第三回 柔軟な働き方の第一歩 変則的な勤務体系と導入手続き

働き方改革を推進していくにあたり、より柔軟性の高い勤務体系を検討しようと考えている企業の方もいるのではないでしょうか。あるいは、勤怠管理への目が厳しくなっている昨今、すでに導入している勤務体系の運用の見直しが必要な企業もいるかもしれません。また、閣議決定された働き方改革法案に盛り込まれている脱時間給制度も気になりますね。今回は、通常勤務以外のそれぞれの労働時間制度の特長と、導入の際に必要な手続きをまとめました。

それぞれの制度のおさらい

それぞれの労働時間制度がどのようなものかは第六回 正しく理解できていますか?勤怠管理と勤怠管理の「義務化」でも少し触れましたが、改めてどのような制度かをおさらいしましょう。

 

フレックスタイム制度

フレックスタイム制度とは、出退勤の時間を労働者が決められる制度です。

1ヶ月以内の決められた期間の中で所定の労働時間を満たせば、仕事を早く切り上げる日と遅くまで残る日を、自分の裁量でコントロールできるため、労働者にとっては自分のリズムで日ごとの業務量や在社時間を調整できるメリット、使用者にとっては余分な残業手当を出さずに済むメリットがあります。社員全員が会社にいる時間を作るため、コアタイムを設ける企業も多いです。

一方、デメリットとしては「コアタイムまでに出社すればよい」と時間管理がルーズになること、出退勤の管理が煩雑になること、営業時間をコアタイム以前や以後にも設定している場合に突発的な顧客対応ができないといった点があげられます。

 

変形労働時間制

変形労働時間制とは、決められた期間の中で所定の労働時間を満たすように、日の所定労働時間を変更できる制度です。月初と月末に業務が多いなど、1ヶ月単位で設定する変形労働時間制と、1年の中に繁忙期と閑散期があるなど、1年単位で設定する変形労働時間制の2種類があります。先述のフレックスタイム制度との違いは、フレックスタイム制度は「出退勤時間を労働者が決められる」ことに対し、変形労働時間制は「時期によって所定労働時間が変わる」、つまり就業規則として所定労働時間が定められているという点です。

労働者にとっては時期による仕事の繁閑の実情にあわせてメリハリのある働き方ができる、就業規則によっては週休3日などを実現できるというメリット、使用者にとっては繁閑によって余分な残業手当を出さずに済むというメリットがあります。

一方、デメリットとしては特に繁忙期は所定労働時間が通常より長いため、常にオーバーワーク気味になる点や、変形労働時間制を採用している部署としていない部署がある場合に勤怠管理が煩雑化する、変形労働時間制を採用していない部署に引きずられて閑散期でも労働時間が長くなってしまう可能性がある点が挙げられます。

 

みなし労働時間制

みなし労働制とは、業務の遂行方法を労働者に委ねた上で、実労働時間に関わらず、所定の時間を労働したと「みなす」制度です。外勤のため正確な労働時間を把握できない営業職などを対象とした事業所外労働制、特定の専門業務を行う労働者を対象とした専門業務型裁量労働制、マネジメント業務を行っている労働者を対象とした企画業務型裁量労働制の3種類があります。極端なことを言えば、1時間のみ働いた場合でも※、12時間働いた場合でも、労働時間は予め定められた「8時間」ないしは「9時間」などとみなされ、給与計算もみなされた労働時間で行われます。※正確には「出社時間、退社時間は、業務を遂行する上での効率性や合理性で決められる」ため、1時間のみの労働は現実には実現が困難と想定されます。

労働者にとっては成果をあげていれば労働時間が少なくとも給与が保障されるために余計な労働が発生しないというメリット、使用者にとっては成果のあがらない労働者に対して余分な残業手当を出さずに済むというメリットがあります。

一方でデメリットとしては評価の基準となる「成果」の設定が難しいこと、オーバーワークになりやすいことなどが挙げられます。

 

脱時間給制度

現在閣議決定され、審議待ちの「脱時間給制度」についても見てみましょう。脱時間給制度は「高度プロフェッショナル制度」とも呼ばれており、みなし労働時間制の拡張版といえる制度です。みなし労働時間制の場合は休日出勤や深夜残業に手当がつきますが、脱時間給制度にはそれがありません。業務の遂行方法や労働時間をほぼ完全に労働者に委ねる制度です。

