働き方改革を知る(3)現状を知る、データで見える 日本の労働環境

第一回 働き方改革と一億総活躍社会 ~日本経済再生へのチャレンジ~にて、働き方改革の概要を説明しました。そちらでも、働き方改革で掲げられている4つのテーマの前提となる日本の現状について言及しましたが、今回は、その現状をデータ中心にもう少し詳しく掘り下げることで、日本の労働環境を考えていきたいと思います。

 

非正規雇用の処遇改善に関する現状

前記事でもお伝えした通り、非正規雇用は増加の一途を辿っており、2016年度調査では雇用者全体に占める非正規雇用者の割合は実に37.5%に及んでいます。また、賃金格差も根強く、非正規雇用者の賃金は男女、全年齢の平均で正規雇用者の65%となっています。男女別に各雇用形態の賃金のピークを比べると、男性は正規雇用者で50~54歳の440.5万円、非正規雇用者では60~64歳の255.2万円となり、非正規雇用者は正規雇用者の58%、女性は正規雇用者で50~54歳の298.7万円、非正規雇用者で35~39歳の197.7万円となり、非正規雇用者は正規雇用者の66%ほどにしかなりません。

 

出典:厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2016/index.html

 

 

非正規雇用者は年齢による年収水準の変化がほぼなく、低い位置で止まる傾向にあるため、年齢と共に賃金がある程度上昇していく今の正規雇用者との差は歴然としています。

 

また、非正規雇用の場合、正規雇用に比べて福利厚生の恩恵を受けられない、有期雇用の

場合は就業が安定しないなどの、単純な賃金以外の問題もあるのが現状です。

 

長時間労働の是正に関する現状

 

フルタイム労働者の年間労働時間は約2000時間前後で推移しています。フルタイム労働者の月間総労働時間の推移を見ると、所定内労働時間は減少傾向、所定外労働時間は増加傾向で推移しているため、各企業で「残業」と認識されている時間は大幅に減っているとはいいにくいことが分かります。

 

出典:厚生労働省「平成28年版 労働経済の分析」

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1-1_03.pdf

 

また、フルタイム労働者のうち、週60時間以上就業する人、つまり週休2日と仮定した場合に1日あたりの残業時間が3時間程度以上の割合は、近年減少傾向にはありますが依然として10%以上にのぼります。特別条項なしの36協定の締結によって認められる残業時間の上限は月45時間(=週休2日と仮定すると日の残業時間は2.25時間程度)ですから、決して少ない数字とはいえないでしょう。

 

出典:厚生労働省「平成28年版 労働経済の分析」

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1-1_03.pdf

 

また、36協定には特別条項を付与することで、臨時的に月45時間以上の残業をさせることが可能となりますが、働き方改革実行計画によれば、2013年時点で36協定を締結している事業場のうち、この特別条項において「月80時間」を超える限度を設定している事業場は4.8%、大企業に限定する場合は14.6%にのぼります。毎月ではないとはいえ、時には月80時間以上(=週休2日と仮定すると日の残業時間は4時間程度)の残業が発生しうると考えている事業場が決して少なくないことがうかがえます。

多様な働き方が可能な環境の整備に関する現状

多様な働き方の例として、就業時間や場所の制約を小さくする「テレワーク」や、複数収入源の確保やスキルアップにつながる「兼業・副業」が挙げられます。これらは社会の認知度も上がってきており、活用したいと考える労働者も増えているようです。テレワークに関しては男女問わず過半数が何かしらの形で「利用してみたい」と考えています。また、兼業・副業に関しては、実に350万人を超える人が副業を希望しています。

しかし、この需要に対して、企業の体制が整っていないことは前記事で指摘した通りです。勤務先にテレワークがあると答えた人の割合は調査対象者全体の14%、また、副業を認めていない企業は調査対象社の85%です。副業に関しては「推進はしていないが容認している」が14.7%を占めるため、副業が歓迎されているとはいえない状況です。

 

出典:総務省「情報通信白書 平成26年度版」より作成

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc141220.html

出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192845.pdf

多様な働き方については、労働者の希望に対して企業の体制が整っていないことの最たるものといえそうです。

 

多様なキャリア構築支援に関する現状

潜在的な労働力として挙げられるのは、「女性」、「不本意ながら非正規労働をしている人」「高齢者」などが挙げられます。それぞれについて現状をみてみましょう。

 

