『混沌』が新たな日常になる」が現実に。2022年はどんな1年になる?<デジタルトランスフォーメーションを考える38>

2020年のトレンド予測が現実のものに

今年も最初のトピックとしてマリアン・ザルツマン氏のトレンドレポートを取り上げてみたいと思います。2020年2021年とユニークな視点でトレンドを予測してきたザルツマン氏。今年は一体どのような年になると考えているのでしょうか。

2020年のレポートのタイトルは“CHAOS THE NEW NORMAL”(「混沌」が新たな日常になる)でした。このレポートが書かれたのはコロナ前でしたが、この直後から「ニューノーマル」という言葉が日本語でも当たり前に使われるようになりました。そして2021年、長引くコロナ禍をなんとか乗り越えたと思ったところで、年明けから再び感染拡大。社会経済活動の維持が危うい状況になっています。文字通り「混沌」が日常になってしまった今、未来に向けてどのような心がまえをしておけばよいのでしょうか。ザルツマン氏のレポートから気になるトピックを見てみたいと思います。

 

都市はどうなる?

今、世界人口の56.2%が都市に住んでいます。2020年のパンデミックでは、大都市が人間だけではなくウィルスにとっても居心地のよい場所だということに多くの人々が気づきました。都市居住者のなかにはチャンスとコストが見合わなくなったと感じ、より人口が少なく緑の多いところに転居する人も増えています。

これから都市は廃れていくのでしょうか。賢明な都市は早くも、緑化計画や車の交通量と公害の減少、手頃な価格の住宅、マイクロモビリティの推進などを通じて、その魅力を高めるための新たな方法に着手しています。 ”15-minute city(15分都市)”を目指す都市も増えており、ソウルはさらに野心的で、10分都市を計画しています。工業用地だった場所を、住宅やオフィス、スポーツ施設、ネイチャーゾーン、水耕栽培の都市型農場など、あらゆるものを備えた歩きやすい街にする計画です。

(筆者による要約)

 

15-minute city”は、職場や学校、買物など住民が必要とするあらゆる場所へ、車を使わずに15分以内にアクセスできる地域を意味します。パリでは2014年から交通文化の見直しが行われており、ガソリン車の段階的な禁止や、道路を緑と人のためのスペースへと再構築するなどの施策を講じてきました。そして2020年からは本格的に“15-minute city”を目指し、街を再設計しています。また、ソウルでは上記に書かれているように古い工業用地をスマートシティに変える「H1プロジェクト」を計画中。そのほか、ポートランドやメルボルン、オタワ、ミラノなどで、世界の多くの都市が同様のX-minute cityをビジョンとして取り上げています。

日本でもコロナ禍でのテレワーク導入により、地方居住のハードルが下がりつつあり、首都圏の過密リスクを回避し、地方へと向かおうとする人の動きを引き起こしています。2020年から作成されている内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、若い世代を中心に地方移住への関心が高まっていることがうかがえます。また先日、東京23区で2014年以降、初めて転出者が域外からの転入者を上回る「転出超過」となったことも報道されました。

テレワークによって通勤時間が減り、家族と過ごす時間が増えたことで、人々の仕事や暮らしへの価値観が大きく変わりつつあります。またコロナ対応にも自治体の個性が出はじめており、「いけている自治体」・「ダメな自治体」という新たな指標が人々のなかで生まれはじめています。都市部にとっても地方にとっても生活の質や新しい働き方や仕事の可能性、さらに個人のクリエイティビティを高められるような魅力ある街づくりがあらためて重要になってきています。

 

チェンジ・エージェント、コヒージョン・カルティベーターへの注目が高まる

チェンジ・エージェントは、パンデミック後の世界でも依然として重要な役割を担っています。そして今、別の触媒役への需要も高まっています。” Cohesion Cultivator(コヒージョン・カルティベーター)” と呼ばれる専門家たちは、パンデミックによって明らかになった職場の欠点や機会損失などの課題を見つけ、一体感のある組織を作ることで、人材確保や従業員満足度向上などに貢献します。チーフ・コヒージョン・オフィサー、コミュニティ・コヒージョン・オフィサー、ソーシャル・コヒージョン・サポート・オフィサーなどの役職や肩書きが、2022年以降、増えてくることが確実視されています。

