Withコロナの働き方における「企業文化」の重要性<デジタルトランスフォーメーションを考える21>
目次
長期化するテレワークで課題となる組織の一体感
新型コロナウィルスの終息がいまだ見えないなか、以前のように出社する働き方に戻すのか、テレワークを前提とした新しい働き方を導入するのかの判断が、企業によってわかれています。
「契約書の押印などオフィスにいないとできない仕事がある」、「対面していないとコミュニケーションがとりづらい」、「在宅勤務では生産性が下がる」などテレワークのデメリットを強く感じる企業がある一方で、多様な働き方を実現し、優秀な人材を採用する手段として、テレワーク環境をさらに進化させようとする企業も増えています。
「出社」か「テレワーク」かの二者択一で語られがちなこの問題ですが、外部環境がめまぐるしく変化する今、状況に応じて柔軟に働き方を切り替えられる体制を整えることが、何よりも重要ではないでしょうか。
さて、長期にわたってテレワークを実施するなかで課題となるのが、組織の「一体感」をどのように維持するかということです。お互いの様子が見えないテレワークでは、部下がちゃんと仕事をしているのか疑心暗鬼になったり、コミュニケーション不足でモチベーションが低下したりするなど、社員の気持ちが会社から離れてしまう危険性があります。
テレワークでは、自由な働き方を担保しつつも、組織をひとつにまとめることが非常に重要です。そのひとつの手段となるのが「企業文化」です。
企業文化とは、企業独自の価値観や行動規範のことを指します。「ミッション・ビジョン・バリュー」などの言葉もよく使われますが、企業文化は自然と生まれてくるものではなく、経営戦略として「作り出す」ものでもあります。
『WHYから始めよ!インスパイア型リーダーはここが違う』の著書で有名なサイモン・シネックは、人は“WHAT(何をするか)”ではなく”WHY(何のために取り組むのか)によって、感情が動かされ、行動するモチベーションを高めていくと提唱しています。
テレワークでは一人ひとりが自立して働き、チームで成果を出さなくてはなりません。それぞれが離れた場所で働いていても、同じ方向に向かっていくためには、「なぜその仕事をするのか」という共通の価値観・思いが必要です。社員の自発的な行動を促し、組織の一体感を高めるため、企業文化を見直し明文化すること、そしてそれを定着させるための組織づくりの重要性が高まっています。
強力な企業文化で世界のトップに躍り出たNetflix
強力な企業文化を持つ企業のひとつとして、大きな注目を集めているのがNetflix社です。
Netflix社は、企業の価値観や社員の行動規範を定めた「カルチャーデッキ」という文書を公開しています。「カルチャーデッキ」を読むと、その細かさと文章のボリュームに驚かされます。企業理念や行動指針をスローガンとして掲げている企業はたくさんありますが、ここまで具体的な行動に落とし込んだものを公開している企業はほとんどないのではないでしょうか。FacebookのCOOシェリル・サンドバーグが「シリコンバレーから生まれた最高のドキュメント」と絶賛したことでも話題となりました(日本語版はこちらで読むことができます)。
「カルチャーデッキ」には、判断力・コミュニケーション・好奇心などの10の行動指針が記されています。
企業の行動指針は、社員の理想の姿が掲げられていることが少なくありませんが、Netflix社の行動指針は人材を評価する明確な基準として機能しており、この指針に則った行動をとる人が昇進し、そうでない人は会社を離れていく風土が定着しています。
CEOのリード・ヘイスティングスは、あるポッドキャストの番組で「カルチャーデッキ」について、次のように語っています。
「企業文化は社員の行動そのものです。どのような行動をとる人が昇進し、どのような行動をとる人が解雇されているのかを見れば、Netflixの企業文化がおのずと理解できるはずです。企業文化が明文化されていることで、社員は自分自身の行動に対する評価がどのような基準で行われているのか、またマネージャーの評価に一貫性があるのかどうかを知ることができます」(訳・要約 筆者)
