働き方改革を知る(5)今後の働き方に影響大?今知っておきたい労働基準法改正案とは

政府主導で行われている働き方改革関連の議論の中で、特にこの「労働基準法改正」に注目している人は多いのではないでしょうか。現在議論されている労働基準法改正法案は、もともとは2015年に提出されたものでしたが、働き方改革をめぐる議論の中で再度改正の動きが活発化しています。企業にとってインパクトの大きい労働基準法の改正は、もはや「待ったなし」と言っても過言ではありません。今回は、働き方改革の大きな焦点でもある労働基準法の改正について掘り下げていきたいと思います。

【2018年7月3日追記】働き方関連法案は2018年6月29日午前の参院本会議で可決、成立しました。適用時期は青字で追記しています。

労動基準法改正法案の骨子 「長時間労働抑制・年次有休休暇取得促進」と「多様で柔軟な働き方」

 

現在国会に提出されている労働基準法改正法案は、大きく分けて「長時間労働抑制・年次有給休暇取得促進」と「多様で柔軟な働き方の実現」の二つの骨子から成り立っています。また、国会提出済みの法案には盛り込まれていないものの、法案化が見込まれているテーマとして「残業時間の上限規制」があります。それぞれについて詳しくみていきましょう。

 

「長時間労働抑制・年次有給休暇取得促進」月60時間超の残業は1.5倍の割増賃金に

 

「長時間労働抑制・年次有給休暇取得促進」では、次の項目が盛り込まれています。

 

  • 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
  • 著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設
  • 一定日数の年次有給休暇の確実な取得
  • 企業単位での労働時間の設定改善に係る労使の取組促進

 

この中で、特に企業にインパクトを与える可能性があるものとしては「中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し」、そして「一定日数の年次有給休暇の確実な取得」があげられます。

 

中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

平成22年4月1日に施行された労働基準法の改正時に、一ヶ月の時間外労働が60時間を超える場合は、割増賃金率を25%から50%にする規定が盛り込まれました。しかし、中小企業については、「当分の間猶予する」とされていました。今回の労働基準法改正にあたり、この猶予期間が撤廃されることとなったのです。成立から施行までの間には3年~4年ほどの猶予が設けられる見込ですが、中小企業の経営者は、上記の割増賃金への対応が急がれます。

 

 

【2018年7月3日追記】2023年4月から適用

一定日数の年次有給休暇の確実な取得

現行の労働基準法では、年次有給休暇(以下年休)は「労働者が時季指定を行い、当該日の年休が成立する」という手順により取得することとなっています。しかし、労働者が「時季指定」をためらってしまうなどの理由から年休を取得しづらく、年休取得率が低いことが問題となっていました。そこで、年休が10日以上付与されている労働者は、確実に年5日間は年休が取得できるよう、「年5日間の年休」に関しては、「労働者の希望に基づき、使用者が年休の時季指定を行い、当該日の年休が成立する」という手順により取得することとなりました。

これはあくまでも「年休を最低限5日取得させる」ためのものであるため、年5日に足りない分がある場合のみ、使用者に上記の管理義務が発生します。年休取得率が低い企業の人事担当者や経営者は注意が必要です。

【2018年7月3日追記(9月7日訂正)】2019年4月から適用

※お詫びと訂正:7月3日に追記した内容について誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

「多様で柔軟な働き方の実現」フレックスタイム、裁量労働制の見直しと高プロ制度創立のポイント

 

「多様で柔軟な働き方の実現」では、次の項目が盛り込まれています。

  • フレックスタイム制の見直し
  • 企画業務型裁量労働制の見直し
  • 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

これらの項目は、「働き方改革」の実行にあたり重要なポイントになります。以下にて詳しく見ていきましょう。

 

フレックスタイム制の見直し(清算期間の上限の延長)

「フレックスタイム制」については耳にしたことのある方がほとんどかと思いますが、改めて定義を確認すると下記のようになります。

「清算期間」(現在、最長1ヶ月)で定められた所定時間の枠内で、労働者が始業・終業時刻を自由に選べる制度

1日の労働時間は問われず(コアタイムにより最低限の在社時間を指定することは可能)、「清算期間」の中で労働合計期間を調整する仕組みとなっています。「清算期間」内で法定労働時間の枠を超えた場合には割増賃金が発生します。

今回の改正案では、合計労働時間を判定する「清算期間」を、最大3ヶ月まで延長することが可能となります。(ただし、各月で週平均労働時間が50時間を超えた場合は、その各月で割増賃金の支払が必要)これは、家庭をもつ労働者が、夏休みや冬休みといった子供の長期休み期間にあわせて労働時間を短縮することが可能となるなどの効果を狙ったものです。

フレックスタイム制を適用した場合の労働時間計算はミスを招きやすくトラブルのもととなります。導入時には適切に労働時間管理を行うことができるよう体制を整えることが大事です。勤怠管理をシステム化している場合、システムが改正後のフレックスタイム制に対応可能か、今のうちに確認しておくとよいでしょう。

 

【2018年7月3日追記】2019年4月から適用

企画業務型裁量労働制の見直し(対象業務の拡大)

