第四回 工夫次第で意外な効果も IT企業における勤怠/工数管理の意義とポイント

前回までの記事で、勤怠管理の意義や管理すべき内容、勤務体系などについて見てきました。今回は、IT企業に特有の観点から勤怠や工数の管理の意義や、注意すべきポイントについて考えていきたいと思います。

 

 

 

IT企業における勤怠情報の意義① 原価の把握

 

勤怠管理はどの企業でも必須であることは前回述べた通りですが、IT企業において、勤怠管理は単なる社員の人件費把握や健康管理以上の意義を持ちます。それは、

人件費が、事業遂行における原価の大きな割合を占めるため、人件費を把握することで売上に関わる原価の把握につながる

という点です。

例えば、製造業の場合、主な原価となるものは製造するものの「材料費」でしょう。製造作業に携わる作業員の労務費も当然ながら原価に含まれますが、割合はそれほど大きいものではありません。

一方、IT業の場合、提供するものはソフトウェアや運用サポートのような無形のサービスです。例えば量販店で購入できるパッケージソフトウェアのようにCD-ROM等に収納されていると一見有形のようにも感じますが、製品価値の根幹はあくまでもCD-ROMに書き込まれたプログラムにあります。これらのプログラムやサービスを制作し、提供しているのはSEやプログラマー一人ひとりです。つまり、彼らに払う給料、つまり労務費が、売上に直接紐づく原価の大部分となるのです。

したがって、人件費計算の根拠となる勤怠管理は、売上に対する原価把握の指標としてなくてはならないもの、と考えることができます。

 

IT企業における勤怠情報の意義② 他社との勤務状況比較

 

企業単位で見た場合、エンジニアの需要は各企業が抱える案件の多少に依存するケースが多いです。特にSI業に従事している場合、大規模な元請開発を抱えている場合にはエンジニアがたくさん必要となりますが、それらが落ち着いた時には、エンジニアに従事してもらう案件がなくなってしまいます。このような背景もあり、雇用先の企業の垣根を越えて自社ではない元請企業のオフィス内でエンジニアが案件に従事できるよう、旧特定労働派遣事業を利用してエンジニアを派遣していました。もしくは、業務委託契約(主に準委任契約)を締結し、元請企業のオフィスに常駐して作業を行う場合もあります。社員の多くが顧客先に常駐して案件に従事する事業形態をとっている企業も少なくないでしょう。

この場合、顧客先に常駐している社員の勤務の様子を把握する術は多くありません。定期的に行うミーティングで、たまに所属企業に出社するけれども、実際の所属先と交流する機会はその時だけ、という社員も珍しくないのではないでしょうか。そんな中で、勤怠管理は見えなくなってしまいがちな実際の勤務状況を把握する重要な手がかりとなります。顧客先への常駐であっても、給与の支払いは所属企業が行いますので、勤務状況の把握は必須です。また、勤務時間という客観的な情報を基に、自社社員が従事している案件の状況を知り、他案件の状況と比較することで、場合によっては契約条件や、勤務状況の改善を求める交渉の材料としても活用することができます。

 

IT企業において勤怠情報をより意義あるものとするためには、どのような点がポイントとなるでしょうか。

 

原価把握としての勤怠情報-「工数」管理をあわせて行う

 

まず、勤怠情報をもとに原価管理を行う場合、どの売上に対して、どの社員のいつの勤務時間が、原価の指標として紐づくのかを考えなくてはなりません。収益を組織単位でのみ分析するのであれば、組織に所属する社員の人件費をそのまま組織の原価として見ればよいですが、IT業の場合に問題になりがちなのは、各組織内で従事する案件ひとつひとつの規模が大きく、ひとつ赤字になると会社経営に大きな打撃を与えかねないということがあげられます。また、所属部署が違うエンジニアが一つの案件に従事したり、一人のエンジニアが同一期間内で複数の案件に従事するケースが発生するケースも少なくありません。

この場合、原価を正確に把握するためには、「誰が、どの案件に、どの程度従事したか」という、単なる勤怠情報より更に細かい単位での時間把握をする必要があります。このような作業時間の任意の単位への割り振りを「工数管理」と呼ぶこともあります。

したがって、勤怠管理と工数管理を効率よく行うことが重要となります。勤怠管理と工数管理の関わりについては次回の記事で詳しく述べます。

他社との勤務状況比較としての勤怠情報①-顧客先への正確な出退勤時間の把握

 

また、顧客先に常駐するエンジニアが多い企業の場合は、主にふたつの課題を抱えているケースが多いです。

ひとつめは、出退勤の時刻を厳密に把握できないという課題です。

自社ではタイムカードなどで管理している出退勤の時刻が、顧客先にはタイムカードがないために月一度送られてくる勤務表を通してしか出退勤時刻を把握できない。出退勤時刻の信憑性にかけるといった悩みや、勤務状況をリアルに把握することができないといった悩みを口にされる企業は多いです。自社社員の出退勤管理のみを目的として顧客先にタイムカードなどの機器を設置できるケースは少ないですし、ひとりひとりに電子端末をもたせたり、自社が使用する勤怠管理システムを顧客先で利用させようとしても、電子端末の社内持ち込みを禁止していたり、使用端末にアクセス制限がかけられている場合も多いです。

会社支給の電子端末で、顧客先の建物に入る前後で勤務状況を確認するなど、金銭的に余裕のある企業なら対応策もなくはないですが、ある程度は出てくるデータを信じる「性善説」的な対応を余儀なくされることが多いでしょう。

 

他社との勤務状況比較としての勤怠情報②-異なる勤務体系による勤怠情報の保持

 

また、顧客先に常駐する社員の勤務体系は自社の勤務体系ではなく顧客先の勤務体系に則るケースも少なくありません。この場合、「勤務体系は顧客先にあわせたものを使用するけれど、給与の支払いを行う上では自社の勤務体系を考慮する」必要が出てくるため、自社の勤務体系だけではなく顧客先の勤務体系も把握し、それぞれの勤務体系に則った形での勤怠情報を保持する必要があります。したがって、どうしても同一期間における同一社員の勤怠情報は二重になってしまうのです。

例えば、定期ミーティング等で所属企業に出社する場合、顧客先の勤務時間としては反映されない可能性があります。しかし自社における勤務時間には間違いありません。したがって、顧客先で把握される勤務時間と自社の勤務時間がずれることになります。

また、顧客先と自社企業に休日日数のずれがある場合、自社において休暇を取得する扱いとする必要があったり、逆に自社において休日出勤扱いとするケースもあるでしょう。

 

 

勤怠管理のシステム等では、複数の勤務体系を保持し、管理できるツールも多くあります。しかし、各社によってすり合わせの方法が異なる以上、自社独自の運用に完全に対応できるケースは稀です。最終的には微調整なり、システムの改修なりが必要となるケースが多くあるのです。

 

いかがでしたでしょうか、義務として定められている勤怠情報が、収益を判断するための原価情報や、自社だけでなく他社との勤務状況などとの比較として活用できる可能性について、IT業に特有の事情から述べていきました。しかし、上記の用途で勤怠情報を活用するには仕組みづくりが必要です。本記事で整理したポイントが、勤怠管理方法の見直しに一役買うことができれば嬉しく思います。