新型コロナウィルスの感染拡大から考える、未来の働き方「バーチャル出勤」<デジタルトランスフォーメーションを考える7>

新型コロナウィルスの感染拡大で、テレワークシステム企業の株価が上昇中

新型コロナウィルスによる肺炎の感染が世界中に広がっています。2003年に流行したSARSよりも感染拡大のスピードが速いのは、中国国内外での人の流動性が劇的に高まっていることと無関係ではないでしょう。過去にも、新型インフルエンザ・エボラ出血熱・ジカ熱など、感染症が広がるたびに、世界は大変なパニックに陥ってきました。前回の”デジタルトランスフォーメーションを考える(6)「混沌」が当たり前の世界-2020年のトレンドはどうなる?”で「2020年には引きこもる人が増える」というトレンド予測を紹介したばかりですが、早くも、多くの人々が家の中に引きこもらざるをえない状況にあります。テロや災害だけではなく感染症リスクも経済活動を停滞させる大きな要因となることに改めて気づかされました。こういう時こそ、信頼できる情報源にアクセスし、冷静に行動したいものです。

 

さて、日本の株式市場では、肺炎の感染拡大がテレワーク普及のきっかけになるのではないかという見方が広がっています。

日本国内で初めて感染者が確認された16日以降でみると、テレワークのシステムを手がける銘柄の株価はサイボウズ、ブイキューブが9%、アセンテックは8%上昇した。この間の日経平均株価が2%下落する中で逆行高となっている。(日本経済新聞 電子版 2020年1月29日 )

 

今回の新型コロナウィルスに関する報道を受け、テンセント・アリババ集団・百度(バイドゥ)などの中国の大手テック企業は、即座に在宅勤務に切り替えました。日本でもすでにGMOインターネットグループや日本たばこ産業(JT)などが、感染拡大を抑えるための在宅勤務を実施しているようです。とくにGMOインターネットグループの決断の早さには驚かされましたが、同社は東日本大震災の発生以降、非常時の事業継続に備え、全パートナーによる一斉在宅勤務の訓練を毎年定期的に実施しているそうです(2020年1月26日発表 GMOインターネット株式会社 プレスリリースより)。迅速な意思決定は、まさに日ごろの訓練の賜物といえるでしょう。

経済活動に大きな打撃を与えるできごとが、いつどこで起こるかわからない時代です。危機管理の方策のひとつとしてテレワークに取り組むことは、企業にとって、もはや必要不可欠です。

 

日本のテレワークの現状

「令和元年版 情報通信白書」によると、日本企業のテレワーク導入率は上昇傾向にあるものの、2018年は13.9%、2019年は19.1%となっており、アメリカや北欧などに比べると、まだまだ少ない状況です。

出典:総務省 令和元年版 情報通信白書 テレワークの導入やその効果に関する調査結果(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd124210.html)

 

通勤時間の短縮、育児・介護との両立、優秀な人材の確保など、テレワークに多くのメリットがあることは、すでに社会に十分に認識されているはずです。またハードウェア・ネットワーク・情報セキュリティなど、テレワークを支えるテクノロジー環境も進化しており、そこまで莫大なコストがかかるという状況でもありません。それでも導入が進まないのは、「部下がちゃんと働いているかどうかを把握できないのが不安……」、「コミュニケーションが取りづらくなるのでは……」といった精神的な理由や社内文化が大きく影響しているのかもしれません。確かに、常に同じ空間で仕事をし、「長時間働いている=仕事をしている」という価値観の中で過ごしていたら、働きぶりを目で見ることができないテレワークは、不安でしかないでしょう。「テレワークを導入し、労働生産性が向上した」という調査結果などを目にしても、そもそも社内に労働生産性を評価する仕組みが整っていなければ、比較のしようもありません。テレワークを導入しようとすると、業務内容・評価制度・コミュニケーションの取り方など、働き方のすべてを見直す必要に迫られます。ここを乗り越えることは、物理的な環境を整えることよりも、ずっと難しいことかもしれません。

