勤怠管理の基礎知識(5)単純に見えて意外と様々?勤怠管理と工数管理の関係

 

工夫次第で意外な効果も IT企業における勤怠/工数管理の意義とポイント で、IT業における勤怠管理で工数管理を併せて行うとよい、ということをお話しました。今回は勤怠管理と工数管理について、その関係をもう少し掘り下げて見ていきたいと思います。

 

 

勤怠情報と工数情報の管理目的

 

勤怠情報と工数情報は密接に関係しますが、それぞれの目的は異なります。改めて各情報の管理目的をおさらいすると

 

勤怠情報…給与の支払い、健康管理

工数情報…(特に案件単位の)売上に占める原価の把握

 

と別れます。

また、勤怠管理は義務付けられていますが、工数管理は企業の管理会計に関わるデータのため、必ずしも行わなければならないものでもありません。しかし、企業の収益を把握する上で、原価情報の把握はとても重要ですから、実際には勤怠と工数を両方管理している企業は多いことでしょう。

 

勤怠情報と工数情報の関係性-整合性を取る場合と取らない場合のメリット・デメリット

 

わたしたちは勤務時間中、常に何かしらの作業を行っています。つまり、厳密に考えれば、勤務時間は何かしらの作業=工数の積み重ねの合計だ、と理解することが可能です。したがって、勤怠情報と工数情報の管理を考える際に、これらの整合性がとれるように=工数の合計が勤務時間となるように、管理している企業が多くあります。

一方で、工数と勤怠はかならずしも一致しなくてもよい、と考える企業も少なくないようです。それぞれどのようなメリットデメリットがあるか、見ていきたいと思います。

 

工数と勤怠を一致させる場合

工数の合計が勤怠と同一になる、という考え方です。9時に来て20時に帰った場合、9時から12時はAプロジェクト作業、休憩を挟んで13時から18時はBプロジェクト作業、18時から20時はCプロジェクト作業とする、といった管理方法が考えられます。または、9時から20時という勤務時間から、休憩時間を抜いた10時間という作業時間を、Aプロジェクト作業に3時間、Bプロジェクト作業に5時間、Cプロジェクト作業に2時間といった管理方法もございます。

この管理方法のメリットとして、下記が考えられます。

 

  • より正確な原価計算が可能となる

勤怠と工数が一致していますから、すべての勤務時間が何かしらのプロジェクト作業とひもづいています。どのプロジェクト作業にどれだけの時間を費やしたのかが一目瞭然です。それだけ、実態にもとづいた原価計算が可能になると考えられます。

 

  • 様々な切り口での分析が可能となる

原価推移だけではなく、どの時期に作業時間が長くなるか、残業はどのプロジェクトで発生しているのか、などの分析が可能になります。経営的な分析だけではなく、業務効率向上や作業分配の見直しなどにもデータを活用いただけます。

 

一方、デメリットとしては、下記が考えられます。

 

  • 入力が煩雑になる

勤怠情報に基づいて、勤務時間を何かしらの作業時間に割り当てる必要が出てくるため、特に1日に複数プロジェクトの作業を行っている場合はそれだけ入力の手間がかかります。厳密な情報であればあるほど、得られるデータも多くなりますが、あまりにも手間のかかる仕組みで勤怠および工数管理を構築してしまうと、現場の反発を招き、結果的に機能しないという事態につながりかねません。

 

  • 残業中に従事していたプロジェクト=残業原因プロジェクトとは限らない

これは、特に作業工数を作業開始時刻と終了時刻で厳密に管理するときに注意したいポイントとなりますが、たとえば先ほどの例であげたCプロジェクトの従事時間は18時から20時でした。この会社が定時を9時から18時と定めている場合、Cプロジェクトに従事していた時間は残業時間となります。しかし、「Cプロジェクトの作業が原因で残業した」かどうかはこのデータでははかることができません。なぜなら、5時間従事していたBプロジェクトの作業時間が本来であれば3時間で終わるはずだったから、結果的にCプロジェクト作業への着手が遅れた、といったケースが考えられるからです。このように、様々なデータとひもづけて管理をした場合に、データを読み違えるという危険性が発生しかねません。

