デジタル庁新設、社会と企業への影響について考える

2020年9月16日に、菅内閣が発足しました。菅内閣は規制改革や行政改革に力を入れており、その目玉として、デジタル庁という新しい政府機関を設立することが決定しています。デジタル庁の創設が決定したのは同年11月26日であり、検討段階から決定までのスピードは異例のものとなっています。このことからも、菅内閣がデジタル庁設立を政策の主眼としていることは間違いないでしょう。政府は現在、2021年秋までにデジタル庁の稼働開始を目指しています。

この記事では、新設されるデジタル庁について、現在わかっている概要の説明と、設立による社会、企業への影響について考察します。

 

なぜデジタル庁が必要なのか

菅首相は総裁選のときから、デジタル庁の設置を最優先課題と位置づけていました。
この強い推進の背景には、新型コロナウイルス禍の影響があります。4月20日、安部内閣下において、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として、国民に10万円の給付金が支給されました。このとき問題視されたのが、現金給付に伴う行政手続きの遅れや、組織間での連携不足でした。単純に効率の悪さが露呈しただけではなく、新型コロナウイルスが世界規模の問題であったため、行政のデジタル化が進んでいる海外との差が浮き彫りになってしまった格好です。
ITを活用した模範的な例としては、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏主導のデジタル防疫政策があげられ、テクノロジーの有用性を世界に知らしめました。一方で、日本は、2020年7月に国連が発表した「世界電子政府ランキング」において14位という結果であり、先進国として十分なデジタル化が進んでいるとはいえない状態です。
このような電子化の遅れている日本を変革するというのが菅首相の目標となっており、そのためにデジタル庁が必要であるというわけです。

また、日本は少子高齢化が大幅に進んでおり、生産年齢人口の減少が止まりません。こうした状況を放置していては、国力の維持、経済成長を見込むことはできません。外国人労働者の受入拡大や、高齢者の再活用等、様々な案が議論されていますが、根本的な解決のためには、労働者一人ひとりの労働生産性を高めつつ、新規に市場を開拓していく必要があります。

そのためにも、政府、企業のデジタル化が強く求められています。

 

デジタル庁は何をするのか

デジタル庁は、各省庁のデジタル化を牽引する司令塔としての役割が与えられることになります。具体的には、各省庁や地方自治体、行政機関の間でのデータのやり取りをデジタル化し、行政手続き全般のスピート向上を目指します。

これまでにも、内閣官房の情報通信技術総合戦略室や、経済産業省、総務省など各省庁のデジタル関連部局によって、デジタル化政策は取り入れられてはいました。しかし、これらはいずれも、いわゆる縦割り型の組織です。そのため、デジタル化の政策を進めるといっても、経済産業省は民間企業、総務省はマイナンバーカード、厚生労働省は健康保険証、など各々の管轄内でのみ実行しており、日本政府全体として、一元的にデジタル化が進むことはありませんでした。

こうした状態を解消するために、デジタル庁にはこれまで分散していたデジタル化政策の資金や人材が集約されます。そして、デジタル庁は内閣府の組織として設立されるので、各行政機関を主導することが可能となっています。

 

横割り改革の具体的な政策としては、各省庁の業務システムの統一が掲げられています。現在は省庁ごとに別のシステムを採用していますが、これを一括で置き換えるものと思われます。システムの統一が実現すればデータの規格、様式も標準化できるので、省庁間でのデータ受け渡しは大幅に効率化されることが期待できます。

 

他には、マイナンバーカードの取得を推進するとともに、運転免許証や健康保険証等、身分証として使用されている様々な規格を統合することも想定されています。また、民間人材をトップに据える予定で、最新の動向に対応していくという強い姿勢がうかがえます。民間人材は非常勤職員として募集しており、週3日勤務でテレワークや兼業も可能と、デジタル技術を活用した働き方改革を、政府自らが実践する場としても注目を集めています。

 

デジタル庁設立による社会への影響

行政のデジタル化が進むと、国民の生活にも大小様々な利点がもたらされることが予想されます。現在では役所での手続きをするために、業務時間の合間を上手く使う、などの手間をかけている方も多いと思いますが、今後それがオンライン上で済ませられるようになれば、社会全体の利便性は相当に高まるのではないでしょうか。

 

また、政府はデジタル改革関係閣僚会議において、行政サービス以外にも、ビジネスや医療、教育といった諸分野でデジタル化を推進すると言及しています。具体例では、田村厚生労働大臣は、現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のための特例措置として認められているオンライン診療を、恒久化するよう検討を進めるとしています。教育の分野では、萩生田文部科学大臣が、義務教育を受ける全生徒に対し、学習用のPCと高速ネット環境を提供するGIGAスクール構想を提唱し、教育現場へのICT導入を強力に推進するとしています。さらに、河野行政改革担当大臣は既に全省庁に対して、行政手続きに判子を使用しないよう要請しています。デジタル庁設立により、私たちの生活は相当に広い範囲で影響を受けるのではないでしょうか。

 

デジタル庁設立による民間企業への影響

デジタル庁の設立による影響は、生活だけでなく民間企業や、その業務システムにも影響を及ぼすことが予想されます。

あらゆる行政サービスがデジタル化することで、規制の緩和や統計情報の正確化、迅速化が期待できます。これらの恩恵を受けられる業界では、これまでよりも大きくアップグレードされた価値の提供が可能となるでしょう。

 

また、デジタル庁がモデルとなることで、デジタル化があまり進んでいない、中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が活性化することも期待できると思われます。業務システムのデジタル化が進むことで労働時間が浮き、その分を別の業務に回すことで、生産性向上、収益力強化を実現する企業が増えます。この流れが強まることで、日本経済全体が活発になるということも十分に考えられます。

 

行政手続きが効率化されることも、働き方改革に大きく貢献します。特に、デジタル化は時間・距離の制約を取り払ってくれますから、業務内容上東京にオフィスを構えざるを得なかったという企業は減っていくでしょう。こうして、昨今問題視されがちな東京一極集中が是正され、様々な企業、機関が地方に分散していくのではないでしょうか。

デジタル庁新設によってDX推進の流れが加速すれば、既存の業務スタイルを前提とした、いわゆるレガシーシステムからの脱却も進むことが予想できます。5GやAI、IoTのような基盤となるテクノロジーの研究に資金が投じられることで、それらを利用したキャッシュレス社会の実現や、高度な顔認証ソフト、多言語音声翻訳ソフト等の登場が期待できるでしょう。

 

おわりに

これまでお話ししたように、デジタル庁の新設によって、今後、日本では国をあげて急速なデジタル化推進が行われることが予想されます。これから到来するデジタル化の時代に対応するためにも、まずは現状の働き方や業務システムを見直し、できるところからデジタル化を検討してみてはいかがでしょうか。

 

※本記事の正確性については最善を尽くしますが、これらについて何ら保証するものではありません。本記事の情報は執筆時点(2020年12月)における情報であり、掲載情報が実際と一致しなくなる場合があります。必ず最新情報をご確認ください。

筆者プロフィール

田中 悠喜
田中 悠喜ビーブレイクシステムズ
営業部所属。ERPパッケージ「MA-EYES」の営業に携わっている。大のカラオケ好きで、ほぼ毎週行っている。

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