とはいえ、台風が来ようとパンデミックが起ころうと育児や介護があろうと、在宅勤務はできません。見えないところで仕事をされても評価できません。という状況では、働く人のモチベーションに負の影響を与えますし、優秀な人材を集めることもできません。多様な働き方ができるかどうかは、企業の成長を左右する重要な鍵となっています。

 

バーチャル出勤で急成長の不動産テック企業

日本のテレワークの現状と比較すると極端な事例かもしれませんが、アメリカやカナダで不動産事業を展開するeXp Realtyという企業は、1万5000人以上がバーチャルリアリティ(VR)上のオフィスで働いていることで注目を集めています。同社はオフィスや店舗を持っていません。社員はVRオフィスに出勤し、アバターを介して多くの業務を行っています。eXp Realtyで働く人のほとんどが個人で営業活動を行う不動産エージェントではありますが、ネットワーキング・トレーニング・セミナー・マーケティングなど大勢が集まる必要のある業務も、VR上のセミナールームで実施しています。休憩もちょっとしたレクリエーションもVRの世界で行っています(気になるオフィスの様子はこちらの動画で見ることができます)

eXp Realtyは所属するエージェントが同社に支払うマージンを他社よりも低く設定しています(アメリカでは、不動産を売ったエージェントが仲介会社に売上の一部をマージンとして支払います。エージェントにとっては、仲介会社のマージンが低い方が手元に残る金額が増えるのでありがたいのです)。これにより優秀なエージェントがどんどん集まり、同社は急成長を遂げました。2018年5月にはNASDAQに上場、2018年の取引高は全米で第5位にまで上りつめています。

インタビューを読むと、VR上にオフィスを作ること思いついたのは2007年のサブプライムローン危機でオフィスの賃料を払えなくなったことから。苦肉の策が、固定費を下げてマージンを下げるという今のビジネスモデルに結びついたようです。不動産を売っているにもかかわらず、自分たちはオフィスを持たないという潔さに感心してしまいます。

一見奇をてらった取り組みのようにも思えますが、eXp Realtyは転職情報サイトGlassdoorで、“Best Place to Work”賞を2018年から3年連続で受賞するなど、社員やエージェントからも非常に高い評価を得ています。コメントを読んでみると、コミュニケーションが活発・業績評価の透明性が高い・先進的な取り組みをしている・報酬が良いなど、ポジティブなコメントが多く書かれており、働きやすい環境づくりに相当力を入れていることが伺えます。文字だけのコミュニケーションよりも、アバターを通して空間そのものを共有していることで、お互いの存在をより近く、よりリアルに感じられるのも良いのかもしれません。

 

実はテレワークの大きな課題としてよくいわれるのが、長時間労働です。在宅勤務では出退勤がないことで逆に長時間労働になってしまったり、仕事と私生活の切り替えがうまくできず、うつ状態になってしまったりすることも多いようです。自由に使える時間が増える一方で、すべてをセルフコントロールするのは非常に難しいことでもあります。
バーチャル出勤が可能になれば、自宅にいながらもオフィスでみんなと一緒に働いているかのような体験ができ、時間の使い方やメンタル面の課題をカバーすることができるかもしれません。VR技術がさらに進化すれば、お互い遠隔地にいながらも、五感をフル活用したリアルなコミュニケーションを取ることができるようになるでしょう。
アメリカの心理学者、キース・ソーヤーは、「凡才の集団は孤高の天才に勝る」という著書の中で、「多様なバックグラウンドを持つ人たちが即興的なおしゃべりをすることで、小さなひらめきが結びつき、アイデアの再解釈がされてイノベーションに結びつく」と書いています。バーチャル出勤であれば、住むところに関係なく多種多様な人材が働くことができます。バーチャル空間だからこそ実現できるコミュニケーションから、新たな発想が生まれるかもしれません。何かあった時のための保険や効率的に仕事を行うためだけではなく、クリエイティブな土壌を作るためにあえてバーチャル出勤を行う企業が増えれば、人々の働き方の選択肢もさらに増え、楽しく働くことができそうです。リモートの良さとリアルの良さを融合したバーチャル出勤の進化に是非期待したいです。

 

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。

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