Netflix社では、日頃から社員全員がお互いにこの価値観を実践できるようにフィードバックしあっています。企業文化に合わない人はどんなに優秀でも会社を去ってもらうという厳しい側面もありますが、このオープンかつ率直な企業文化によって、Netflixは世界トップ企業の地位を築きあげたのです。
With コロナ時代の管理職の役割とは
企業文化は、経営陣が一方的に決めれば社内に定着するというものではありません。すべての社員がその内容しっかりと理解し、納得してはじめて、企業文化に即した行動を自発的にとることができるようになっていきます。そして企業文化を定着させるうえで重要になるのが、管理職の役割です。管理職のメンバーが会社の方針を理解したうえでチームのビジョンや目標を設定し、個人に適切な業務配分を行うこと、目標達成へのプロセスをしっかりとモニターし、適正に評価すること。こういったプロセスを経て上司と部下の信頼関係が構築され、社員一人ひとりが自律的に動くことができるようになっていきます。上司と部下の間に信頼関係がなければ、どんなに魅力的なビジョンを掲げたところで、社員の力は発揮されないでしょう。
Netflix社は、マネージャーとチームメンバーがお互いに正直であること、頻繁にコミュニケーションをとることで現状の確認をすることを非常に重視していますが、前述のポッドキャストの中では、リード・ヘイスティングスは日本ならではの難しさについても語っています。
「日本は、島国であり同質的な文化を持つ国です。日本人は言いづらいことは言葉で伝えずに間接的な方法で伝え、同時に相手がそのメッセージを受け取っていることを、言葉なくして理解することができます。日本では”空気を読む “と言われますが、この文化は私たちにとっては大きな試練となっています。年長者を敬い、人前で相手を批判すること避ける文化も、上司と部下が率直に意見を伝え合うことを難しくしています。それでも、私たちは言葉によるフィードバックを大切にしています。言葉で伝え合うことに対する心理的安全性を確保し、言葉で伝え合うことが何よりも重要であることを理解してもらっています」(訳・要約 筆者)
ヘイスティングス氏が語るように、日本の職場はまさに「空気を読む」ことで動いている部分がたくさんあります。上司は自分が働く背中を見せることで部下を教育し、お互いの様子を見ることで仕事の様子をなんとなく感じあうことは少なくありません。しかし、これはチームメンバーが同じ場所で長時間一緒に過ごすからこそできることであり、テレワーク環境においてはこのようなマネジメントスタイルは一切機能しません。
テレワークを核とした新しい働き方では、管理職に求められるコミュニケーション量は大幅に増加します。
メールやチャット、ビデオ会議などで日々の仕事の様子を確認すること、孤独感を感じたり働きすぎたりしないように、モチベーション管理や体調管理にも気を配ること、スケジュールが空いていれば、なぜ空いているのかを確認し、空いている時間を有益に使うために何をするのかを話し合うこと。これらのことに真摯に向き合わない限り、新しい働き方を実現することはできないのではないでしょうか。
日本にはプレイングマネージャーが多いと言われていますが、チームメンバーの個性や創造力を引き出し、組織力を最大に発揮できるようなマネジメントを行うためには、マネジメントに関する専門知識や多様性を受け入れる姿勢を身につける必要があります。管理職の役割を根本から見直し、権限や待遇を向上することなども、Withコロナ時代の働き方では、重要なポイントとなりそうです。
組織力のベースとなるのは信頼感です。テレワークがうまくいくかどうかは、システム環境などのハード面の問題もありますが、実は組織にしっかりとした「心のよりどころ」があるかどうかのソフト面の方が重要なのかもしれません。
変化の激しいこの時代、どのような場所でどのように働いていても揺らぐことのない信頼感を組織のなかで醸成し、社会に新たな価値を生み出せる企業文化を育てることが、企業にとっての新たな競争力となっています。
筆者プロフィール
- 上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。
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