女性

女性の活用を考える上の課題として、真っ先に思い浮かぶのは「結婚」「出産」「育児」などのライフイベントによる就業制限です。事実、近年出産後も働き続ける人は増加傾向にあるとはいえ、第一子を出産する前後に退職する女性の割合は約5割弱にのぼります。

 

出典:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 平成29年度版」より作成http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/honpen/b1_s03_02.html

 

子育て等のライフイベントを理由に一旦仕事をやめた女性は、復帰時にはパート等の非正規雇用となる割合が圧倒的に多く、働き方改革実行計画によれば、その数は2015年時点の調査で88%にのぼります。

ただ、これは実際に非正規雇用として働くことを望んでいる女性が多いという背景もありそうです。就業希望者(現在働いていないが働くことを希望する人)のうち、非正規雇用を希望する人は201万人にのぼります。年齢別にみても、25歳以上の就業希望者は、多くが非正規雇用で働くことを望んでいることが分かります。非正規雇用を望む背景をしっかりと検証した上で、女性の活用を考えていく必要がありそうです。

 

出典:厚生労働省「平成28年版 労働経済の分析」

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1-3.pdf

 

また、女性の正社員の場合、男性との賃金格差も問題としてあります。平成28年度時点で男女の賃金格差は73.0(男性を100とした場合)となっており、年々改善はされているものの依然として格差は小さいとは言えない現実があります。

 

出典:厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2016/index.html

 

これは、女性のほうが一般的にもともと選択肢として賃金の上がりにくい「一般職」を選択する人の割合が多いなども考えられますが、結婚や出産等で「働き盛り」と呼ばれるような30代ごろに満足に働くことができない可能性が高いことから、管理職等のキャリアを目指すことが難しいなども要因でしょう。

 

不本意ながら非正規雇用として働いている人

また、男女の別なく「正規の職員・従業員の仕事がないから」非正規雇用として働いている、つまり不本意ながら非正規雇用として働いていると考えられる人の割合は最新(2017年)統計で14%強にのぼり、男性に限って言えば22.7%を占めています。これは「自分に都合のよい時間に働きたいから(同年26.6%)」の次に多い水準となっており、正規雇用を希望する労働者の多さが分かります。

 

出典:総務省「労働力調査」(平成29年)より作成

http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/index1.pdf

 

高齢者

高齢者の就業率は年々増加しています。平成24年年時点で65~69歳で39%、70歳以上も14.8%が就業しており、現在就業していないが、就業を希望する人の割合は65~69歳で10%強、70歳以上でも5.2%います。また、平成25年に実施された35~64歳未満の男女を対象としたアンケートでは、70歳以上まで働きたいとしている人が約5割おり、就業人口の増加余地があることがうかがえます。

 

出典:厚生労働省「平成28年版 労働経済の分析」

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1-3.pdf

出典:厚生労働省「高年齢者雇用の現状について」

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000098694.pdf

 

理由としては「健康のため」「生きがい」等をあげる人が多い一方、経済上の理由をあげる人も2割弱を占めています。今後年金等の収入がますます減少する見込である現役世代は、より「長く働きつづける」ことを希望すると同時に求められる傾向が強まると予想されます。

一方で、企業側の対応状況はというと、65歳以上まで働くことができる企業数は7割強あるのに対し、70歳以上まで働くことのできる企業は2割弱に留まっています。平均寿命が男女ともに80歳を超えている今、高齢者をいかに活用できるかも大きな鍵となるでしょう。

 

出典:厚生労働省「高年齢者雇用の現状について」

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000098694.pdf

 

具体的なデータを見て、皆様はどのような印象を持ったでしょうか。なんとなく知ってはいても、数字で現れると予想以上に理想と現実のギャップを感じた、という方もいらっしゃるかもしれません。日本の労働環境を改めて見直し、自分はどのように働いていきたいか、また、自社としてどのような取組をしていきたいかを考えてみるとよいですね。

筆者プロフィール

Ren.
Ren.ビーブレイクシステムズ
ERP「MA-EYES」RPA「WinActor」をはじめとするITツール営業担当。好きなお茶はジャスミン、お酒はハイボール、ロシア産飲料はウォッカではなくクワス。

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