労働者にとってのメリットは業務遂行方法や業務時間をほぼ完全に自分の裁量で決められるようになることが考えられます。一方使用者にとっては、労働時間の多少に関わらず、完全な成果主義で支払う報酬を決定できるというメリットが考えられます。

一方でデメリットとしてはみなし労働時間制と同じく「成果」の設定の難しさやオーバーワークの問題が挙げられます。特に脱時間給制度の場合は深夜および休日の労働時間も割増賃金の対象外となるため、運用時に通常の労働時間では到底終わらないような業務量を与えられかねないというリスクがあります。

 

 

それぞれの制度の適用条件

 

それぞれの労働時間制度は、全ての労働者に無条件で適用できるものではなく、導入には一定の手続きが必要となります。また、適用可能な労働者には制限があります。また、適用可能な労働者に制限がない場合でも、妊産婦や育児、介護者への配慮等は必要です。

フレックス制

フレックス制は①就業規則への明記、②労使協定による規定が必要です。対象業務や対象労働者に関する制限はありません。

変形労働時間制

変形労働時間制は、①就業規則への明記②労使協定による規定③規定した就業規則および労使協定の所轄労働基準監督署長への届出が必要です。対象業務や対象労働者に関する制限はありません。

みなし労働時間制

みなし労働時間制は種類によって必要な手続きが異なります。

事業所外労働制

事業所外労働制は①就業規則への明記が必要です。みなし時間を、所定労働時間を超えて別途設定する場合は②労使協定が必要となり、さらに、設定したみなし時間が法定労働時間を超える場合は③労基署への届け出が必要となります。 対象業務は、「事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務」です。対象労働者に関する制限はありません。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は①就業規則への明記②労使協定による規定③労基署への届け出が必要です。また、対象とできる労働者の業務は、厚生労働省が定めた19業務のみです。

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は①事業場ごとの労使委員会設置②対象業務や労働者の範囲等必要事項の労使委員会での決議③労基署への届け出④対象者の同意が必要です。対象とできる労働者の業務は「事業運営に関する事項についての企画、調査および分析業務」となり、具体的な内容はそれぞれの労使決議によって定められます。

脱時間給制度

脱時間給制度は、①職務の内容および制度適用についての本人の同意(職務記述書に署名等する形)②導入する事業場の委員会で、対象業務・対象労働者をはじめとした各事項等の決議が手続きとして必要となる見込です。対象とできる労働者の業務は「高度の専門的知識等を必要とする」とともに「従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないとみとめられる」性質をもった業務とあり、金融商品の開発やディーリング、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務などが想定されています。また、対象とできる労働者は「書面等による合意に基づき職務の範囲が明確に決められている」「年収1075万円以上」の方に限られる見込です。

 

 

 

変則的な労働時間制度を適用する際に役立つツールとは

これらの変則的な労働時間制度を適用する場合にも、実労働時間を最低限把握することは必要です。労働時間によって残業時間が計算されるフレックスタイム制や変形労働時間制の適用労働者の労働時間管理は勿論のこと、労働者の健康を守る健康措置の実施のためにも、みなし労働時間制の適用労働者や、高度プロフェッショナル制度適用の労働者の労働時間管理は必要です。変則的な労働時間制度を適用されている労働者は、一日中オフィスで管理者の目の届く範囲にいるという人は少ないでしょう。こういった労働者の実労働時間を把握するには、勤怠管理ツールなど、何かしらのシステム化が有効と考えられます。

また、これらの変則的な労働時間制度を適用する際には、その場にいない社員との連絡ツールなどを充実させることも検討の余地があります。テレビ会議システムやチャットツールなど、「いつでも、どこでも」ストレスなく働くことができる環境整備に役立つツールが近年ますます普及し、また低価格化が進みつつありますので、まずは狭い範囲で試しに導入してみるのも一つの方法でしょう。

 

勤務体系を工夫して使用者と労働者の双方が満足できる運用を

 

自分の働きやすい時間に、働きやすい場所で働く環境を整えることができれば、生産性の向上につながり従業員の満足度を高めることにもつながります。一方で、運用を一歩間違えれば長時間労働の温床にもなりかねない諸刃の剣をもった労働時間制度もありますので、使用者と労働者の双方が満足できるような運用方法を考えていきたいものです。

実際に変形労働時間制を適用する場合には、東京労働局から各制度の適用の手引きが出ていますので、ぜひ参考にしてください。

東京労働局HP:https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/home.html