デジタルトランスフォーメーションを考える(14)~ウィズコロナ、アフターコロナのMaaSを考える ①〜

モビリティ革命の萌芽期を襲った新型コロナウィルス

多くの地域で新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が解除され、少しずつ自粛が緩和されようとしています。しかし、人との接触や移動を極力避けて生活しなければならない期間は、まだしばらく続きそうです。新型コロナウィルスは、社会のさまざまな側面に大きなダメージを与えています。とくに大きな影響を受けている業界のひとつが、人々の移動を担う、航空・鉄道・タクシー・バスなどの交通業界です。

 

2019年はモビリティ革命元年として、全国各地で実証実験が本格スタートしたところでした。国土交通省が2019年6月に公開した令和元年版交通政策白書は、「モビリティ革命~移動が変わる、変革元年~」をテーマとしており、交通の動向や交通に関するさまざまな施策を紹介しています。政府は2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」のなかで、自動運転やMaaS(Mobility as a Service)の実現を重要施策のひとつとして挙げており、日本の自動車・交通事業者の有力企業や多くのスタートアップ企業が、成長戦略としてこの分野に参入しています。そんななか、今回の新型コロナウィルスの感染拡大は、経済活動を活性化するのに不可欠な「人の移動」を極端に制限するものとなりました。これにより、多くの実証実験が停止に追い込まれています。

 

人の移動を便利にできるようなサービスを目指してきた交通業界は、「人が移動し、経済が発展する」というこれまでの価値観が大きく覆される「ウィズコロナ」・「アフターコロナ」の世界で、今後どのように発展していくのでしょうか。今回は、MaaSやモビリティ分野のデジタルトランスフォーメーションについて考えてみたいと思います。

 

そもそもMaaSとは?

MaaSとは、Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の略で、「マース」と読みます。” Mobility (モビリティ) “とは移動のことです。人々の消費行動が「所有から利用へ」と移り変わるなかで、あらゆるビジネスが製品からオンラインサービスへと進化しているというのは、デジタルトランスフォーメーションを考える(3)あらゆるものが「as a service化」する!でもご紹介しました。人々の移動も「所有から利用へ」ということで、MaaSを単なる自動車のシェアリングサービスだと考えている方もいるかもしれませんが、それは誤りです。

 

国土交通政策研究所(国土交通省のシンクタンク)の機関誌、PRI Review 69号(2018年夏季)では、MaaSを次のように説明しています。

MaaSは、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念である。利用者はスマートフォンのアプリを用いて、交通手段やルートを検索、利用し、運賃等の決済を行う例が多い。

つまりMaaSとは、鉄道・バス・タクシーなどの公共交通機関、自動車・自転車・電動キックボードなどのシェアリングサービス、オンデマンドの乗り合いサービスなど、移動にまつわるあらゆるサービスの検索から決済までを、一つのサービスとして利用できることを目指した考え方です。

 

スウェーデンのチャルマース工科大学の研究者は、MaaSのレベルを次のように定義しています。

出典:Jana Sochor他(2017)”A Topological Approach to Mobiity as a Service”, ICoMaaS 2017

レベル0:各移動手段のサービスがそれぞれ独立していて、統合されていない。
レベル1:情報は統合されている(複数手段を組み合わせた経路検索や時間・運賃などを調べることができる)
レベル2:予約・決済が統合されている(複数手段を組み合わせた経路検索・予約・支払いが1ステップでできる)
レベル3:サービス提供の統合(交通手段の組み合わせにかかわらず、一定区域内の交通機関をサブスクリプションモデルで自由に利用出来る)
レベル4:政策の統合(交通システムについての政策が統合され、国や自治体・事業者が一体となってサービスを提供する)

 

日本でMaaSが注目されている背景には、さまざまな社会課題があります。とくに深刻なのは、過疎化・高齢化による地方の公共交通の衰退です。過疎地域では、経営困難によるバスや鉄道路線が相次いで廃止されています。またタクシー・バスのドライバー不足も大きな課題となっています。またマイカー利用も、高齢者による自動車事故が多発していることや都市部での渋滞、環境への負荷などの問題を引き起こしています。今、自動車の次世代技術であるCASE ( Connected:つながる、Autonomous:自動運転、S:シェアリング、E:電動化)による事故・渋滞の防止やドライバー不足の解消とともに、MaaSは既存の交通インフラを変革し、社会課題の解決する手段として、大きな期待が寄せられています。

MaaSが実現されれば、利用者にとっては、検索・予約・決済がワンステップでできることで、各交通手段の利用が非常に簡単になります。都市部では、移動手段の最適化によって渋滞や混雑が緩和され、交通事業者にとっては、運営効率の向上やデータの蓄積・分析による精度の高い行動提案が可能になる、などのメリットがあります。

日本で利用できるサービスの多くが、まだレベル0、レベル1にとどまっています。レベル3のように月額制で一定地域内をあらゆる交通手段を使って自由に移動できるサービスが生まれたら、人々の生活や交通ビジネスは大きく変わりそうです。

 

海外での事例

MaaSの先行事例として最もよく知られているのが、2017年からフィンランドの・ヘルシンキで本格的なサービス提供が始まった「Whim(ウィム)」です。

Whimは、スマートフォンのアプリ上で目的地を指定すると、そこまでの最適な移動手段を見つけ出し、予約から決済までをワンステップで行うことができます。サブスクリプションサービスも提供されており、月額499ユーロ(約6万円)で一定地域内の公共交通機関やカーシェアリング・シェアサイクルなどを無制限に使用でき、タクシーも1回5kmまで使い放題です。その他、ヘルシンキ郊外まで利用地域を拡大した月額プランや週末だけ利用できるプランなども用意されています。

 

また、ドイツ・ベルリンでは2019年10月からJelbi (イェルビ)というサービス名のMaaSを本格展開しています。Jelbiはベルリン市交通局とリトアニアのスタートアップTrafi(トラフィ)社との共同事業です。このサービスが優れている点は、10以上の異なる交通機関・移動サービスが完全に統合されており、最初に免許証とクレジットカード情報を登録するだけで、地下鉄のチケット購入も配車サービスの予約・決済も全てひとつのアプリで完結できることです。

 

多くのMaaSアプリは、複数のサービスが統合されているといっても、予約・決済はMaaSアプリ内のリンクからサービス事業者独自のアプリに遷移して行わなくてはなりません。Jelbiがこのような利便性の高いサービスを提供できるのは、ベルリン市が非常に強いリーダーシップを持って、プロジェクトを進めていることが理由のようです。長期的には、渋滞情報や事故情報などをリアルタイムで取り込み、空いているルートを選択したユーザーにはインセンティブを与えるといった、交通の最適化サービスを展開することも視野に入れています。

 

MaaSからBeyond MaaSへ

さて日本では、MaaSへの取り組みだけではなく、MaaS×異業種など、海外にはないビジネスモデルも生まれ始めています。交通変革だけはなく、モビリティを軸にさまざまな社会変革を起こす動きはBeyond MaaSと呼ばれています。次回は、日本の事例とウィズコロナ、アフターコロナのMaaSについて、考えてみたいと思います。

 

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