飲食ビジネスに新たなチャンスをもたらす「ゴーストキッチン」とは?<デジタルトランスフォーメーションを考える28>

フードデリバリーサービスの進化系、ゴーストキッチンとは

コロナ禍でフードデリバリーの需要が急激に高まっています。3月にはUber Eatsや出前館などフードデリバリー各社による一般社団法人日本フードデリバリーサービス協会が設立され、配達におけるサービス向上および、商品の安全・衛生管理、配達員の雇用環境の整備などについての基本的な業界指針を定めることを発表しました。フードデリバリーが社会インフラのひとつになりつつあることが感じられます。

 

5,6年前までは、フードデリバリーといえば近所のお店に直接電話をかけて配達してもらういわゆる「出前」か宅配ピザ・宅配寿司などの宅配専門店しか選択肢がありませんでした。その後、Uber Eatsなどのデリバリーサービスが登場し、これまでテイクアウトメニューを提供していなかったレストランやカフェ、スイーツ専門店など、さまざまな飲食店の料理を自宅で楽しめるようになりました。さらにこれらデリバリー事業者は、飲食店の従業員ではなく個人の配達パートナーに配達を依頼するというビジネスモデルで、新たな雇用を生み出しました。そして最近、そこからさらに一歩進んだ飲食業界のビジネスモデルが注目を集めています。それがゴーストキッチンです。

 

ゴーストキッチンとは、デリバリーやテイクアウト専門の飲食業態です。店内に客席を設けず、必要なのは調理スタッフのみ。顧客からの注文はアプリで受けつけ、Uber Eatsなどのデリバリーサービスを利用して料理を届けます。日本語では「ゴーストレストラン」、「クラウドキッチン」などと呼ばれることもあります。レストランの名前は掲げているものの目に見える店舗がない、という意味で「ゴースト」と名づけられているようです。

 

ゴーストキッチンには色々な形態があります。宅配専用のシェアキッチンに各飲食店が食材を持ち込んで調理するスタイルもあれば、例えばハンバーガーショップをやりながら、調理設備の空き時間を有効活用して、宅配に特化したフライドチキン専門店を副業として運営するケースもあります。

 

Uber創業者のトラビス・カラニック氏が進出したことで注目の市場に

ゴーストキッチンは、Uber創業者のトラビス・カラニック氏が事業へ進出したことで大きな注目を集めました。カラニック氏はUber TechnologiesのCEOを辞任した後、不動産事業を展開するCity Storage Systemsを買収。同社の一事業であるシェアキッチンサービス”CloudKitchens”を本格的にスタートしました。

 

CloudKitchensが提供するシェアキッチンには基本的な調理設備やフードデリバリーサービスを提供するのに必要なシステムがすべて用意されています。顧客がUber Eatsなどのアプリから料理を注文すると、注文情報がキッチンに設置されたタブレットに送信されます。配達パートナーも自動で割り当てられるため、飲食店側は調理をして配達パートナーに料理を手渡すだけでサービスを提供することができます。新しく飲食店を開業したい人や個人経営のレストラン、フードトラックのオーナーなどは、CloudKitchensとサブスクリプション契約するだけで、少ない投資で新店舗を出店でき、新しい顧客を得ることができるのです。もちろんデータ分析サービスなども提供されます。

 

City Storage Systems社は、現在アメリカのみならず、インド・中国・英国などで空き店舗や休眠モールなどの割安な不動産物件を買いあげ、CloudKitchensの拠点にしようとしているそうで、ゴーストキッチン市場は今後、益々拡大していきそうです。また先述した通り、CloudKitchensはデリバリーサービスにおける調理以外のすべてのプロセスを担っています。ということは、CloudKitchensが飲食店の顧客や物流などに関するあらゆる情報を蓄積するということです。ゴーストキッチン事業から新たなビジネスモデルが登場する可能性も大いに考えられます。

 

ゴーストキッチンをめぐるさまざまな動き

さて、ゴーストキッチンはSNSやモビリティサービス、ロボットなど新しいテクノロジーと融合しながら、新たな飲食サービスのかたちを生み出そうとしています。いくつかの動きをご紹介します。

 

既存店舗を活用した「ゴーストフランチャイズ」も誕生

最近では、ゴーストキッチンならぬゴーストフランチャイズという言葉も生まれています。アメリカではYouTuberや有名アーティストなど影響力の大きい人がデリバリー専門の飲食店を立ち上げ、フランチャイズ展開するケースが増えています。専門店の商品の大きな特徴は、既存店舗のキッチンで手軽に調理できること。加盟店は特別な機器を導入する必要も店舗の看板を変える必要もなく、非常に手軽にオンラインデリバリーを始めることができます。冒頭にも少し書いたように、店舗に掲げている看板はハンバーガーショップでありながら、裏ではデリバリー専用のフライドチキン専門店でもあるということです。ブランドが表に出ていないという意味でゴーストフランチャイズと呼ばれています。

 

マイクロモビリティ事業者がゴーストキッチンビジネスに進出

電動キックスケーターや電動自転車のシェアサービス事業を欧米で展開するマイクロモビリティスタートアップHelbiz(ヘルビズ)がゴーストキッチン事業への進出を計画しているようです。モビリティ事業者が、自社の所有するデータやテクノロジーをどのように活用して、最適なフードデリバリーサービスを展開していくのかが、非常に楽しみです。

 

フードデリバリー事業者が調理ロボットスタートアップを買収

アメリカのフードデリバリーサービス大手DoorDash が、ベイエリアを拠点とするロボティクススタートアップChowbotics(チョウボティクス)を買収しました。Chowboticsが開発しているのは、さまざまな野菜・ドレッシングを組み合わせたサラダを60秒で作ることができるサラダ製造ロボットです。DoorDashは、すでに宅配ロボットを開発するStarship Technologiesとも提携しており、今後は調理から宅配まで、フードデリバリーサービスのあらゆる場面でロボットが活躍していきそうです。ちなみに、中国では複数の飲食店ブランドを扱う大型のシェアキッチンが増えており、衛生管理を徹底するために人手を介さずに調理できる調理ロボットの導入をはじめ、キッチンの自動化がかなり進んでいるようです。

 

今後も激変していくことが予想される飲食業のかたち

テレワークが働き方の一つのスタイルとして定着してきたように、数ある飲食スタイルの一つとして、フードデリバリーが今後も発展していくことは間違いないでしょう。これまでは、飲食店をオープンするにあたっては、店舗の立地条件や内装、料理人やホールスタッフの採用、メニュー開発などさまざまなことを検討しなければならず、決して簡単なことではありませんでした。しかしCloudKitchensのようなフードデリバリーサービスプラットフォーマーが登場し、料理以外のすべてを担ってくれるようになれば、非常に簡単に自分の店をオープンできるようになります。デリバリーであれば店舗の場所は関係ありませんし、インテリアもホールスタッフも関係ありません。料理ができる人さえいれば、簡単にお店を立ち上げることができるのです。さらにロボットが普及すれば、料理人さえ必要なくなるかもしれません。誰でも簡単に飲食業へ参入できるようになる一方、競争は激化し、生き残ることが大変になっていきそうです。レストランというリアルな「場」が持つ意味も、これから大きく変わっていくかもしれません。

 

IoTやAI・3Dフードプリンター・室内農業など、食をめぐるテクノロジーはどんどん進化しています。コロナによって加速した飲食サービスのデジタルトランスフォーメーション。今後の展開が非常に楽しみです。

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。

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