勤怠と工数の管理目的は似て非なるものであるという点に注意する必要があるでしょう。

勤怠と工数を一致させない場合

続いて、工数と勤怠を一致させないパターンについてみてみましょう。工数と勤怠が一致しないパターンについては様々な粒度での管理が考えられますが、

「一人日や0.5人日といったように、人日単位やパーセンテージで管理する」

「作業ごとにかかった時間を入れるが、勤怠データとは一致させない」

などが一般的だと考えられます。

また、工数をプロジェクトではなく「各作業における進捗管理ツール」を利用して管理している企業も多くあります。

 

この場合のメリットは概ね下記のようになります。

  • 入力が比較的手間にならない

勤怠時間を連動させて厳密に作業時間を管理する必要がないため、比較的入力の手間がかかりません。作業員ひとりひとりに入力させずとも、管理者側で割り振ることも可能でしょう。また、作業進捗管理ツールを利用して工数管理を行っている場合には、作業報告と連動するため、より実際の業務ベースで工数が入力できます。

特に、そもそも「工数を管理する」という概念がなかった企業が工数管理を導入する場合は、まず工数入力を徹底することが課題となります。現場のエンジニアやプログラマーにとってみると、工数の入力は管理者に言われて行う余計な手間ととられてしまうケースも少なくありません。

また、各作業時間が丸わかりとなるため、仕事の速さ/遅さを指摘されることを恐れる社員もいるでしょう。こうした混乱を防ぐためにも、まずはより簡単な方法で工数管理を始め、勤怠との整合性を取る管理は次のステップとするのも選択肢の一つです。

 

一方、デメリットとしては下記が考えられます。

  • 厳密な原価計算ができない

入力者の主観によって工数をコントロールできてしまうため、本来の目的である「正確な原価計算」が果たせなくなる可能性があります。

よく聞く課題としては、「プロジェクトマネジャーやエンジニアが同期間に2つ以上のプロジェクトを担当している場合、赤字になりそうなプロジェクトの工数を黒字のプロジェクトの工数として計上してしまうため、実態に即した管理ができない」というものです。工数を管理する目的を今一度全体で共有し、より実態に近い工数入力がなされるよう徹底する必要があります。

 

より意義ある勤怠管理と工数管理を行うために

 

勤怠管理と工数管理を見直し、意義あるものとするには、まず次のことを意識するとよいでしょう。

工数管理における目的の確認、共有

勤怠管理は企業の義務ですので、基本的には管理体制は整えているでしょう。そして、勤怠管理の目的は「給与の支払い、および従業員の健康管理」と明確です。しかし、工数管理は義務付けられているものではなく、企業によって目的やほしい情報の粒度は様々です。「何のために工数管理をするのか」「目的の達成のために必要な工数管理の粒度はどれほどか」をしっかりと定めておく必要があります。目的が見えれば、自然と勤怠管理と連動させるべきか、させなくても問題ないかが見えてきます。

 

入力者の必要十分なトレーニング

工数管理の目的が見えたら、勤怠と連動させるさせないに関わらず、工数管理の基準の共有と入力指導をしっかりと行う必要があります。勤怠や工数のデータは現場の社員が入力することが普通です。工数管理の目的がしっかりと果たされるよう、特にはじめのうちはチェック体制を強固にするなどして、入力の精度を上げる必要があります。

目的にあったツールの選定

勤怠管理や工数管理を行うことができるツールは様々あり、安価に利用できるサービスをはじめとして、システム化もかなり進んでいます。しかし、各ツールによって得意不得意は様々あります。特に、「プロジェクトごとの原価管理を行いたい」という要望がある場合は、プロジェクトコードなどのプロジェクト情報を保持できるツールが必要です。また、日々の業務に追われる入力者の負荷を軽減できる仕組みを兼ね備えたツールが望ましいです。例えばスマートフォンなどで手軽に入力できるツールや、他ツールとのデータ連携ができるようなものは利便性が上がります。

 

いかがでしたでしょうか。勤怠と工数の関係は、単純なようでいて意外と捉え方によって様々です。ともすれば混同されやすい両者の整理と、管理方法の見直しのきっかけとなれば幸いです。

筆者プロフィール

Ren.
Ren.ビーブレイクシステムズ
ERP「MA-EYES」RPA「WinActor」をはじめとするITツール営業担当。好きなお茶はジャスミン、お酒はハイボール、ロシア産飲料はウォッカではなくクワス。

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