連結納税制度の見直しについて

2020年3月に財務省から、『令和2年度税制改正』が発表されました。
今回は、この改正の内、法人課税に関する項目の中から、連結納税制度の見直しについて解説します。連結納税制度は見直しの結果、グループ通算制度という、新しい制度に移行します。まずは、それぞれの制度がどういったものかを簡単に説明します。

 

連結納税制度とは

連結納税制度(現行制度)とは、企業集団全体をまとめて課税対象とする制度です。一体として計算した法人税額等は、親法人がまとめて申告します。適用を受ける企業集団は、集団内の個々の法人の損益を通算するなどのメリットを享受できます。

 

グループ通算制度とは

グループ通算制度(新制度)とは、企業集団内の各法人がそれぞれ法人税額などの計算をし、申告も個別に済ませる制度です。ただし、連結納税制度の利点であった、損益通算・税額調整といった要素は引き続き採用されます。

 

何故移行するのか

現行制度から新制度に移行する最大の理由は、企業の税会計作業における負担の軽減です。そのために、連結納税制度が実際のところどう評価されているのか、企業集団の経営にどういった問題があるかを調査し、簡素化等の見直しがされました。その結果、損益通算の基本的な枠組みは維持しつつ、移行することになったのです。

 

連結納税制度とグループ通算制度の違い

申告方式

両制度で根本的に異なるのが、申告方式です。現行制度は企業集団全体で連結法人税額を算出し、申告を行うのは親法人のみとなっています。この際、集団内の各子法人は自社分に値する額を個別帰属額として、国税庁に提出します。

これに対して新制度の場合、集団内の法人がそれぞれ法人税額を算出し申告します。

 

損益通算・税額調整等

損益通算とは、赤字の法人の赤字額を企業集団内の他の法人の黒字の額と相殺できる仕組みです。これにより納税額を抑えることが可能となっています。損益通算は現行制度の適用を受ける動機となっているため、この方式は制度移行後も引き継がれます。

また、研究開発税制(企業が研究開発を行っている場合、法人税額から、試験研究費の額に税額控除割合を乗じた金額を控除できる制度)、及び外国税額控除(外国で課税された法人税を日本の法人税から控除することによって、二重課税を排除するための制度)は、企業集団全体で税額控除額を計算することができます。これらについても、企業経営の実態を踏まえ、移行後も現行制度と同様となります。

 

組織再編税制との一貫性

現行制度を新規に受ける場合、もしくは適用を受けている企業集団に子法人が追加される場合には、納税単位が変わります。そのため新規に参加する法人は、保有する資産を適用前日の時価で評価します。そして、含み損益をその事業年度の損金、益金に算入する必要があります。また、子法人が適用前から繰り越している欠損金は、現行制度に持ち込むことが原則としてできない(繰越欠損金を切捨てなければならない)こととなっています。この規定の存在により、節税のための現行制度の適用を受けるために、節税の機会を放棄しなければいけないという、足枷がついたような状態となっています。

この問題をクリアするために、制度移行後は適用が始まる際の時価評価課税、繰越欠損金の持込み等が、組織再編税制と一貫性のある制度となります。組織再編税制とは合併や会社の分割等、組織の再編行為に関する課税を定めた制度です。この制度では組織再編行為を純粋な再編行為を適格組織再編、そうでない資産の売買に近いものを非適格組織再編に分類します。そして、適格の場合移転に対しての課税は行われません。

この改正により、時価評価課税に関しては、適格組織再編か否かの判定と同様の基準で判断されます。また、欠損金の切捨てについても、支配関係が5年を超えて続いているのか、事業に共同性があるのかによって判定が行われます。今までは株式の独占によって100%子会社とした場合には、必ず時価評価課税・欠損金切捨ての対象となっていました。それがこの変更により、条件に合致すれば対象とならなくなったのです。

 

