第六回 正しく理解できていますか?勤怠管理と勤怠管理の「義務化」

働き方改革を考える上で、「生産性の向上」とともに「長時間労働の是正」といったテーマが大きな関心を集めています。生産性を上げるためには労動時間に代表されるようなインプットを減らすか、利益に代表されるようなアウトプットを増やすことが必要となりますから、インプットを減らす「長時間労働の是正」と、その結果としての「生産性の向上」には相関性がありますし、過労死問題を受けて残業時間の上限規制が設けられる見通しなど長時間労働問題が話題になっていることをかんがみても、より正確な勤怠管理が各企業に求められていることは周知の事実です。また、勤怠管理の義務化を明記する法律の改正案が上がっています。今回は、この勤怠管理について、今一度確認していきましょう。

 

正しく理解できていますか?勤怠管理のおさらい

 

まず、労動時間の基本をおさらいしておきましょう。労動時間および休日については労動基準法により、「1日8時間、1週40時間および週1回の休日の原則」が定められています。また、労動時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければならないと定められています。この原則は、いわば「最低ライン」であり、どのような勤務体系の方でも同じです。また、日の労動時間が8時間を超える場合、つまり残業をする必要がある場合は、一般に「36協定」と呼ばれる労使協定を労働組合と使用者、つまり経営者とで事前に締結しておく必要があります。これが基本です。

ただし、上記の労動条件が業務の実態にあわないなど、労動時間の制約を緩和するため、フレックスタイム制やみなし労働時間制、変形労働時間制の採用も認められています。

フレックスタイム制は出退勤の時間を労働者が設定できるというもので、清算期間(現行法では最大1ヶ月)の合計労動時間によって残業の有無を判定します。また、みなし労働時間制は、実労動時間に関係なく、定められた時間で労動したと「みなす」制度です。この場合は、実労働時間がみなし労動時間より短くても長くても、「基本的には」みなし労動時間にて残業の有無を判定します。変形労働時間制は労働時間を繁忙期等に合わせて月単位、あるいは年単位で調整する制度です。変形期間中の就業時間はあらかじめ就業規則で定める必要があり、その就業時間および月や年での合計法定労働時間によって残業の有無を判定します。

通常勤務、フレックスタイム制およびみなし労働時間制、変形労働時間制

 

 

 

9時に出社し18時に退社するような固定時間制で働く人の勤怠管理を行わなければならないことは当然のこととして認識されているかと思います。では、出社/退社時間を自身で管理するフレックスタイム制や、労動時間があらかじめ決められた時間で「みなされる」みなし労働時間制、あるいは変形労働時間制では勤怠管理を行う必要はあるのでしょうか。答えは「YES」です。フレックスタイム制の場合は、清算期間中の労働時間の合計によって残業を判定しますが、日ごとの労動時間も別途管理する必要があります。また、みなし労働時間制の場合も、勤務者の勤務状況に応じた福祉・健康措置が必要ですし、「みなす」ことができるのは、平日の労働時間です。そのため、深夜残業や休日出勤時には割増賃金を支払う義務が使用者にはあります。したがって、みなし労働時間制の場合でも勤怠管理は必要なのです。

 

勤怠管理は「明記」されていなかった?「勤怠管理義務化」について

 

先程から、企業は勤怠管理を行う必要がある、と書いてきました。実際に、残業時間の算出や福祉・健康措置の実施義務などを考えれば、必然的に勤怠管理は「義務」である、と言うことが可能です。また、厚生労働省通達(平成13年4月6日)に沿った勤怠管理が企業で実施されてきました。しかし、実は「このような勤怠管理をしなさい」と明記された法律は今までありませんでした。しかし、長時間労働の是正をめぐる議論のなかで、「勤怠管理の義務」を法律上で明記しようという動きがでています。

