第十回 準委任、派遣…IT業特有の課題も 外部に常駐する社員の勤怠管理における課題と対応

IT業に従事していると、自社で雇用されているシステムエンジニアが、顧客先(現場)に常駐して仕事を行うケースがよくあります。この場合、雇用先と実質上の勤務先が異なるため、労働時間管理に手間がかかるという声をよく聞きます。特にIT業の外部常駐は、プロジェクトや担当する要員によって契約形態が異なる、顧客先だけでなく雇用先での作業が発生する場合があるなどの理由で、管理が複雑になりがちです。

本記事では、特にIT業で外部常駐している社員の勤怠管理について、課題や対応をみていきたいと思います。

 

外部常駐と勤怠管理の関連性

 

先日の記事で、IT事業における契約の種類について説明しました。どの契約形態でも外部常駐はありえますが、外部常駐になる契約形態は、基本的に準委任契約か派遣契約です。

準委任契約の場合は特に、システムエンジニアの能力を契約対象とするSES(システム・エンジニアリング・サービス)契約を締結して顧客先に常駐するケースが多く見受けられます。

 

SES契約も、派遣契約も、「要員の作業量に応じて売上が発生する」契約形態です。基本的には作業量は作業時間に換算されます。一方で、要員の作業時間は、自社社員の「労働時間」であり、給与支払いや体調管理等のために正しく把握する必要があります。つまり、労働時間は、契約に基づいた売上(請求)額と、給与支払額の、2つの金額根拠として使用されます。

 

外部に常駐している社員の勤怠管理における課題と対応

 

外部に常駐している社員の勤怠管理にあたって、注意すべき点とはどのようなものでしょうか。以下、主な課題とその対応策を見てみましょう。

 

1.勤怠情報の正確性担保と集計負荷

外部常駐の社員は、基本的には一日中、顧客先で作業をしています。複数人で同一の顧客先に入り作業をすることもありますが、ひとりで顧客先に常駐していることも珍しくありません。そのため、勤怠情報をきちんと登録しているかどうかを管理することが難しいです。

 

自社であれば、入力漏れや、入力情報が実態と乖離していないか確認するため、タイムカードや勤怠管理システムを導入する、PCログから実労働時間を把握するなどの対策をとることも可能ですが、顧客先ではそのような方法をとることも現実的ではありません。

 

1への対応

まず、日々の勤怠情報入力を徹底させることが必要です。勤怠情報を日々忘れず、簡易的に入力できる仕組みを用意したいものです。

しかし、例えば自社で勤怠管理システムを導入していても、顧客先から自社内で利用しているシステムにアクセスすることは難しいことがあります。その際には、勤怠入力機能のみを切り離し、例えばスマートフォンなど、PC以外のデバイスからでも勤怠情報を入力できるようにすると、よりタイムリーな入力が可能です。

 

イメージ画像(スマートフォンでの勤怠登録)

 

また、勤怠情報の入力は、汎用性が高く扱いやすいことから、システム化せずにExcel等で入力させている企業も多いです。この場合、勤怠情報を集計する負荷が高くなりがちです。Excel管理を残したまま、集計作業の負荷を軽減するためには、例えばシステムに一括取込できる形式で各社員に勤怠情報を入力してもらい、担当者は情報取込をするだけでシステムに情報登録ができるような仕組みを構築するなどの対応策を考えることができます。

 

2.「請求」「支払」の目的に合わせた勤怠情報の調整

先程みたように、SES契約や派遣契約の場合において、勤怠情報は「給与支払い」と「顧客先への請求・売上」という2つの目的に使用されます。しかし、社員が入力する勤怠情報を、そのままこの2つに使用することはできません。「給与支払いのために必要な勤怠情報」と「顧客への売上(請求)のために必要な勤怠情報」は厳密に言えば異なるため、管理や調整が必要だからです。具体的な管理および調整内容を以下でみていきましょう。

①顧客先ごと勤務体系

外部常駐の社員は、基本的には顧客先の勤務体系に合わせて勤務するため、勤怠情報も顧客先の勤務体系に合わせた形で登録および管理するケースが多いです。しかし、顧客先によって、例えばA社は9:30~18:00、B社は10:00~19:00、C社はコアタイム10:00~15:00のフレックス勤務など、勤務体系は異なります。また、顧客先の勤務体系に合わせず参画しているプロジェクト独自の作業時間管理を行うこともあります。

したがって、顧客先の勤務体系やプロジェクトの作業時間管理方法を把握し、どの顧客先のどのプロジェクトでどの社員が勤務しているか、その顧客先やプロジェクトはどのような勤務体系や作業時間管理方法になっているかという情報を、それぞれの勤怠情報と紐づけて管理する必要があります。

①への対応

顧客先での勤務体系は顧客先(正確にはプロジェクト単位)の契約に依存するので、「Aさんは顧客先Xの勤務体系」「Bさんは自社の勤務体系」「Cさんは顧客先YのWプロジェクトの作業時間管理方法」といった形で、複数の勤務体系や作業時間管理方法を人ごとに紐づけて管理できると良いです。

