「混沌」が当たり前の世界-2020年のトレンドはどうなる?<デジタルトランスフォーメーションを考える6>

今年注目のテクノロジーは、やはり「5G」・「AI」

1月7日から10日までの4日間、米ラスベガスで世界最大のデジタル技術見本市「CES(Consumer Electronics Show) 2020」が開催されました。その年の技術トレンドを知ることができるイベントとして、毎年世界の注目を集める「CES」。今年の目玉となったのは、やはり次世代通信規格「5G」と「AI」だったようです。

日本ではこの春から5Gの本格的な商用サービスがスタートするといわれています。5Gの最大の特徴は圧倒的な通信速度。超高速・低遅延・多数同時接続を実現するネットワークにあらゆるIoTデバイスがつながることで、ゲームやスポーツ中継といったエンターテインメントの分野で、仮想現(VR)・拡張現実(AR)・複合現実(MR)などを絡めた新しいサービスが生まれるだけではなく、自動運転の実現やロボットの遠隔操作など様々な社会的課題が解決されることが期待されています。そしてこれらIoTデバイスを最大限に活用するために欠かせないのがAIの存在です。CESではさらに機能アップしたAIスピーカーやスマートウォッチ、AIを搭載した医療デバイスなどが多数展示されていたようです。

 

さてCESに関して今回日本で最も大きく報道されたのが、トヨタ自動車の「コネクテッド・シティ構想」ではないでしょうか。トヨタ自動車は、静岡県裾野市の工場跡地に東京ドーム15個分(約71万平方メートル)の広さを持つスマートシティを建設することを発表しました。その目的は自動運転の電気自動車(EV)を中心に、あらゆるモノやサービスをネットワークでつなげること。車だけではなく、AI&IoTを駆使したスマートホーム技術や室内用ロボットなどの新技術を検証することが計画されています。

トヨタ自動車は2018年のCESで、自動車の製造会社から車にまつわるサービスを総合的に提供する「モビリティーカンパニー」へ脱却することを宣言し、米Uber Technologiesやソフトバンクグループなどとの提携戦略を進めてきました。2019年6月にはEVを普及させるための新たなビジネスモデル構築について発表しています。発表資料では、トヨタ自動車は従来の「EVを作って、お客様に買っていただく」という従来の発想にとらわれず、よりよい社会への貢献を視野に、幅広くオープンに仲間を募り、新しいビジネスモデルの構築に向けた取り組みを推進するとしています。

トヨタ自動車株式会社 ホームページ(https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/28415813.html)より

 

伝統的なタクシー業界が新興テック企業であるUberに取って代わられたように、もはやトヨタ自動車のライバルは自動車メーカーではありません。莫大な資金力を持つGoogle・Appleなどの巨大プラットフォーマーや、Uber・Grab・フィンランドのMaaS Globalなどの新興企業と戦わなくてはならないのです。トヨタ自動車の動きは、あらゆる業界に大きなパラダイムシフトが起き始めていることを改めて感じさせます。

これからの私たちに求められるのは、世界を俯瞰してみる力

最近、海外のメディアで「holistic approachホリスティック・アプローチ)」という言葉を目にすることがあります。Holisticとは、全体的・総体的という意味です。日本語では主に広告業界で「予算配分の最適化を目的に様々なメディアによって消費者にアプローチする方法」として、また福祉・介護の領域では「体、心、環境は分離できないものとし、ひとりの人の全体をとらえることで問題を解決していく方法」との意味で使用されているようです。

トヨタ自動車の「コネクテッド・シティ構想」は、自動運転による交通渋滞や事故を減らすだけでなく、医療・介護・子育て・教育などの課題、地方の過疎化・孤立化の問題解決に貢献することを視野に入れています。業界の枠の中でイノベーションを創出するだけではなく、新たな市場、新たな価値を獲得するために様々な企業を巻き込み進化しようとする姿勢は、まさにホリスティック・アプローチと言えるのではないでしょうか。商品やサービスを提供する立場としても、また消費者としても、私たちには今、社会をこれまでよりもさらに俯瞰して見る力が求められています。

 

2020年の社会には何が起きるのか?