この勤怠管理の義務化は、「労働安全衛生法」の改正案として盛り込まれる方針です。労働安全衛生法(労安衛法)は、安全衛生管理体制、労働者を危険や健康障害から守るための措置、機械や危険物・有害物に関する規制、労働者に対する安全衛生教育、労働者の健康を保持増進するための措置などについて定めており、職場の安全衛生に関する網羅的な法規制を行っています。少し前に話題となったストレスチェックの義務化もこの法律により定められています。

 

自己申告やタイムカードはアウト?勤怠管理は「客観性」「すべての労働者を対象」が鍵に

 

さて、いくら今まで勤怠管理が義務だと明記されていなかったといっても、今まで全く勤怠管理をしていないという企業は非常に少ないと思います。勤怠管理が義務化される場合に注意するべき点はあるのでしょうか。勤怠管理の方法としては、2017年1月末に厚生労働省から公表された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を基に、「客観的で適切な」管理が求められる方針になっています。具体的には、パソコンの使用時間やIC(集積回路)カードによる出退勤時間の記録といったもので勤怠時間を管理することが想定されています。つまり、手書きのタイムカードや自己申告では客観性が不十分であると捉えられているのです。

また、もうひとつインパクトのある改正案として、上記勤怠管理の対象として「管理監督者を含めた全ての労働者」と明記されることが挙げられます。管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされており、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。先述のガイドライン上でも、労働時間を把握すべき対象労働者からは除外されていますが、改正案では、こうした管理監督者の立場にいる人々も一律に「労働者」として勤怠状況の管理が必要である、という認識になっているのです。

 

改正案自体の具体的な成立時期や最終的な内容はまだ不透明ではありますが、「全ての労働者の勤怠管理を客観的に、かつ適切に行う」という方向が促されるものになることは間違いないでしょう。

 

休息時間の確保で勤務状況改善に 勤務間インターバル制度とは

 

ここまでは労働者の「労働時間の管理」を見てきました。しかし、長時間労働の問題点は、ただ労働時間が増えることだけではなく、労働時間の増加によって適切な休息時間が確保できなくなることも大きいですね。そんな中、近年注目度が高まっているのが「勤務間インターバル制度」です。

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後、一定期間の休息時間を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するというものです。「前の勤務終了から一定の休息時間を経過するまで勤務開始を認めない、始業時刻が被る場合は始業時刻を繰り下げる」「ある時間以降の残業を禁止するとともに、翌日の始業時刻以前の勤務を禁止する」などの設定方法が考えられます。これにより、通常勤務の人も、みなし労働時間制など実勤務時間が見えにくくなる勤務体系の人も、確実に休憩時間を確保すると共に、実質的に長時間労働を削減することが期待されています。

 

 

この勤務間インターバル制度は、現時点では法制による設置義務などは設けられておらず、設置のしかたも各企業に委ねられているものの、働き方改革の流れを受けて自主的に導入を進める企業も増えています。また、政府側も、勤務間インターバルを導入した中小企業対象の補助金を設立するなど、普及に力を入れています。

 

生産性の把握にも、労働実態の把握にも、まずは適切な勤怠管理から

 

働き方改革を遂行する上で、「生産性の向上」を目的に掲げる企業は多いかと思います。生産性の見方は議論の余地を多く含みますが、生産性を測る上で、労働時間は重要な視点であることは間違いありません。また、昨今の長時間労働問題も相まって、労働実態を把握するという企業の義務に対し、かつてない程に厳しい目が向けられています。リアルな実態を把握し、次の一歩を踏み出すためにも、まずは適切な勤怠管理からはじめてみるのはいかがでしょうか。

 

参考:

厚生労働省「勤務間インターバル」

www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/interval/interval.html

厚生労働省「職場意識改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html

厚生労働省 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する

ガイドライン」

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

独立行政法人 労動政策研究・研修機構「Q1 労動安全衛生法の基本的な仕組みをおしえてください。」

http://www.jil.go.jp/rodoqa/08_eisei/08-Q01.html