デジタルトランスフォーメーションを考える(24)~SaaS時代の新たなトレンド「APIエコノミー」とは~

進化するAPIの役割

加速するデジタルトランスフォーメーションやコロナ禍におけるテレワーク導入を背景に、SaaSの普及が急速に進んでいます。そんななか、SaaS時代の新たなトレンドとして「APIエコノミー」という言葉が注目を集めています。アメリカでは、既に2015年のテックトレンドとして取り上げられており、APIを活用して新たなサービスを生み出したり、既存事業の実績を拡大したりするような事例が増えています。

 

APIとは”Application Programming Interface”の略で、アプリケーションやソフトウェアを連携するために使われるインターフェースの総称です。APIという言葉自体は古くからあり、もとは同一OS内でのアプリケーション同士を連携させる技術として生まれました。その後、2000年代半ばから、インターネットで通信するWeb APIが爆発的に普及し始めました。
Web APIの利点は、異なるOS・異なるプログラミング言語間でアプリケーションを連携させることができ、Webブラウザでも利用できる点にあります。Web APIの登場により、APIはシステムとシステムをつなぐ技術的なツールから、新たなビジネスを創造するツールへと進化してきています。

 

オープンAPIの事例

システムの接続仕様が公開され、第三者も利用可能なAPIを「オープンAPI」といいます。誰でもアクセスできるものや、一定の契約のもとでアクセス可能なものなど、公開レベルはさまざまで、無償で利用できるものもあれば、利用に応じた課金があるものもあります。オープンAPIを活用すれば、他社が提供する情報・サービスを自社のサイトやアプリケーションに組み込むことができ、高度なサービスを迅速にユーザーに提供できるようになります。

 

オープンAPIの代表的な例がGoogle Maps APIです。
Google Maps APIでは、Google Mapsで使用されている地図情報や位置情報、経路検索などの機能が提供されています。不動産会社における物件管理・運送会社での配送計画管理・顧客管理システムでの営業支援ツールなどにGoogle Mapsを連携させて位置情報や経路を表示したり、独自の地図を作ったりする事例も増えています。ちなみにGoogle Maps APIは無料で表示できる回数に制限があり、それ以上表示する場合は有償プランの契約が必要です。

 

金融業界ではオープンAPIへの取り組みが非常に積極的に行われています。なかでも、2016年にベルリンで設立されたソラリスバンクは、APIを活用したユニークな事業を展開しています。ソラリスバンクは銀行免許を保有していますが、個人向けの金融サービスは行っていません。銀行口座・電子マネー・決済・クレジットカード・融資を含むAPIプラットフォームを運営しており、金融サービスを行いたい企業に向けて、銀行機能を提供しています。ソラリスバンクのインフラを活用すれば、企業は銀行免許を取得することなく、自社の顧客に向けて金融サービスを提供できるようになるのです。

 

こういったFinTechの革新的な事例やオープンAPIを推進する世界的潮流のなか、日本でも2017年に銀行法が改正され、銀行に対してAPI公開の努力義務が課せられました。APIを積極的に公開することで外部企業と連携し、イノベーションを促進するねらいがあるようです。現在では家計簿アプリなどを提供するFinTech企業とAPI連携をする銀行が増えており、LINEを使った残高照会や入出金照会ができるサービスも普及しつつあります。

 

APIエコノミーとは

オープンAPIの普及により注目されているのが、APIでサービスを組み合わせて得られる新しい価値や商圏を生み出す「APIエコノミー」です。他社のAPIを活用したり、自社のAPIを公開することでマネタイズをしたり、既存ビジネスを拡大しようとする取り組みが始まっています。

 

配車サービスUberは、配車リクエストボタンを追加できるAPIを公開しています。例えば、ホテルやレストランの予約アプリにUberの配車ボタンをつければ、ユーザーは予約アプリ内でホテルやレストランまでの配車を頼むこともでき、別途Uberアプリを立ち上げたり、行き先を指定したりする必要がなくなります。
特徴的なのは、UberはこのAPIについて、アフィリエイトプログラムを提供しているという点です。APIを活用している企業は、配車リクエストを1件コールするたびに、Uberからバックマージンが支払われます。自社のアプリに簡単に配車サービスを組み合わせることができ、バックマージンも支払われるという利点からUberのAPIを活用する企業が増えれば、Uberは営業努力をしなくとも、利用者数を増やすことができます。また、自社だけではリーチすることができなかったユーザー層にサービスを広めたり、他社のアイデアによって「配車×○○」といった新たなサービスが生まれたりすることも考えられます。

 

もちろんAPIの公開は自社のデータやサービスを公開することでもあるため、リスクもあります。他社のAPIに対する依存度が高くなってしまうと、他社がビジネスモデルを変更したり、障害を起こしたりした場合に、思わぬ影響を受けることになります。セキュリティの課題も無視することはできません。APIで事業をどう切り出して他社に利用してもらうか、自社のビジネスのどこからどこまでを他社のAPIに頼るかについて適切に見極める必要はありますが、開発の効率化・事業拡大・新たなビジネスモデルの創造という点で、APIエコノミーは大きな可能性を秘めています。

 

最近では、さまざまなAPIの流通・取引を行う「APIマーケットプレイス」の需要も高まっています。
国内では楽天やKDDIがマーケットプレイスを運用しており、API提供企業とAPIを活用したい企業とのマッチングを支援しています。株式会社日本能率協会総合研究所の調査は、2024年度の世界のAPIマーケットプレイス市場は約880億円となるとの見込みを発表しています(参考:株式会社日本能率協会総合研究所2020年10月8日プレスリリースより)。今後はAPIの信頼性を客観的に評価する仕組みの導入や、効果的な活用方法を啓蒙していくAPIのキュレーター的な役割も必要とされていきそうです。

 

日本ではまだ認知度が低いAPI

新たな経済成長の原動力として、これから大きく注目されていくであろうAPIエコノミーですが、残念ながら日本ではまだまだ認知度が低いようです。平成30年版 情報通信白書では、「日本の企業についてはAPIの認知率が低く、公開率も低い。4カ国で日本の次にAPI公開率の低いドイツと比較すると、今後の公開を計画・検討している企業の割合が、日本の10.2%に対し、ドイツは49.8%と大きく差が開いている」と報告されています。

(出典:総務省 平成30年版 情報通信白書)

新しいサービスが次々と生まれ、ビジネス競争が激化するなかで生き残るためには、自分たちだけの力で課題を解決するのではなく、他の企業と力をあわせていくことも重要です。APIエコノミーの魅力は、企業同士のつながりを効率的に作り出せる点にあります。自社の機能やサービスをAPIという形で切り出せば、今まで以上に多彩な企業とのコラボレーションが生まれる可能性があります。APIの重要性をしっかりと認識し、利益を得られる仕組みへと発展させられるかどうかが、企業の成長の鍵を握ることになりそうです。

 

 

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。