デジタルトランスフォーメーションを考える(10)〜行政と市民の共創社会をつくるシビックテックとは〜

「シビックテック」って、一体なに?

全国の都道府県で次々と新型コロナウィルス感染症対策サイトが立ち上げられているのをご存知でしょうか。発端となったのは、3月4日に東京都が公開した「新型コロナウィルス感染症対策サイト」です。従来の自治体サイトのイメージを覆す洗練されたデザインで、都からの最新のお知らせや検査実施数の推移や陽性者数の推移、陽性者の属性が一目見てわかります。同サイトは、オープンソースの仕組みを使って構築されたことで、大きく注目されました。

 

オープンソースとは、ソースコードが公開されていて、誰もが自由に利用・修正できるソフトウェアを指します。東京都のサイトも、外部の協力者による様々な課題共有や改善要請を受け、日々驚くほどのスピードで機能が改善され続けています。公開直後には、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏が、サイト修正案のコメントを入れてくれたことなども、SNS上で話題となりました。

 

東京都は、このサイトの設計図を全国の自治体へ無償提供しています。北海道神奈川県愛知県など全国各地で公開されている感染症対策サイトは、東京都のサイトをベースとして有志の市民エンジニアによって開発されました。三重県版は県内の高専生チームによって開発されており、国境を越えて台湾版もリリースされています。

 

今回、この東京都の新型コロナ感染症対策サイトを開発したのも“Code for Japan”という非営利団体です。東日本大震災における支援活動をきっかけに設立され、現在、全国各地で公認ブリゲードとよばれるコミュニティが、テクノロジーを活用した地域課題の解決に取り組んでいます。また、各自治体に市民エンジニアを派遣し、民間と行政が協業する場づくりなどの活動も行っています。

 

このように市民がテクノロジーを活用して行政や地域社会の課題を解決しようとする取り組み、いわゆる「シビックテック」が、今、世界中で盛り上がりを見せています。市民が活動の主体であること、また市民自らが地域にかかわる課題を発見し、ソリューションの開発・提供に取り組んでいることがシビックテックの特徴です。行政機関が民間事業者へ開発をアウトソーシングするという一方通行ではなく、市民と行政が対等の立場で地域の課題や資源を共有し、課題を解決するという新たな動きが生まれています。

 

さてシビックテックの重要な資源となるのが、政府や地方自治体、公共機関などが持つ公共データです。政府は現在、公共データを積極的に公開する「電子行政オープンデータ戦略」を推し進めています。「オープンデータ」とは、「政府や独立行政法人、自治体などが保有する公共データが、国民や企業などに利活用されやすいように機械判読に適した形で、二次利用可能なルールの下で公開されること、また、そのように公開されたデータ」を意味します。

 

政府は2013年にオープンデータ施策の一環として、データカタログサイト「Data.go.jp」を開設しました。これまで行政・公共機関の内部にとどまっていた多様で豊富なデータを無料公開し、市民・NPO・企業に二次利用してもらおうというのが、このサイトの目的です。これまでに各府省によって公開されたデータセットは2万6000件を超えました。このように、公共データを活用できる環境が整えられてきたことも、シビックテックが躍進する大きな要因となっています。

 

シビックテックの事例

シビックテックの事例をいくつか見ていると、日本におけるシビックテックの活動は、いくつかに分類できるようです。

 

まずは、市民エンジニアが、市民のためにボランティアで技術を提供して課題を解決する活動です。例えば、自治体別のゴミ出し情報アプリ5374.jpや札幌市の保育園空き情報を提供するさっぽろ保育園マップは、オープンデータを活用し、市民の生活や地域社会に有益な情報を効率的に提供することに役立っています。また、税金はどこへ行った?は、税金を納める当事者としての意識を高め、行政に積極的に参画しようという啓蒙活動の一つとして、ボランティアによって提供されています。これらは地域の課題解決を目指しているものの、行政に対して何かを働きかけるというよりは、市民による市民のためのサービスです。

 

もう一つは、市民エンジニアが行政サービスの改良や効率化を提案し、技術を提供する活動です。行政・研究機関・民間が連携した、シビックテックの成功事例として有名なのが、北海道の複数の自治体で活用されているヒグマ目撃情報共有サービス「ひぐまっぷ」です。北海道ではヒグマと人間がいかにうまく共存するかが、非常に大きな課題となっていますが、それまでは各市町村におけるヒグマの目撃情報管理は非常に煩雑で、目撃情報が道の研究機関に正式に共有されるまでにとても時間がかかっていました。

「ひぐまっぷ」も開発当初は、市民向けの情報共有サービスを想定していましたが、実は行政の実務効率化の方に高いニーズがあることが判明し、行政向けのサービスとして提供されることとなりました。「ひぐまっぷ」によって、市町村をはじめとする各行政機関の実務処理が劇的に削減され、研究機関や市民にもリアルタイムで出没情報が共有されるようになりました。またこのオープンデータを活用した派生サービスも広がっています。

 

また、テクノロジーを活用して、市民と行政が直接対話・協業するサービスも生まれています。千葉市の「ちばレポ」(ちば市民協働レポート)は、「道路が傷んでいる」、「公園のベンチが壊れている」などの地域インフラの不具合についての情報を、発見した市民が市の担当者や他の市民と共有する仕組みです。市民は自分のスマートフォンで現場の写真や動画を撮り、専用アプリを使って市の専用サイトに投稿します。スマートフォンのGPS機能によって位置情報が添付されており、市の担当者はどこでその不具合が発生しているかを地図上で迅速に知ることができます。投稿に対しては、市の担当者が対応を行うほか、場合によっては市民が自ら対応して解決を図る場合もあるようです。

 

シビックテックの最大のメリットは、政治や行政に関するさまざまな情報が「見える化」されることにより、それまで受け身でいることが多かった市民に当事者意識が生まれ、行政と市民の関係性が変わっていくことにあります。行政と市民が手を組むことで、多様化する地域のニーズにこと細かに対応することができ、また行政自身の業務削減・業務の効率化にもつながっています。

 

シビックテックの未来

アメリカではスマートシティに対する関心が高く、大都市を中心にスマートシティプロジェクトが進められています。オバマ前大統領が2015年に発表した「スマートシティ・イニシアティブ」では、「シビックテックの活動との協業ならびに都市間連携の構築」が主要戦略の一つとして掲げられており、スマートシティ構築の担い手としてシビックテックを取り込む必要性が明記されています。

 

日本でスマートシティというと、交通・エネルギー・ネットワーク環境などの「ハード」の部分が強調されることが多く、住民向け行政サービスや教育サービスなどの「ソフト」的な取り組みがスマートシティの文脈で語られることは、まだあまり多くありません。しかし、地域が直面する様々な課題を解決し、 持続可能な都市を構築しようとするのであれば、そこで暮らす市民の視点なしでは語ることはできません。IoTやAIなどの最先端のテクノロジーを使って地域社会を豊かにするためには、行政と市民の協業、つまりシビックテックの存在は欠かせないものです。

 

日本では、社会や地域の課題解決の中心は国や自治体で、市民はサービスを受ける側という印象がまだまだ強いですが、災害時には地域・市民が非常に大きな役割を担ってきました。今回の新型コロナウィルスの感染拡大をきっかけに、改めてシビックテックが注目されています。世界中が危機的な状況ではありますが、ここで得た経験や知識を生かし、これからの未来に向けて、行政と市民による共創社会が本格的に根づくことを期待したいものです。

 

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