いよいよ実現?電子マネーによる給与支払いの概要と実現時のポイント

給与支払いが、銀行口座への振込ではなく「paypay」や「LINEペイ」「楽天ペイ」などの電子マネーで行われる…そんな時代がいよいよ現実味を帯びてきました。

この春にも、企業の給与支払いを電子マネーで行うことができるように政府内で調整を行っていることが、2021年1月27日付の日本経済新聞記事にて報じられました。実現には関係する省令の改正が必要ですが、2021年3月末にも実施し「電子マネー支払い解禁」とする方針のようです。

今回は電子マネーによる給与支払いの意義や概要、実現する場合のポイントを主に規制面からみていきます。また電子マネー支払い実現時にサービスを手掛けることとなる資金移動業については、関連する法律に改正がありましたのでそちらも紹介します。

電子マネーによる給与支払いはかねてより議論されており、2019年時点での情報をもとにした記事(「月1、口座払い」は当たり前ではなくなる?電子マネーによる給与支払い解禁とは)もあわせてご覧ください。

 

電子マネー給与支払いの意義

電子マネーで給与を支払うことの意義は、利用者の利便性向上、外国人労働者に関連する社会問題の解決、キャッシュレス決済が普及することによるデジタル社会の推進などがあげられます。

従来のように銀行口座やクレジットカード等を経由することなく、給与を直接電子マネーとして利用できるようになることで、チャージ手数料や利用の手間が削減されます。利用者だけではなく事業者としても、銀行口座とのやりとりに発生する手数料を削減できます。

特に、外国人労働者は銀行口座の開設までのハードルが高く、銀行口座が不要な給与受け取り手段は大きな需要があります。また、郷里への送金も、銀行と比較して電子マネーでのやりとりの方が簡便かつ、サービスも充実すると見られています。

キャッシュレス決済が増加することで、各種決済データをより詳細に分析可能となり、それらを活用した新規サービスの創出が起きるなど、デジタル社会の推進が期待されます。また、新型コロナウイルス感染拡大防止という側面でも、キャッシュレス決済によりATMなどへの外出を不要とする、現金の受け渡しによる感染リスクを低減するなどの効果が期待できます。

電子マネー給与支払いの意義と期待される効果

電子マネー給与支払いの概要

では、具体的に電子マネー給与支払いはどのように実現されるのでしょうか。給与支払い方法は労働基準法で定められており、いわゆる現金で支払うこと(通貨払い)をはじめとした5つの原則があります。今日、給与支払いの方法として一般的な銀行口座への振込は、省令として例外的に認められているものです。電子マネーでの給与支払いを可能とするには、この省令を改正して、例外的に認められる支払い方法に電子マネーを追加することが必要です。労働基準法の管轄である厚生労働省からは、労働者保護の観点から以下のような課題が挙げられており、それらに対して具体的にどのような対策を行うか、規制を設けるかが焦点となっています。

 

資金保全

給与支払いが電子マネーで行われるようになると、今までの銀行に代わり、電子マネーでの決済サービスを提供する企業が給与支払いを手掛けるようになります。このような企業は資金移動業者と呼ばれます。銀行とは資金保全のルールが異なるため、万一資金移動業者が破綻した場合などに、預かっていた資金をいかに補償するかが課題となっています。現行の仕組みでは、破綻時の預り金返還に約半年かかるとの指摘もあり、いかに早期に返還する仕組みを構築するかも焦点になります。

 

不正引出し等への対応

現行の電子決済サービスでは、それらを悪用した不正出金の例が報告されており、セキュリティ面の安全確保が課題になっています。多くの会社員にとっての主な収入源となる給与という資産を扱うにあたって、安全面への対応は必須かつ急務です。また、アカウント乗っ取りなどによる不正出金が発生した場合の補填についても指針の検討が必要です。

 

換金性

給与は通貨(=現金払い)が原則であることから、電子マネーを現金として適時に出金できるべきとの指摘が上がっています。資金移動業者から提供されているサービスに現金出金が可能であるものが少ないため、現金出金を可能とするサービスの整備と、出金時の手数料を月1回以上は無料とするなどの対応案が検討されています。

 

