コロナ禍において企業はどのようなテーマでERPシステムの導入を検討したのか
企業がどのような目的でシステムを導入するのか、会社の状況や事情によって様々な理由が存在します。普遍的な目的もあれば時流、つまりその時々における流行や、あるいは法律等社会的な必要性に応じて導入するという場合もあります。新型コロナウィルスに伴う働き方の変化でも、新たなニーズが生まれました。
本記事では、新型コロナウィルス流行以前にはどのような目的で企業がERPシステムを導入し、コロナの流行以降どのような動きがあったのか、レポートします。
目次
一般的なERPシステムの導入目的
筆者は2000年代中盤からERPの販売に従事していますが、現在までを通じて企業がERPを導入する目的は以下に集約されます。これはコロナに関わらず大きく変わりません。
- 業務の効率化
- 収支の厳格化
- 内部統制の強化
- リプレイス
業務の効率化
ERPに限らず、システム導入の大きな理由はこれになるのではないでしょうか。より具体的には、「Excel管理からの脱却」ということがよく掲げられます。Excelは便利ですが、業務フローという概念はないので複数人で利用することが得意ではなく、更新や編集・検索、他システムとの連携等に課題があります。紙の処理等の手作業がある場合にも該当しますが、システム化することにより二重入力の排除やデータベースでの管理を可能にします。
収支の厳格化
筆者が営業担当として販売しているEPP、MA-EYESはプロジェクト型の業務を行っている企業向けの案件ごとの個別原価管理を得意としています。そのような製品特長から、どんぶり勘定から脱却して採算性を高めるであるとか、工事進行基準会計や収益認識基準といった会計の新たな基準に対応するため導入する企業に対応する機会が多いです。
内部統制の強化
2006年に所謂「J-SOX法」が開始されました。筆者が当職に着いたのが同時期であり、まさに当時のトレンドとして、内部統制の強化目的でERPを導入する企業が非常に多く見られました。今では当たり前のものにはなっていますが、上場準備をする企業等では必須対応が求められるので、2021年現在でも重要なテーマと言えます。
Excelからの脱却とも関係しますが、Excelや手作業ですと更新や削除・アクセス履歴、ワークフローによる承認ができませんので、システムによる対応が必要です。
リプレイス
日本にERPの概念が入ってきたのが1990年代後半ですので、2000年代はまだERPを導入している企業も少なく、更新という話は少なかったですが、2010年代以降はそういった案件も増えてきました。
ERPではない、ツギハギのシステムやスクラッチの独自システムを汎用的なERPで効率化したいという場合や、技術的な陳腐化や保守切れ、重大な自社ビジネスの変化や法改正に現在のシステムでは対応できない等の理由で、システムの入れ替え=リプレイスを検討します。
以上が、2000年代中盤から今に至るまで、共通して見られるERPシステム導入のテーマです。
では、2019年から2021年というコロナ直前からコロナ真っ只中、そしてコロナの収束が見えてきた現在の状況の中でどのような事に重点が置かれていたでしょうか。
コロナ前夜
コロナ前夜である2019年後半~は、2021年4月から実施される「収益認識基準」に対応するための導入検討が盛んでした。目的としては「収支の厳格化」や「内部統制」(適切な会計処理)に類するものです。2021年4月からシステムを稼働するために、十分な時間がありました。
緊急事態宣言前後
2020年の2月末にイベント等の自粛要請が出て、第1回目の緊急事態宣言が宣言されたのが4月です。
2~4月は企業の在宅勤務が本格化し、はじめての緊急事態宣言ということでシステム導入の検討どころではなかったのか、新規問い合わせも少なく、提案中の案件も、ストップやペンディングになるケースが多くありました。打合せが基本WEB会議になったのもこの頃からで、ベンダーもユーザーもまずは状況に慣れることが先決という時期でした。
緊急事態宣言が一旦解除された2020年5月中旬以降にシステム検討の話が出始めます。この時期は、テレワークを推進するためのシステムが検討されていました。例えば以下のようなものです。
- ワークフローやシステム上での電子承認
- 勤怠管理
- 請求書等の電子化
これらはERPの中で対応できるものもありますが、ERPは上記だけでなく広範囲の業務をカバーしているため過剰な部分がありますし、検討・導入に時間がかかり、コストも高いです。
テレワークへの対応は喫緊の課題であり、業績の先行きが不透明な中で多額の投資はリスクが高いですから、まずは勤怠専門システムやワークフローシステムを短期で安価に導入しようということで、ERPの検討は優先度が下がっていた時期です。
2020年後半~2021年中盤
2回目の緊急事態宣言が発出されたのは2021年1月ですが、1回目の緊急事態宣言が終了してから感染者が増加してきた2020年の秋口以降、宣言の有無に関わらず在宅勤務は定着してきましたので、ストップしていた大型のシステム導入の検討が再開し始めました。
ここから、システム対応を後回しにしていた収益認識基準への対応が目的の商談が多く発生しました。
データ移行等の問題で、期初からシステムを稼働させるのが一般的ですが、多くの会社の期初である2021年4月までは時間がなく、ターゲットはどうしても2022年4月になります。
収益認識基準の適用は2021年4月から始まる会計期間に対してなので、コロナによって計画が遅れてしまったことになります。
そして現在 2021年後半
2021年夏以降は2022年1月から開始される電子帳簿保存法への対応ニーズが高まっています。ERPは取引書類の発行や帳簿の出力が可能なため、電子帳簿保存法と関連性が強い分野のシステムです。電子帳簿保存法専門のファイル管理システム等との同時導入・連携も活発に検討されています。
やれることをできるだけ早く
このように見ていきますと、この2年程の間に様々なシステム導入のトピックがありました。
コロナの状況が落ち着きを見せている現在では、収益認識基準、テレワーク対応、電子帳簿保存法すべてを網羅するような検討をされるお客様も出てきております。テーマが多ければ多いほど、あちらを立てればこちらが立たずと導入の難易度は上がっていきます。
疫病の流行にせよ税制改正にせよ、予測できない事柄に対処はできないですが、書類の電子化等は前々から、「いつかはやらなくてはいけない」というものではありました。
そういった意味で、常日頃から情報を収集し、早め早めに対応していくことが肝心と言えるのではないでしょうか。
筆者プロフィール
- 営業職。カレーが好きです。得意技は福岡日帰り出張。
最新記事一覧
- ERP2023年12月19日ERP×RPA事例:システム連携に伴うExcel加工の自動化
- コーポレートIT2023年10月2日システム開発業で、請負契約を管理するためのシステムに必要な機能について
- コーポレートIT2023年9月15日元SES担当者が語る!SES契約管理でシステムに必要な機能は?準委任契約との違いも解説
- プロジェクト管理2023年8月16日プロジェクト原価計算のみを行うシステムの選定・導入ポイント