ではこの2020年、私たちの社会にはどんなことが起こりうるのでしょうか?幅広い視野で世界を俯瞰するために、今回はアメリカでtrendspotter(時代の流行を予測する人)として名を馳せているマリアン・ザルツマン氏(現在はフィリップモリス インターナショナル社 グローバル・コミュニケーション部門 シニア・バイス・プレジデント)が発表した2020年のトレンドレポートについて紹介したいと思います。ザルツマン氏はこのレポートに“CHAOS THE NEW NORMAL”(混沌、それは新たな「正常」*)というタイトルをつけ、2020年における20のトレンドを挙げています。今回は、そこから個人的に気になったテーマについて、簡単にまとめてみました。(*和訳は筆者)

 

肌と肌とのふれあい

インターネットによって、世界中の人々といつでもどこでもつながることができるようになりました。デジタルで簡単に人とつながる一方で、多くの人が感情的・身体的なつながりをより強く求めるようになっています。最近では”skin hunger(肌に対する飢餓感)”という心理学用語も登場しています。テクノロジーが先導する社会では、人と人とのリアルな触れ合いがより重視されていくことが予想されます。

 

街の緑化計画が進む

空気汚染と温暖化が深刻化する今、ソウル・ニューヨーク・パリなど世界の大都市を中心に街の緑化が盛んに行われています。なかでも世界の注目を集めているのが、建築家ステファノ・ボエリがデザインした「垂直の森」です。「垂直の森」は、ビルの壁面中に植物を植えることで、大量の二酸化炭素を吸収し、酸素を生み出します。ミラノから始まり、メキシコ・オランダ・中国などにも建設されている「垂直の森」。地球温暖化を食い止めるため、このような壁面緑化された建築が今後、さらに増えていくことが予想されます。

 

消費者はすべての購買に意味を持たせるようになる

頑張って働いて、お給料を稼いで、たくさんモノを買って満足する時代はもう終わりました。今の消費者は食品ロスや海洋プラスチック問題などにも関心が高く、企業が社会問題や環境問題の解決のために動くことを求めています。商品やサービスの品質だけではなく、企業やブランドが特定の社会問題に関してどのような立場に立っているのか、どのような取り組みを行っているのか、そこに共感して購入するかどうかを決める消費者が増えていくでしょう。

 

あらゆるものの「模倣品」がつくられる

ヴィーガンレザー・人工木材・植物肉など、動物保護や環境保護や健康に貢献するための「模倣品」の開発が進んでいます。特に注目すべきは植物肉(大豆や小麦などの植物性たんぱく質を肉状に加工した食品)。世界中で需要が急増しており、植物肉スタートアップ企業も注目を集めています。食肉だけではなく乳製品にもついてもオーツ麦、アーモンド、ココナッツなどの植物由来の代替乳製品が急速に普及し始めています。

 

引きこもる人たちが増える

政治的、経済的に不安定なこの時代。身の安全を守るために引きこもる人が増えるだろうとザルツマン氏は予測しています。陰謀論を信じている人たちの中には、外出すると防犯カメラで撮影され個人情報が脅かされると考えている人もいるようです。そこまで懐疑的でなくても、あらゆることをオンラインで済ませられるようになり、インターネット動画サービスも普及した今、外に出る必要はなくなっています。企業は商品やサービスを提供するうえで、引きこもる人々のメンタリティを無視することはできなくなるでしょう。

 

ザルツマン氏の予測の全てが日本に当てはまるとは限りません。しかし、世界の国々がこれまでになく強く影響しあい、つながりあっている今、自分に全く関係ないということはありえません。世界に向けてアンテナを張り、いろいろなところからインスピレーションを得ることが大切ではないでしょうか。2020年にはどんなことが起こるのでしょうか。年末に楽しく振り返ることができる1年にしたいものです。

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。

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