働き方改革の動向 労働法改正による企業への影響を知る

働き方改革の目的

2018年7月、働き方改革に関する法律が成立しました。下記3つが、その主な内容です。

①働き方改革の総合的かつ継続的な推進
②長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等
③雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

 

①働き方改革の総合的かつ継続的な推進では、国が働き方改革を推進するための基本的な方針とその目的が定められました。それまでの雇用関係の施策に加え、労働時間の短縮その他の労働条件の改善、雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保、多様な就業形態の普及、仕事と生活(育児、介護、治療)の両立の4つの具体的な施策が規定されています。

 

日本の長時間労働は長年にわたって問題視されてきましたが、下図の通り1988の改正労働基準法が施行されて以降はその労働時間は減少傾向にあります。

出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2018|6-1 一人当たり平均年間総実労働時間(就業者)」 ( https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2018/06/p203_6-1.pdf )

しかしこの労働時間はパートタイム労働者などを含む数値であり、各国に比べて長時間労働の割合は依然高い数値となっていることが分かります。

出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2018|6-3 長時間労働の割合(就業者)」 ( https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2018/06/p209_t6-3.pdf )

こういった長時間労働の状況を改善すべく、②長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等では、労働時間に関する制度の見直しが行われました。

 

具体的には、下記見直し内容が掲げられています。

⑴時間外労働の上限規制の導入
⑵中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
⑶一定日数の年次有給休暇の確実な取得
⑷労働時間の状況の把握の実効性確保
⑸フレックスタイム制の見直し
⑹特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
⑺勤務間インターバル制度の普及促進
⑻企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進

 

また、下図のように非正規雇用者の割合は年々増加傾向にあります。

総務省統計局「労働力調査」正規,非正規の職員・従業員数の推移
( https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/index1.pdf )を基にPowerPointで作成

③雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保では、上記のように増加傾向にある非正規雇用者が働きやすい環境を構築するための規定が整備されています。

 

参考:
厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)の概要」( https://www.mhlw.go.jp/content/000332869.pdf )

 

労働法(働き方改革関連法)改正の内容

前述の働き方改革に伴う改正法について、その施行時期や具体的内容を確認していきます。

下図は、政府が公表している働き方改革関連法の施工時期です。

出典:政府広報「働き方改革知ろう!」( https://www.gov-online.go.jp/cam/hatarakikata/about/ )

出典:政府広報「働き方改革知ろう!」( https://www.gov-online.go.jp/cam/hatarakikata/about/ )

時間外労働の上限規制

これまでの労働基準法では、労働時間は原則1日8時間、1週40時間以内とされていました。また、休日は原則として少なくとも毎週1回又は4週4日以上与えることとされ、法定労働時間を超過して労働者に時間外労働をさせる場合や法定休日に労働させる場合、36協定の締結、および所轄労働基準監督署長への届出が必要でした。

 

改正労働基準法では、36協定で定めることができる時間外労働の上限は原則月45時間、年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなります。特別の事情があって労使が合意する場合でも、時間外労働が年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満とする必要があります。また、原則の月45時間を超えて労働させることができる回数は、年6か月までとなります。いずれの場合においても、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満かつ、時間外労働と休日労働の合計について、複数月平均が全て1月当たり80時間以内とならなければなりません。

この内容を図式化したものが、下図です。

出典:厚生労働省|働き方改革特設サイト|時間外労働の上限規制
( https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/overtime.html )

また、上記に加えて以下のような36協定の締結に関する指針が策定され、特別措置における働き方への配慮が明文化されています。

  1. 時間外労働・休日労働は必要最小限に
  2. 労働者に対する安全配慮義務
  3. 時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化、範囲を明確に
  4. 限度時間を超える場合の時間外労働は、限度時間にできる限り近づけるように
  5. 1か月未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、目安時間を超えないように(目安時間1週間:15時間、2週間:27時間、4週間:43時間)
  6. 休日労働の日数及び時間数をできる限り少なく
  7. 労働者の健康・福祉を確保
  8. 限度時間が適用除外・猶予されている事業・業務についても、限度時間を勘案し、健康・福祉を確保

 

年次有給休暇の確実な取得

これまでの有休制度に加え、年休が10日以上付与される労働者を対象として、使用者は年休を付与した日から1年以内に年5日の年休を労働者に取得させることが義務化されました。

下図における日本の年休は平均付与日数であり、各国に比べても少ないことが分かりますが、実際の平均取得日数は9.0日と取得率は50%を下回る数値になっています(厚生労働省「平成29年就労条件総合調査」によると2016年の平均取得日数は9.0日、 取得率は49.4%)。

出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2018|6-4 年間休日数」
( https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2018/06/p210_t6-4.pdf )

このような状況を改善するため、改正法を踏まえた企業・使用者による、労働者が有給休暇を取得しやすい環境整備を進めていかなければなりません。

 

