから始めることで、より多くの人々の心を動かすことができるというのが同氏の主張です。では、昔からあるこの言葉が、なぜ再び影響力を増しているのでしょうか。そこには2つの大きな流れがあります。

 

ひとつは「Z世代・ミレニアル世代の存在感」です。1997年〜2012年に生まれたZ世代、1980~1990年代後半に生まれたミレニアル世代は、ジェンダー・人種・気候変動などの社会問題への関心が非常に高いといわれています。生まれたときからインターネットが存在し、SNSなどを通じて世界の多様な意見に触れて育ってきたことが大きく影響しているようです。「D2C」をテーマにした記事でも書きましたが、彼らは商品の良し悪しや値段だけではなく、ブランドの社会的・政治的メッセージに共感できるかどうかに基づいて購入を決める傾向があります。Z世代・ミレニアル世代が成長して社会で活躍する年齢になった今、企業も「社会をよりよくするために消費をする」という彼らの新しい価値観に適応していかなくてはいけません。

もうひとつは、「ESG投資の世界的潮流」です。ESG投資についても、以前の記事で紹介しています。世界のESG投資にまつわる統計を発表している国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の調査”GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020”によると、世界のESG投資の投資残高は2018年から2020年までの2年間で15.1%増加し、35兆3,010億米ドル(約3,900兆円)となっています。日本でも2018年から2020年の間にESG投資額が34%成長しています。企業のSDGsへの取り組みに注目する消費者も増えており、結果的にSDGsの実現を目指す企業は長期的投資を重視する機関投資家からの投資を受けやすいという環境ができあがってきているのです。「会社は誰のものか」について語るとき、これまでは「株主の利益」が最優先されてきました。その基準が「その企業はどんな社会的意義を果たすのか」という視点へとシフトしつつあります。

 

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会社の存在意義としての「ミッション・ビジョン・バリュー」と「パーパス」の違い

これまでは会社の存在意義を語るものとして、「ミッション(どんな事業をしているのか)・ビジョン(今後数年間にどんな会社になりたいのか)・バリュー(今後自分たちが何を大切だと考えるか)」という言葉がよく使われてきました。ではこの3つの言葉と「パーパス」は何が違うのでしょうか。

 

「ミッション・ビジョン・バリュー」は、未来に向けて自分たちがどうなりたいかという方向性を言葉にしたもので、企業やブランドが目指す姿を表すことが多いようです。一方で「パーパス」はどんな社会を作りたいのかを表すものです。パーパスを考えることは、「自分たちは、社会に対してどのような価値や意味を生み出そうとしているのか」、「自分たちの事業があるのとないのとでは、人々の生活や社会はどう違うのか」から始まります。サイモン・シネックのWhyがより社会的な理由になるというイメージでしょうか。

 

2020年1月に日本に初出店したニュージーランドのシューズブランドAllbirdsのサイトを見ると、商品紹介と並んで気候変動に関する記事がトップページに大きく掲載されています。同社のパーパスは「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」。商品に自然由来の素材を使用するだけでなく、カーボンフットプリントをゼロにする活動にも力を入れています。社会活動を既存事業にあとづけしたり、CSRの一貫として企業活動の周辺に位置づけたりするのではなく、Allbirds社のようにコアとなる事業に社会活動を融合していくことが、パーパス経営には求められます。

 

最近では、パーパス思考を持ち、社会的責任を果たす企業に与えられる「B Corp認証」を取得する企業も増えています。B Corp認証は環境や社会へのパフォーマンス、透明性、説明責任、持続可能性において優れた会社に与えられる認証制度で、米国の非営利団体B Labが運営しています。評価基準が非常に厳しいようですが、環境や社会問題への取り組みを世に証明するツールとして、今後B Corp認証の役割は、ますます重要になっていきそうです。

 

日本企業もパーパス経営に注目

日本でもパーパス経営にシフトする企業が増えています。味の素は、昨年「食と健康の課題解決企業を目指す」というパーパスを打ち出し、「事業を通じて社会価値と経済価値を創造する」ASV経営へシフトすることを発表しました。パーパスを実現するツールとしてのデジタルトランスフォーメーションにも取り組んでいます。「パーパスドリブン組織への変革」という資料のなかでは、2030年までに「10億人の健康寿命を延伸する」、「事業を成長させながら、環境負荷を50%削減する」という目標を明記しています。

 

また、花王は2019年にESG戦略「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」を発表。「ごみゼロ」、「脱炭素」、「水保全」、「パーパスドリブンなブランド」、「責任ある原材料調達」など重点的に取り組むテーマを掲げ、プラスチック使用量を減らした容器の開発、人権侵害リスクを排除したサプライチェーンの構築などを進めています。2020年には、気候変動など環境分野への取り組みを評価する国際NGOであるCDPから、日本企業で初めて不二製油グループとともに3分野でのA評価を獲得する「トリプルA」に選定されました。

 

今後は商品・サービスそのものがいかに優れていても、社会的な存在意義が明確でなかったり、掲げているパーパスと実際の行動に矛盾があったりすると、一貫性がないと批判され、ブランド価値が下がってしまう、そんな時代になりそうです。企業のあり方やストーリーにより厳しい目が向けられている今、どのような社会問題も決して他人事とはいえません。この機会に、社会で起きているさまざまな問題に目を向け、自社の事業とのつながりをもう一度じっくり考え直してみるのもよいのではないでしょうか。

 

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