デジタルトランスフォーメーションを考える(20)~最新のテクノロジーとアイデアで行政を変える!今、注目の「ガブテック(GovTech)」とは?〜

デジタル庁新設で盛り上がりが予想される「ガブテック(GovTech)」とは?

9月16日、菅新政権が発足しました。新型コロナウィルス対策で露呈した行政の古い慣習や規則を排除し、規制改革やデジタル化を集中的に進めていくというのが菅内閣の基本方針のようです。なかでも注目されているのがデジタル庁の新設です。具体的な取り組みについてはまだわかりませんが、電子政府実現に向け、国民にマイナンバーカードを普及させること、また複数省庁に分かれているデジタル化関連の政策をひとつに取りまとめ、改革をスピーディーに進めていくことをミッションとして掲げています。

 

「行政のデジタル化」が菅政権の重要なキーワードとなるかで、今後注目されていくことが予想される分野が「ガブテック(GovTech)」です。ガブテックとは、政府(Government)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた言葉で、政府や自治体の業務をテクノロジーで効率化したり、行政が担う領域の新サービスをスタートアップ企業が生み出したりすることを指します。

 

ガブテックと似た言葉にシビックテック(Civic Tech)があります。ガブテックが主に行政運営の効率化とサービス向上を目指すのに対し、シビックテックは、自治体が抱える課題を地域住民が主体となって、行政と共に解決していくことを指します(シビックテックについては、こちらの「デジタルトランスフォーメーションを考える(10)~行政と市民の共創社会をつくるシビックテックとは~」をご参照ください)。

 

海外におけるガブテックの事例

ここ数年、世界各国でガブテック分野のスタートアップ企業が注目を集めています。アメリカではGovTech Fundというガブテック専門のベンチャーキャピタルが登場し、地方自治体の業務を効率化するSaaSスタートアップを中心に積極的に投資活動を行っています。日本と同じくアメリカでも、行政機関の多くが日々煩雑な業務を行っており、レガシーシステムのメンテナンスに高額な予算を費やす状況ですが、政府が行政のデジタル化に力を入れ始め、スタートアップが進出しやすい空気が生まれているようです。GovTech Fundの出資企業の一部をご紹介します。

 

SeamlessDocs

行政機関に特化したクラウド型業務アプリケーションです。PDFやワードの書類をアップロードすると、自動でWebフォームへと変換してくれます。電子署名や支払い、ワークフローなどの機能も統合されており、日々の事務作業を効率化します。

 

mySidewalk

地方自治体向けのデータ収集・分析、政策決定支援ツールです。アンケート機能のほか、さまざまなところに分散しているデータを集約し、財政の健全性・人種の多様性・住民の交通習慣・街の強み・住みやすさなど、さまざまな角度から情報を分析することで、意識決定の支援を行います。

 

SmartProcure

地方自治体の公共調達や支出データを収集・分析し、自治体の調達プロセスの改善、資金の節約、ベンダーの需要や価格の分析を支援するクラウドサービスです。日本では「縦割行政」という言葉がよく使われますが、アメリカでも行政機関ごとにデータが分散管理されており、例えば同じ自治体の警察署と消防署が同じ商品を、異なるベンダーから異なる価格で仕入れるというようなことが、よく起こるようです。同社のサービスを活用すれば、行政機関どうしで調達情報を共有でき、適切な価格で調達することが可能になります。同社のサービスはニューヨーク市などに導入されています。

 

AmigoCloud

位置情報データの収集・管理・分析・可視化・公開を支援する地理空間情報プラットフォームです。フィールドデータ収集機能により、道路・マンホール・下水管・公園の資産・交通標識などのインフラ情報をマッピングし、メンテナンスなどに活用できるほか、公共交通機関に関する情報も収集・分析することが可能です。地図技術を駆使して、固定資産税の計算・管理なども行うことができます。

 

Mark43

警察向けのクラウド型業務アプリケーションです。報告書の作成・犯罪の証拠品情報などの管理・911コールの最適処理・ワークフロー・分析などの機能を提供しています。マルチデバイス対応で、どこからでもリアルタイムに情報を確認することができます。