本人確認の体制など

不正出金とも関係しますが、厳格な本人確認等、賃金支払業務を適正かつ確実に行うことができる体制を有していることが必要と指摘されています。

 

資金移動業者の規制に関する法律改正と電子マネー給与支払いの関係

電子マネーでの決済サービスを提供する企業は資金移動業者と呼ばれ、主に資金決済に関する法律(以下、資金決済法)によって定義・規制されています。資金決済法は2020年6月に法改正がありました(施行日未定)。主な内容としては以下の通りです。

 

少額類型(決済額~数万円)と高額類型(決済額100万円~)の創出、およびそれぞれに対する適正な規制

少額類型は日常的に利用するキャッシュレス決済の金額(~数万円程度)を取り扱う資金移動業となります。資金保全の方法について、現行の方法に追加して預金での保持も認められており、資金移動業への新規参入における障壁を下げるものとなっています。

一方、高額類型は、海外への高額送金などの需要をうけて創出される類型です。認可制を採用して現行の資金移動業よりも参入障壁を高くするほか、具体的な送金意図がある場合にのみ資金を受け入れ、直ちに送金することにより、資金移動業者に資金が滞留することを防ぎ資金喪失や送金遅延などのトラブル防止を図ります。

現状の資金移動業の枠組みは中間の類型として継続されます。ただし、預り金が100万円を超える場合に、具体的な送金が決まっていない預り金の払い出しを求めるとしています。

 

各類型と規制内容(金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律説明資料を参考に筆者作成)

利用者資金の保全規制を変更

保全対象金額の計算方法をよりはやくすること(週単位で保全対象額を計算→可能な限りタイムラグを縮小)や、現在認められている保全方法を組み合わせ可能とすることによる保全の柔軟化により、利用者保護や規制対応コストの削減を図ります。

 

各類型の特徴から、今回のテーマである給与のデジタル払いに関わる資金移動業者は、現行類型の枠組み内で行われるのではないかと筆者は考えています。ただし、送金意図のない預り金を長期にわたって保持することはできないため、銀行口座の預金のような役割は持たないでしょう。給与受け取りの入り口が銀行口座から電子マネーに切り替わり、そこから利用目的に応じて給与を配分する形が考えられます。

ただし給与の全額を電子マネーとして受け取るのか、一部を電子マネーとして受け取るのか等も未定です。給与の受け取りから決済その他の利用をどのように進められるのかは、利便性の上でひとつ鍵になりそうです。

また、資金保全については、法律上求められるものに追加して、労働者および資金移動業者の間に保証会社を挟んだ対応などが検討されています。安全性を考える上で、これらの実際の対応についても注視が必要です。

 

キャッシュレス社会推進の一歩となるか 今後に注目

給与の電子マネー支払いが解禁されるにあたって、具体的にどのような形となるのか、まだ不確実な部分が多くあります。現行の電子マネー決済サービスも、現金引き出しや預り金規制などに対応するべく、少なからずサービス変更されるはずです。電子マネーでの給与支払いを利用する企業の割合も現時点では予想がつきません。

ただし、日本のキャッシュレス社会推進の大きな一歩となりうることは確かです。2021年、いよいよその一歩が踏み出されるのか、今後の動きに注目したいと思います。

 

参考:

■一般社団法人Fintech協会「給与のデジタル払いが実現する社会」記者説明会資料(2021年1月28日)
https://fintechjapan.org/news/5777/

■厚生労働省 第165回労働政策審議会労働条件分科会「資金移動業者の口座への賃金支払について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000728200.pdf

■金融庁 「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律(令和2年3月6日提出、令和2年6月5日成立)」説明資料
https://www.fsa.go.jp/common/diet/201/01/setsumei.pdf

 

※本記事の正確性については最善を尽くしますが、これらについて何ら保証するものではありません。本記事の情報は執筆時点(2021年2月)における情報であり、掲載情報が実際と一致しなくなる場合があります。必ず最新情報をご確認ください。

筆者プロフィール

Ren.
Ren.ビーブレイクシステムズ
ERP「MA-EYES」RPA「WinActor」をはじめとするITツール営業担当。好きなお茶はジャスミン、お酒はハイボール、ロシア産飲料はウォッカではなくクワス。

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