今後、開示が義務づけられる!?企業価値を測る重要な指標「人的資本」とは<デジタルトランスフォーメーションを考える40>

Human Resource からHuman Capitalへ。今、注目される「人的資本経営」とは

コロナ禍でリモートワーク・ジョブ型雇用・ワーケーションなどの新しい働き方が広がりをみせるなか、「人的資本経営」というキーワードへの関心が高まっています。

 

人的資本経営」とは、人材を企業のコスト要因ではなく「資本」つまり投資対象とみなし、中長期的な企業価値向上につなげるという考え方です。これまでは従業員にかかわるお金は「人件費」や「教育研修費」という「経費」であり、業績が悪くなればカットされるコストコントロールの対象でした。”Human Resource” という言葉も一般化しましたが、人は「資源 = Resource」であり、あくまでも管理する対象だとみなされていました。一方「人的資本」という概念では、人を「資本」と考えます。企業が適切な機会や環境を提供すれば人材価値は上昇し、放置すればその価値は縮減します。価値が上下するという意味で人は「資本= Human Capital」であり、企業価値を持続的に押し上げるためにしっかりとした指標をもって人に「投資」していこうという考え方が、世界で大きな経営トレンドとなりつつあるのです。

 

「人的資本」という言葉が世界で注目されるようになった背景には、ESG投資への関心の高さがあります。ESG投資は、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。かつては企業の資産といえば工場やプラントなどの有形資産でしたが、変化が激しく未来を見通すことができない今、有形資産から算出される企業価値だけではなく、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや企業経営のサステナビリティにどれくらい真剣に取り組んでいるか、イノベーションを起こし、企業の成長を支える「人」にどれくらい投資をしているのかという無形資産が金融市場で評価されるようになっています。

 

昨今のウクライナ危機で株式市場が荒れるなかでもESGファンドにはしっかりと資金が流入しており、その規模は新型コロナウイルスの感染拡大で市場が急変動した2020年1~3月の2.5倍の規模とも報道されています。こういったニュースを見ても、ESG投資が一時のブームではないことがよくわかります。

 

人的資本情報を積極的に「開示」する時代へ

そんななか、投資家たちは企業に対して人的資本に関する情報開示への要求を強めています。なぜかというと、人的資本に関する情報こそが企業価値算定と投資判断を行うための重要な基準となるからです。

既に、ヨーロッパやアメリカでは人的資本情報の開示が企業にとって当たり前になってきています。EUでは2014年に「非財務情報開示指令」において、大手グローバル企業に対して、人的資本を含む非財務情報の開示を義務化しました。また2018年12月には人的資本マネジメント領域における世界初の国際標準規格「ISO30414 」(=人的資本開示ガイドライン)が誕生。「ISO30414」では研修時間、報酬額、組織文化醸成のための経営者と従業員の対話活動など、人的資本に関する58項目の指標と開示を行うための指標が示されています。以降、各国で企業が人的資本の開示へと舵をきりはじめています。

 

2020年には、アメリカでも米国証券取引所がアメリカの上場企業に対して、人的資本の開示ルールを30年ぶりに改定しました。今後、企業経営において、人的資本の開示は避けて通ることのできない大きなテーマとなることは間違いなさそうです。

 

日本企業にも「人的資本」情報の開示が義務づけられる!?

日本にも、今まさにこういった世界の「人的資本開示」の流れが押し寄せようとしています。2020年9月には、経済産業省が通称「人材版 伊藤レポート」を発表。「人的資本(Human Capital)経営」の重要性、「経営戦略と人材戦略の連動」の必要性などを説き、人的資本の情報開示が経営戦略として重要であると記した本レポートは、企業経営者に大きな影響を与え、改革に取り組む企業も増え始めています。「人材マネジメントの目的は、従来の人的資源・管理から『人的資本・価値創造』へ」、「アクションは、人事から『人材戦略』へ」、「雇用コミュニティは、囲い込み型から『選び、選ばれる関係』へ」など、人材マネジメントの課題や変革のポイントが非常にわかりやすくまとめられていますので、ぜひご一読ください。

 

また2021年6月には東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂。サステナビリティに関する課題として、「人権の尊重」・「従業員の健康・労働環境への配慮」・「公正・適切な処遇」などで人的資本に関する項目が盛り込まれました。そして、2021年秋に成立した岸田内閣は「新しい資本主義」関連の経済政策のなかで「人への投資」を重要な柱とすることを発表。2022年中にも日本の上場企業向け「人的資本開示ルール」を公表することが予定されており、6月中にはその骨子案がまとめられることになっています。この骨子案では、従業員のスキル向上などの人材育成や多様な背景を持つ人材の採用状況など、投資家に伝えるべき情報を19項目に分けて整理されています。将来的には上場企業を中心に有価証券報告書に人的資本情報の記載を義務づけることなども視野に入れているようです。

 

日本は世界と比べると人への投資水準が他の先進国と比較しているといわれています。少し前の資料になりますが、『平成30年版 労働経済の分析〈要約版〉』に掲載されている『GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合の国際比較』を見ると、日本企業における従業員の能力開発費への投資が他国と比べて圧倒的に低いことがよくわかります。このような状況では、日本企業が世界の投資家からの投資対象から外される可能性があります。

 

今後は人事部内での改革に留まらず、コーポレート・ガバナンスや金融市場の枠組みのなかで、人事・人材戦略をとらえる流れをつくる、それが「人的資本」を考える大きなポイントです。人を資本として積極的に投資する、そしてその情報を積極的に開示していくことにより、より多くの投資家の関心をひきつけることができ、投資対象に選ばれ、結果として企業価値の向上につなげていくことができるのです。

 

さらに先日、経済産業省は新たな報告書「人材版 伊藤レポート2.0」を公開しました。「人材版 伊藤レポート2.0」では、2020年の「人材版 伊藤レポート」で挙げられた問題に対して、具体的にどうすればよいか、 実践的にガイドするようなアイデアや施策が提示されています。さらに、先進的な取り組みをしている企業の事例集も盛り込まれています。3月には株式会社リンクアンドモチベーションが、日本で初めて「ISO30414」の認証を取得。今後、人的資本の情報開示は世界中でさらに加速することが予想されます。人的資本情報の開示は、投資家の注目を集めるだけではなく企業と従業員との絆を強め、優秀な人材の採用することにも役立ちます。今後、目を離すことのできないキーワードになりそうです

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