(筆者による要約)

 

チェンジ・エージェント」とは、もともと組織開発の領域で使われ始めた用語で、組織の人材開発やマネジメント、組織改革などを支援する人のことを指します。自ら変革を引っ張っていくリーダーというよりは、トップと現場の間に入って変革を成功に導くのがチェンジ・エージェントの役割です。トップからの信頼感はもちろん現場社員に変革の必要性を納得させる高い知識とノウハウが求められるため、社外の専門家やコンサルタントがその役割を担うことも少なくありません。

そして新たに注目されている“cohesion(コヒージョン)”という言葉。“cohesion(コヒージョン)”は「凝集度」や「結束」を意味します。日本語ではあまり耳なじみがありませんが、英語では”team cohesion(チームの結束)”などの言葉がよく使われています。

チームが結束することはもちろんよいことではありますが、ときに「集団思考」(集団が何らかの意思決定を下す時、その強い結束力がマイナスの方向に働き、個人で意思決定するよりも、不合理もしくは危険な結論が容認されてしまうこと)に陥る危険性もあります。チームメンバー同士が仲良くなることで、あまり当事者意識をもたず、誰かの指示に従って動いておけばいいや、という判断をしてしまうことは少なくないでしょう。

組織変革においては、チームメンバー同士の関係がよいかどうかだけではなく、目標を達成するための課題に対して本当にチームが一丸となって取り組めているのか、共通の価値観をもって仕事に取り組むことができているのかなどを見極め、真の意味での結束力を高めていくことが必要です。コロナ禍でテレワークが増え、コミュニケーション不足を感じる組織も増えるなか、改めて「結束」という言葉がキーワードになっていきそうです。

 

すべてがハイブリッドになる

グローバル化・オープン化の波が押し寄せる一方で、ナショナリズム・クローズ化への動きも活発化し、同質性の高い集団で安心したいという人々の思いが見え隠れしています。しかし今のトレンドは「ハイブリダイゼーション」、つまり異なるパーツを意図的に混ぜ合わせ、最適なブレンドを作り出すことです。

ハイブリッドエンジンを搭載した自動車や、ロードバイクとマウンテンバイクの特性を融合させたハイブリッド自転車は、世界中の道路を埋め尽くしています。二項対立的な世界に「ハイブリッド」というレンズを持ち込むことは、非常に創造的であり、物事を前進させることに役立ちます。

企業のコミュニケーション部門は、対面式のイベントと組み合わせて、テキスト・オーディオ・動画なども活用する、また小売業者は店舗とオンラインを組み合わせたクリエイティブなサービスを提供していくなどが必要です。

(筆者による要約)

 

コロナをきっかけに、出勤と在宅のハイブリッド、オンラインショッピングとリアル店舗での買物のハイブリッドが当たり前となりました。今後ますますデジタル化が進み、メタバース関連のサービスも普及してくれば、デジタルでの活動や購買行動がさらに活性化していくことは間違いないでしょう。一方で、この第6波が収まった後にはリアルへの回帰も促進されることが予想されます。店舗で実際に商品を手に取って購入する、人に会うなど、リアルでの体験価値がなくなったわけではありません。むしろ失われてしまった分、リアルな体験を求める人々の気持ちは高まっています。

オンラインとオフラインのハイブリッドのみならず、複数の職業のハイブリッド、旅行と仕事のハイブリッド、都市在住と地方在住のハイブリッドなど、混沌としたこの時代において、ハイブリッド化はあらゆる側面での閉塞感を打開してくれるキーワードとなりそうです。

先が読めない今、自分自身も変化し続けることが安定への唯一の道なのかもしれません。一気に変革することは難しくても、今までのやり方に少し新しい要素を足してみるというように徐々にハイブリッド化していくことが、混沌の時代を生き延びるうえでは重要なのかもしれません。この1年も未来に思いを巡らせつつ、時代を軽やかに楽しむ方法を考えていきたいと思います。

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。

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