労働時間の客観的な把握

労働時間の把握については、改正労働安全衛生法で定められています。

厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に、使用者の義務である労働時間を適正に把握する具体的な方法が記載されていますが、企業・使用者としてはどのような対応が必要でしょうか。

 

考えられるものとしては、出退勤の時刻が正確に記録・保存できる勤怠管理ツールの導入や、時間外労働の申請承認のためのワークフローツールの導入などが挙げられます。

ガイドラインを確認した上で、自社に合った方法で労働時間の把握を可能にしていくことが望まれます。

 

フレックスタイム制の拡充

フレックスタイム制とは、労働者が自ら始業・終業時刻や労働時間を決め、仕事と生活とのバランスをとりながら働くことができる制度です。

これまでのフレックスタイム制は、1か月の清算期間における労働時間があらかじめ定められた総労働時間を超えた場合、超過した時間について割増賃金を支払う必要がありました。一方で総労働時間に達しない場合、欠勤扱いで賃金が控除されることや、欠勤扱いとならないように総労働時間に達するまでは労働しなければならなくなる状況がありました。

こういった状況を改善するため、法改正により清算期間が1か月から3か月に延長され、2か月、3か月といった期間の総労働時間の範囲内での労働時間の調整が可能となりました。

 

高度プロフェッショナル制度

高度プロフェッショナル制度について、厚生労働省のパンフレットには次のように記載されています。

高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。

引用元:
厚生労働省「高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説」( https://www.mhlw.go.jp/content/000497408.pdf )

対象労働者は自ら働く時間帯の選択や時間配分について決定でき、広範な裁量が認められます。また、労働基準法に定められた規定が適用されないため、仕事と生活のバランスを取りながら効率的に働くことが可能となります。

一方で、長時間労働のおそれや、残業手当が支給されなくなるなどといった点に注意が必要です。

 

勤務間インターバル制度の普及促進

勤務間インターバル制度は労働時間等設定改善法に規定されており、勤務終了後から翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間を確保する仕組みです。

労働者の十分な休息時間を確保することによって、業務効率の向上や健康的な生活につながります。

企業が労働者の休息時間を確保することは努力義務とされていますが、効率的な業務を行うためにも、休息時間の設定など早急な対応をとることが望まれます。

 

産業医・産業保健機能の強化

労働者の健康を管理するため、産業医による面接指導や健康相談等が行われます。企業は、健康相談の体制整備や、健康情報の適切な取り扱いに注意しなければなりません。

 

残業の割増賃金率の引上げ

現在は、中小企業に対して時間外労働における割増賃金率を5割以上とする規定の適用が猶予されている状況です。この特例を定めていた労働基準法第138条が削除されることにより、中小企業に対しても時間外労働における割増賃金率を50%以上とする規定が適用されます。

適用時期は2023年4月1日以降といまだ猶予がありますが、早い段階から給与等の規定を整備し、その内容を見極めていくことが重要です。

 

雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保に関する規定

中小企業で2021年4月から施行される

・不合理な待遇差の解消
・待遇に関する説明義務の強化
・行政指導や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

これらは、パートタイム労働者などの非正規雇用者の待遇を改善するための規定です。

前述のように非正規雇用者は増加傾向にあり、人々が働き方を自由に選択する時代になりつつあります。

・不合理な待遇差の解消による、正規・非正規雇用者間の均等・均衡待遇の確保
・待遇に関する説明義務の強化による、非正規雇用者への十分な説明

これらを実施することで、増加傾向にある非正規雇用者が働きやすい環境の整備を進めていきましょう。

 

また、厚生労働省では「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」が行われています。昨今のコロナ禍で普及している「テレワーク」に関する規定が整備され、新しい働き方の普及が今後の観点となっていくのではないでしょうか。

 

参考:
厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)」 ( https://www.mhlw.go.jp/content/000611834.pdf )
厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」( https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kintou_488802_00001.html )

 

まとめ

「働き方改革」は、企業だけでなく労働者にも関わる重要な政策ですが、その内容をしっかりと理解できていますか?

ざっくりとは知っていても、その関連法の中身や範囲まで把握できている、という人は多くないのではないでしょうか。当記事をきっかけに、少しでも理解が深まれば嬉しく思います。

適用時期の異なる規定が並んでおりましたが、すでに施行済みのものも多く、早めに適切な対応を取ることが何よりも重要です。これらを理解した上で自社・自身のすべき対応を検討し、すべての労働者が生き生きと働くことができる新しい社会を目指していきましょう。

クラウドサービスをコネクトしてITをフル活用

ビーブレイクシステムズでは、様々なマネジメントサービスの中からお客様にとって最適なシステム・サービスを選定し、選定された複数のシステムやサービスを繋いだサービス「コネクテッド・クラウド」を提案しています。

ERP、RPA、シングルサインオン、電子請求書、Web会議システムなど様々なクラウドサービスを上手にコネクトして仕事にお役立てください。