2021年のトレンドはどうなる?<デジタルトランスフォーメーションを考える25>

「最後の審判の日」をZoomで予言!?

昨年1月、「混沌が当たり前の世界2020年のトレンドはどうなる?」のなかで、トレンドスポッターとして知られるマリアン・ザルツマン氏の「2020年トレンドレポート」を紹介しました。2020年のトレンドとして挙げられていたのは、「肌と肌のふれあいを求める人が増える」、「街の緑化計画が進む」、「消費者はすべての購買に意味をもたせるようになる」、「あらゆるものの『模倣品』がつくられる」、「引きこもる人たちが増える」など。その通りになったものも、そうならなかったものもありますが、いずれにせよ2020年は誰も想像しなかった形で幕を閉じることになりました。2021年は一体どんな年になるのでしょうか。今回も前回と同じく、マリアン・ザルツマン氏のトレンドレポートから、気になるトピックをピックアップして考えてみたいと思います。

 

ちなみに、今回のザルツマン氏のレポートのタイトルは、”ZOOMSDAY PREDICTIONS”。”Zoomsday”という言葉には、英語で「最後の審判の日」を意味する”Doomsday”という言葉に、社会の重要なインフラとなったZoomがかけられています。新型コロナウィルスによって、人類は想像以上に脆弱であることを思い知らされ、生活も働き方も人々の価値観も大きく変化しました。イギリスやアメリカではワクチン接種が始まったものの、このパンデミックがこの後、社会にどれだけの影響を及ぼすことになるのか、まだ予測することはできません。そんな未来への漠然とした不安と、テクノロジーをうまくかけ合わせて表現しています。

 

ローカリズム:自分の住む地域コミュニティへの興味・関心が高まる

移動が制限され、自宅で過ごす時間が増えたことで、自分の住む地域への人々の関心が高まっています。アメリカでは地域コミュニティに特化したSNS、Nextdoorが人気を集め、買い出しの助け合いや情報交換などを行う人が増えています。

 

また、Amazonの傘下でホームセキュリティ事業を展開するRing社が提供するコミュニティアプリNeighborsも、注目を集めています。Ringは自宅に手軽に取り付けられるドアホンIoTデバイスです。モーションセンサーと動画ストリーミング機能を備え、玄関近くに誰かが来るとスマホへ通知が飛び、不在時でもアプリを通じて直接応対ができるというものです。置き配が当たり前のアメリカでは、盗難防止などのために設置する人が増えています。

Neighborsは、地域の安全を守ることを目的としたSNSです。ユーザーは犯罪の情報を投稿したり、Ringで録画した動画を公開したりすることで治安情報を共有します。Neighborsのネットワークには現在、400ヶ所以上の警察署が参画し、地域のパトロールに役立てています。IoTやSNS使ったコミュニティ単位での新たな防犯ネットワークが生まれようとしています。

 

地域SNSといえば、日本ではジモティー社が2020年2月にマザーズに上場しました。コロナ禍では、近隣でのマスクの販売情報やテイクアウト情報などが頻繁にやりとりされていたようです。また、日本では自治体とスタートアップ企業や市民が共同で新規事業に取り組んだり、地域の課題を解決したりする事例が増えています。地方移住に関心を持つ人が増えるなか、自治体と市民が一緒になって地域の魅力を発信していく動きも活性化していきそうです。

 

ドローンとロボットが本格的に活躍

自動運転の宅配ロボットを開発するシリコンバレーのスタートアップNuroが、ビジネスを急拡大。ウォルマートやドミノピザなどの大手チェーン店の商品配送や医療施設への医薬品の無人配送で活躍しています。またフードデリバリーのPostmatesも、クーラーボックス型の自律配送ロボットServeを使った配送を増やしています。Postmatesでは、何か問題が起きたときのために、人が常にServeをリモートで監視し、必要に応じて誘導・操作しています。従来はオペレーションセンターでServeを監視・操作していましたが、コロナ禍でこの作業をオペレーターの自宅からでも行えるように環境を整えました。その結果、遠隔地に住む労働者や、移動が困難な障害を持つ人々を雇用できるようになったそうです。同社は、先日Uberに買収されたことも話題になりました。