親法人の適用開始前の繰越欠損金の取扱い

現行制度では、子法人が新たに適用を開始する場合、適用前の繰越欠損金は自己の所得の範囲内でしか控除できませんが、親法人にはこの縛りはありません。

翻って制度移行後は、適用を受ける前の繰越欠損金のうち、適用開始に伴い切り捨てることができなかった部分は、特定欠損金(その法人の所得の範囲内でのみ控除ができる欠損金)となります。親法人にもこの縛りが適用されるため、従来のように企業集団間での相殺はできず、親法人自身で所得を得るまで、控除ができなくなります。

この変更により、現行制度を受けるインセンティブとなる、制度適用開始前の親法人の繰越欠損金を相殺することによる節税効果が、移行後には享受できなくなります。

ただし、現行制度における親法人の開始前の繰越欠損金は、移行後は非特定欠損金という枠組みとなり、上記の縛りの対象となることはありません。そのため、もう現行制度の適用を受けているという企業は、制度が切り替わった後も、節税効果を継続して受けることができます。

 

中小法人判定の適正化

制度移行後は、企業集団内に大法人がある場合、中小法人に対する法人税課税の特例(軽減税率等)が適用されなくなります。

 

地方税

制度移行後の地方税については、各法人が申告・納税を行うという、現行の枠組みが維持されます。

ただし、地方税のうち、住民税の課税標準は法人税額、事業税の課税標準は所得金額とされています。そのため、法人税の計算結果から、損益通算及び欠損金の通算の影響を除いた金額に戻す調整を行うことになります。

 

適用時期

企業における準備等が考慮され、適用が開始されるのは、2022年4月1日以後に開始する事業年度からとなります。

 

その他の法人課税に関する変更点

令和2年度税制改正では、上記の制度移行以外にも、法人課税に関していくつか変更がありますので、それらについても簡単に紹介します。

 

オープンイノベーション促進のための税制創設

オープンイノベーションとは技術開発等の情報・成果を独占せず、他企業や研究機関と共有することで、社会全体のイノベーションを加速させようという考え方です。従来の特許性とは反対の方向を向いているといえます。

オープンイノベーションは社会全体でみれば有意義であり、導入を進めたいのですが、成果を独占することによるメリットを放棄することになるという側面もあります。そこで、一定のオープンイノベーション性のあるベンチャー企業の株を取得した際に、一部の金額を控除できるようになります。

 

投資や賃上げを促す措置

国内設備の投資額が一定以上であれば、税額控除を受けることができます。しかし、改正により、必要な投資額が増加することになります。控除を見返りとして、その分投資を促す狙いです。

 

5G導入促進税制の創設

特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(案)の規定に基づく、認定導入計画に従って導入される一定の5G設備に係る投資について、税額控除又は特別償却ができる措置が創設されます。これは安全性・信頼性が確保された5G設備の導入を促すことが目的です。

 

その他

・地方の本社機能を拡充する場合や、東京から地方に移転する場合等に税制等の支援措置を受けることができる、地方拠点強化税制が一部拡充されます。

・法人が、「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」に関連する寄附金を支出した場合に、一定の税額控除ができる、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の控除割合が引き上げられます。また、手続きの簡素化、高速化が図られます。

・資本金の額等が100億円を超える法人は、接待飲食費に係る損金算入の特例を受けられなくなります。

 

 

連結納税制度の見直しについて解説しましたが、いかがでしたか。移行まではまだ時間がありますので、会社として、グループとしてどう対応するのか議論を進めていきましょう。

 

参考:

財務省 「令和2年度税制改正」(令和2年3月発行)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei20.htm

財務省 「令和2年度税制改正」(令和2年3月発行)2 法人課税
https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei20_pdf/zeisei20_02.pdf

国税庁 グループ通算制度について
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/hojin/group_tsusan/index.htm

 

※本記事の正確性については最善を尽くしますが、これらについて何ら保証するものではありません。本記事の情報は執筆時点(2021年1月)における情報であり、掲載情報が実際と一致しなくなる場合があります。必ず最新情報をご確認ください。

筆者プロフィール

田中 悠喜
田中 悠喜ビーブレイクシステムズ
営業部所属。ERPパッケージ「MA-EYES」の営業に携わっている。大のカラオケ好きで、ほぼ毎週行っている。

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