 

アジアに目を向けると、シンガポールでは既に9割の行政手続きがデジタル化されており、中国やインドでも急速に行政のデジタル化が進んでいます。中国の行政機関では、最近、人に代わって定型業務を行うRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が進んでいるそうです。RPAは検察・税務署などにも導入されており、検察の情報公開、記録確認、文書自動作成、税務署の督促、徴収報告などの業務に活用されています。

 

日本におけるガブテックの事例

日本でも少しずつ、ガブテックに取り組む地方自治体が増え始めています。

 

神戸市

ガブテック分野で先駆的な取り組みを行っているのが神戸市です。2018年には、スタートアップ企業と行政職員が協働でデジタルサービスの開発・実証を行い、地域課題を解決する「アーバンイノベーション神戸」プロジェクトを開始。2018年度は13課題について、8社の事業が国や市の予算化につながり、地域イベントの集客や業務改善で成果を出しました。

 

行政のデジタル化と優秀なスタートアップの誘致・育成を同時に行い、利便性の高い行政サービスを市民に還元するこの仕組みは、神戸市から全国へと広がろうとしています。2019年には日本全国の自治体の課題とスタートアップ企業をマッチングするオープンプラットフォーム、「アーバンイノベーション ジャパン」が開設されました。地方自治体の行政サービスをスタートアップ企業が担うという新たな流れが、本格的に生まれようとしています。

 

横浜市

横浜市は、新型コロナウィルスの影響などで売上高が減少している中小企業・個人事業主が有利な条件で融資を受けるために必要となる「危機関連保証制度」の認定申請手続きを、全国で初めてオンライン化しました。このオンライン申請アプリケーションを提供しているのが、ガブテック分野で注目を集めている株式会社グラファーです。グラファー社はこのほかにも、多数の自治体に向けて、転出入・結婚・出産などで必要な手続きをスマホで簡単に検索できるサービスなども提供しています。

 

市川市

市川市は2019年7月にLINEを活用した情報サービスを開始しました。LINEで住民票の写しなどを申請したり、LINE Payで健康保険料や保育園・幼稚園の保育料を支払ったりすることができます。情報提供サービスにはチャットボット開発スタートアップ、モビルス社のシステムが使われています。市川市は2020年4月に「DX憲章」を公表し、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みについての明確な指針を掲げました。今後人口が減少し、多くの自治体に危機が訪れることが予想されます。デジタルトランスフォーメーションに積極的に取り組むかどうかが、自治体の生き残りに大きく関わってくるのではないでしょうか。

 

官民の壁を越えて、新しい行政サービスを創出する

行政のデジタル化では、単に業務効率を高めるだけではなく、ユーザーの目線に立ち、これまでに存在しなかった新しいサービスを生み出すことができるかどうかがポイントになります。そのためには、いかに官と民の壁を越えて効率的にデータ連携したり、サービスを融合させたりできるかが、大きな鍵となります。アメリカ・シンガポール・イギリスなどでは、ガブテックを推進するための専門組織を設置し、官民の人材が一緒になって、企画からサービス構築までを一貫したチームで推進しています。またデンマークでは政府外に専門組織を立ち上げ、政府と協力しながらガブテックを推進しています。日本では、2018年に経済産業省が「DXオフィス」を立ち上げました。官房長をDX室長とし、政策に詳しい担当職員と民間出身のCIO補佐官が一緒になって、プロジェクトの企画から推進までを担っています。

 

ガブテックは、政府や自治体などにおいては業務の効率化や合理化、企業にとっては新たなビジネスモデルやサービスの創出、市民にとってはサービスの質向上という好循環を生み出す大きな可能性を秘めています。日本でも今後、法律の改正や規制緩和などによってさらに盛り上がっていくことが期待されます。政府の取り組みはもちろん、先進的な地方自治体の挑戦にもぜひ注目してみてはいかがでしょうか。