 

Alphabet社傘下の配達用ドローンWingは、アメリカ・フィンランド・オーストラリアでサービスを提供しています。ロックダウン中のキャンベラでは食料品やトイレットペーパーなどの生活必需品、子ども用の文房具などの配達に活躍したようです。

 

日本は産業用ロボット先進国として世界のトップを走り続けていますが、規制の厳しさなどもあり、宅配などのモビリティ分野では遅れをとっています。コロナを機に「非対面」・「非接触」サービスが新たなニーズとして大きく注目されることになったこと、また2022年を目途に、ドローンに関する規制が緩和されることも見込まれていることから、今後、街中でのロボット・ドローンの活用が急速に進むことが予想されます。

 

「プレッパー」が増える

「プレッパー」とは、日ごろから非常事態への備えをしている人を指します。アメリカでは、陰謀論などを信じ、自宅の地下室を核シェルターに改造したり、武器や食料をためこんだりするプレッパーの存在が以前から注目を集めていました。コロナ禍では銃や弾薬が売り切れているというニュースを目にすることも多く、プレッパーが急増しているようです。

 

日本では最近、ものをもたない「ミニマリスト」生活が注目を集めてきました。しかし、コロナ第一波ではスーパーや薬局から食品や生活必需品があっという間に消え、必要なときに必要なものが手に入らない生活が長らく続きました。ウィズコロナの生活によって、「備蓄」を重視する人が増えそうです。また経済的不安から、消費を控えて貯蓄に回す傾向も無視できないでしょう。

 

オンラインセラピーの需要が高まる

コロナ禍では、仕事・学校教育・エンターテイメントなど、あらゆることがオンライン化されました。そんななか、人とのコミュニケーションが不足し孤独感やストレスを感じる人が増えています。

 

アメリカではカウンセリングやセラピーをオンラインで提供するTalkspaceやBetterHelpなどのサービスの利用者が急増しています。企業の福利厚生としてのメンタルケアサービスを展開するMIT発のGingerは、8月に約53億円を調達しました。

 

国連は、うつ病や不安による生産性の低下による世界経済への損失は年間1兆ドル以上に及ぶと発表しています。これはコロナ以前の数値です。日本でも全国的に自殺者が増えており、メンタルヘルスケアが重要な課題となっています。うつ病は心ではなく脳の病です。オンライン診療も含め、手軽に医療やカウンセリングにアクセスできる環境を早急に整備することが求められています。

 

デジタルトランスフォーメーション = 人々の「良い生活」に役立つもの

昨年のトレンドと比べても、2021年のキーワードは「内向き」のものが非常に多い印象です。
100年前に流行したスペイン風邪でも社会的距離などの公衆衛生対策を厳格に行った地域ほど、死亡率が低く、雇用の回復も早く、経済的影響が少なかったことが明らかになっています。医学がこれだけ進歩しても基本的なウィルス対策は変わらないのです。新型コロナウィルスを克服する日まで、人との社会的距離を取り続けなくてはならないため、人々の関心が「内向き」になっていくのは仕方がないことなのかもしれません。

 

初めて「デジタルトランスフォーメーション」という言葉を使ったといわれるスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授は、2004年に発表した“Information Technology and the Good Life”という論文のなかで、「多くの人々にとっての究極の関心ごとが『良い生活』を送ることにある以上、デジタルトランスフォーメーションはその実現に役立つものでなくてはならない」と記述しています。

 

人々の気持ちが「内向き」な時代であっても、デジタルトランスフォーメーションによって、生活が豊かになることを期待しながら、2021年も世界の動きに目を向けていきたいと思います。

 

 

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。

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