裁量労働制は、いわゆる「みなし労働」と呼ばれるもので、労使で定められた時間を労働したものと「みなす」制度です。企画型・専門型の2種類がありますが、今回は「企画型」裁量労働制の対象業務が拡大します。

 

現在、企画型裁量労働制の対象業務は、経営企画などに代表される「自社の事業についての企画・立案・調査・分析」ですが、対象業務が限定的であること、また健康措置の充実などが課題となっていました。そこで、今回の改正で、「企画・立案・調査・分析」の業務がベースとなる、下記2類型が対象業務に追加されます

  • 課題解決型提案営業(ソリューション営業)

「取引先企業のニーズを聴取し、社内で新商品開発の企画立案を行い、当該ニーズに応じた商品やサービスを開発の上、販売する業務」が例として上げられています。(通常の営業・販売職が対象業種に含まれないよう、立法時には明確化される見通しです)

 

  •  裁量的にPDCAを回す業務

「全社レベルの品質管理の取組計画を企画立案するとともに、当該計画に基づく調達や監査の改善を行い、各工場に展開するとともに、その過程で示された意見等をみて、さらなる業務の取組計画を企画立案する業務」が例としてあげられています。

その他、休暇付与や健康診断といった健康確保措置の省令による規定や、裁量労働制が「始業・就業時刻が労働者に委ねられる制度」であることの法律上での明文化が盛り込まれています。

 

この「裁量労働制」の適用対象の拡大は、後述する「高度プロフェッショナル制度」よりも影響範囲が大きくなることが見込まれています。2018年春の国会では成立が見送られる見通しですが、いずれ議論は再燃することでしょう。今後の動向を注視する必要がありそうです。

【2018年7月3日追記】裁量労働制の適用対象の拡大については今国会の法案から削除

「高度プロフェッショナル制度」の創設

別名「脱時間給制度」とも呼ばれ、労働者を働いた時間ではなく成果で評価することを目的とした制度で、欧米の「ホワイトカラー・エグゼプション制度」を基にしています。

  • 高度な専門知識を必要とし、時間と成果の関連性が通常高くないと認められる業務であること
  • 職務の範囲が限定されており、給与は平均給与の3倍程度(1075万円を参考に検討)以上の労働者であること
  • 健康管理時間を把握し健康措置を施すこと
  • 本人同意および事業場の委員会での決議をとること

以上を条件として、時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の規定が適用対象外となります。

【2018年7月3日追記】2019年4月から適用

ただし、「裁量労働制適用対象の拡大」および「高度プロフェッショナル制度の創設」は、時間ではなく、成果での労働評価を可能にすることが期待される一方、長時間労働を助長するとして野党をはじめとした反対意見が根強くあります。長時間労働が社会的な問題として取り上げられて久しい中、最終的にどのような形で成立するのか、注目度の高いトピックといえます。

残業時間上限の設定、違反したら罰則も

 

つづいて、同じく労働基準法改正の焦点となっている「残業時間上限の設定」をみてみましょう。

法定労働時間を超えて労働させる場合には「36協定の締結」および「割増賃金の支払(残業代の支払)」が義務付けられていますが、通常の「36協定の締結」により可能となる労働時間の超過は「月45時間まで」です。しかし、繁忙期や予想以上の受注などに対応するため、36協定に特別条項を付与することが可能となっています。この特別条項には超過時間の規定はなく、特別条項を付与して締結さえしてしまえば、年間6回まででという制限はあれど、理論上は何時間でも労働時間の超過が可能でした。一方で、厚生労働省通達(平成13年12月12日)の血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準(1カ月で100時間超、2,3,4,5,6カ月平均80時間超の時間外労働)が企業における超過時間の実質的な上限として認識されています。

 

しかし、長時間労働を是正するという働き方改革実行会議の議論を背景に、「36協定の特別条項」について、上限が設けられることとなりました。

具体的には

  • 36協定の特別条項を締結した場合でも上回ることのできない時間外労働時間を年720時間とする(=月平均60時間)

ただし、

  •  2,3,4,5,6ヶ月の平均で80時間以内
  •  単月で100時間未満

というものです。

また、この上限規則を違反した企業には罰則が盛り込まれることとなりました。

【2018年7月3日追記】大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用

 

何が、いつ成立する?「その時」のために準備できることは

 

働き方改革の重要テーマとなっている労動基準法改正。裁量労働制の拡大の国会提出が見送られるなど「何が、いつ」成立するかは見えない状態が続いていますが、これまでに挙げた労基法改正案の少なくとも幾つかは決定するものとみて間違いないでしょう。それぞれの法案のメリット・デメリットは何か、改正されたらどのような準備が必要かを知るためにも、今後の動向を追っていく必要がありそうです。

参考:

厚生労働省 「『労動基準法の一部を改正する法律案』について」

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000176290.pdf

筆者プロフィール

Ren.
Ren.ビーブレイクシステムズ
ERP「MA-EYES」RPA「WinActor」をはじめとするITツール営業担当。好きなお茶はジャスミン、お酒はハイボール、ロシア産飲料はウォッカではなくクワス。

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