消費税法改正についての解説:法人に係る消費税の申告期限の特例の創設

2020年4月に、消費税法が一部改正されました。この記事では、改正項目の内、法人に係る消費税の申告期限の特例の創設について解説いたします。

概要

今回の改正により、「法人税の申告期限の延長の特例」の適用を受けている法人が、「消費税申告期限延長届出書」を提出すれば、その提出した日の属する事業年度以後の、各事業年度終了の日の属する課税期間に係る、消費税の確定申告の期限を1か月延長できるようになりました。

 

条件となっている、法人税の申告期限の延長の特例とは

法人税の申告期限は、原則として決算日から2か月以内となっています。しかし、2か月以内に申告できそうにない場合に限り、期限を延長できる特例が用意されています。この特例を受けられるのは、以下の1から5のいずれかの場合に該当する法人です。

1.定款等又は特別の事情があることにより、今後、各事業年度終了の日の翌日から2月以内にその各事業年度の決算についての定時総会が招集されない常況にあるため、申告書の提出期限を1月間(連結事業年度にあっては2月間)延長しようとする場合。

2.会計監査人を置いている場合で、かつ、定款等の定めにより、今後、各事業年度終了の日の翌日から3月以内(連結事業年度にあっては4月以内)にその各事業年度の決算についての定時総会が招集されない常況にあるため、4月を超えない範囲内で申告期限の延長月数の指定を受けようとする場合。

3.特別の事情があることにより、今後、各事業年度終了の日の翌日から3月以内(連結事業年度にあっては4月以内)にその各事業年度の決算についての定時総会が招集されない常況にあること、その他やむを得ない事情があるため、申告期限の延長月数の指定を受けようとする場合。

4.連結子法人が多数に上ること、その他これに類する理由により連結所得の金額又は連結欠損金額及び法人税の額の計算を了することができないことにより、今後、各連結事業年度終了の日の翌日から2月以内に法人税の連結確定申告書を提出できない常況にあるため、申告書の提出期限を2月間延長しようとする場合。

5.特別の事情があることにより、今後、各連結事業年度終了の日の翌日から4月以内に連結所得の金額又は連結欠損金額及び法人税の額の計算を了することができない常況にあること、その他やむを得ない事情があるため、申告期限の延長月数の指定を受けようとする場合。

(引用:国税庁 [手続名]申告期限の延長の特例の申請(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_12.htm))

消費税の申告期限の延長

消費税の申告は、法人税と同様に、原則決算日から2か月以内が期限となっています。ただし、前述した法人税の申告期限の延長の特例が適用されている法人は、今回の改正でそれに加えて1か月の猶予を得ることができ、合計3か月以内まで期限が延びることになります。

 

特例の適用を受けるには

消費税の申告期限の特例を受けるには、前提として、前述した法人税の申告期限の延長の特例が適用されていなければなりません。そのうえで、消費税申告期限延長届出書を提出する必要があります。気を付けなければいけないのは、延長が適用されるのはこの届出書を提出した日の属する事業年度以後となる点です。つまり、決算後に提出したのでは間に合わないので、延長を望む年度の課税期間内に提出しなければならないということです。

 

今回の法改正の目的

今回の改正によって、消費税の申告期限を3か月以内まで延長できるようになり、法人税の申告期限の延長の特例が適用されている企業における、消費税と法人税の申告書の提出時期のずれの弊害を是正することが可能になりました。

これまでは、法人税の申告期限の延長を受けた場合、法人税と消費税の申告期限に1か月以上のずれが生じていました。働き方改革関連法案の施行を受けて、申告期限のずれからくる事務負担を削減することによってビジネス環境を改善し、企業の生産性の向上・働き方改革の推進を図ることが今回の改正の目的となっています。

 

特例の適用開始時期

この特例は、令和3年3月31日以後に終了する事業年度、または連結事業年度終了の日の属する課税期間から適用されます。例としては、課税期間1年、3月決算の企業の場合、令和2年4月1日から令和3年3月31日の事業年度から適用を受けることができます。12月決算の場合は、令和3年1月1日から令和3年12月31日の事業年度からです。

 

注意点

一見事業者にとってはありがたい改正ですが、注意しなければならない点もいくつか存在します。

  1. この特例の適用を受け、消費税の確定申告の期限が延長された期間の消費税及び地方消費税の納付をする際は、その延長された期間に係る利子税(遅延利息)を併せて納付しなければいけません。支出を抑えるために2か月以内で計算を終えて予納するか、猶予を得る代償に追加で税金を納めるかの選択をすることになります。
  2. この特例を受けたとしても、消費税の中間申告は通常通り行う必要があります。また、課税期間の特例(通常1年の課税期間を3か月ごとや1か月ごとに短縮する特例)を受け、短縮された課税期間に係る確定申告の期限は延長できません。
  3. 国、地方公共団体に準ずる法人の申告期限の特例の適用を受けている法人はこの特例の適用対象に含まれません。

 

今後の対応

今回の改正によって、法人税の特例を適用されている法人にとっては、確定申告に猶予が持てるようになり、働き方改革の一助となりました。特に、昨年度からは軽減税率の導入により、事業者によっては消費税の計算が複雑なっていたと思われるため、この改正を待ち望んでいた企業も多いのではないでしょうか。

業務上の対応としては、申告期限に関する社内規定の変更が必要になるでしょう。そのうえで、前述したように、延長した場合余分に税金がかかるため、社内の状況をよく見極めて判断を下す必要がありそうです。

また、今回の改正では消費税の申告期限の延長は1か月にとどまりましたが、法人税の申告期限は最大4か月まで延長できるので、法人によっては未だに期限のずれが解消できないままになっています。事務負担の削減を目的としている以上、今後消費税の申告期限が更に延長できるように改正される可能性も残されてはいると思われます。引き続き、消費税法には注目しておく必要がありそうです。

 

参考:

  • 国税庁 消費税法改正のお知らせ(令和2年4月)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/r02kaisei.pdf
  • 国税庁 [手続名]申告期限の延長の特例の申請 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_12.htm
  • 財務省 令和2年度税制改正要望(経済産業省) 消費税申告期限の延長の特例の創設 https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2020/request/meti/02y_meti_k_04.pdf

 

筆者プロフィール

田中 悠喜
田中 悠喜ビーブレイクシステムズ
営業部所属。ERPパッケージ「MA-EYES」の営業に携わっている。大のカラオケ好きで、ほぼ毎週行っている。

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