②顧客へ請求できる勤務時間と自社の給与支払いにのみ反映される勤務時間

「給与支払いのための労働時間には含まれるが、顧客先に請求することができない勤務時間」が発生することがあります。

例えば、外部常駐社員も含めた全社員に対して月に一度、自社で行われる会議へ出席を要求する場合、自社での勤務時間となるため給与が発生する労働時間ではありますが、顧客先プロジェクトの作業に従事している時間ではないため、顧客先へその労働時間分の作業費用を請求することはできません。

 

このように、同じ「労働時間」であっても、請求根拠としての労働時間と給与計算根拠としての労働時間は分けて集計する必要があります。

②への対応

顧客先に請求可能な勤務時間と自社給与にのみ反映される勤務時間を一つの勤怠情報を用いて管理するには、工数管理の考え方が利用できます。

労働時間は一日の総労働時間で登録した上で、顧客先に請求可能なものと、自社給与にしか反映されないものとに作業時間を分配するような仕組みを作ると、一つの勤怠情報から請求根拠となる作業時間と、自社給与の支払い根拠となる作業時間を算出できます。

 

イメージ画像(顧客先に請求可能な勤務時間と自社給与にのみ反映される勤務時間の管理)

③自社の就業規則に合わせた勤怠情報の調整

集計された勤怠情報を自社の就業規則に照らして調整する必要があります。勤務時間は顧客先の勤務体系に合わせていたとしても、給与支払いは自社で行われるため、自社の就業規則に合わせた形で各勤怠情報を調整しなくてはなりません。

例えば、自社での所定労働時間は9:00~18:00の8時間だが、顧客先は9:30~18:00の7時間30分であるという場合には、給与計算時には差分の30分を調整する必要があります。

③への対応

先の2つの管理によって、自社での給与支払い根拠となる作業時間は算出できているはずです。自社の就業規則に照らして勤務時間をどのように調整するかのルールを定めておけば、最終的な給与計算が可能となります。

 

3.現場の実態を把握する

勤怠管理には、社員の健康面や安全面などを管理する意味合いも含まれます。また、契約条件にもよりますが、労働時間が売上(顧客にとっては支払い)に直結するため、自社にとっても顧客にとっても、実際の現場がどのくらいの忙しさなのか、といった実態の把握が重要です。

 

しかし、作業場所が離れている分、担当しているプロジェクトが忙しい、残業が多い、などの現場の実態は自社以上に見えなくなります。例えば、月に一度、勤務表を回収してはじめて労働時間がわかるという状態だと、月中に月トータルの残業時間がどのくらいになるか、などの予測を立てることができません。

 

3への対応

実態を把握するには、当然のことながら、なるべくリアルタイムで勤怠情報を入力してもらい、作業時間を集計できることが望ましいです。集計がこまめに行われていれば、より早い段階で、超過勤務の多くなりそうな社員を特定できるため、注意喚起や現場状況の詳しいヒアリングなどを行う対策をとることができます。

 

しかしながら、外部社員の勤怠情報をリアルタイムに集計するには相応の手間がかかります。リアルタイム集計が難しい場合は、例えば月半ばや週ごとなど回数を決めて、自社に作業時間を報告する制度を設けるなどの対応が望ましいです。

 

4.契約条件と売上および給与の関係

顧客や案件/プロジェクトによって契約条件は様々です。IT業では、単なる「作業時間(量)×単価」ではない契約も多く発生します。この契約条件と作業時間によって売上が左右されるため、売上管理の観点からも勤怠管理が重要な役割を持ちます。

 

例えばSES契約の場合、「140時間以上180時間以内」などと月ごと作業時間の基準を設け、基準時間内に月の作業時間が収まっている場合は同一金額の売上(支払)として契約することがよくあります。

この場合、基準時間を超過した場合に支払われる単価(超過単価)を定めることが多いため、この基準時間を超過しないように作業時間を管理したいという要望が出ることがあります。

 

また、一方で、完全に月額固定で作業時間の超過は考慮しないといった契約条件になることもあります。

この場合、給料としては残業代を支払う必要があるのに、その残業時間分を売上として回収できないため、労働時間によってはプロジェクトの利益率を大幅に下げる可能性があります。

 

4への対応

契約条件は、案件や、常駐している要員によって異なるため、プロジェクトや担当する要員と契約条件を紐づけて管理することが望ましいです。顧客先への売上請求時に、勤務時間情報が必要となるため、契約条件と勤務時間情報の突き合わせがしやすいような仕組みを構築するとよいでしょう。

 

イメージ画像(プロジェクト情報、担当要員と契約情報の紐づけ)

 

管理の方法 まとめ

ここまで見てきたように、IT業における外部常駐社員の勤怠管理は、勤怠管理の本来の目的である給与計算や健康管理だけでなく、売上(販売)管理や、売上に紐づく契約条件の管理とも密接に関連するため、連動していると管理が楽になります。しかしながら、外部で作業をしていることから、労働時間や労働実態を把握しづらいという難点があります。各情報の関連性を以下にまとめました。

 

外部常駐社員の勤怠管理と他情報の関連性

 

本記事が、外部社員の勤怠管理を自社でどのように行うか、検討するための参考となれば幸いです。