請負契約に関する民法改正についての解説

2020年4月1日に民法が一部改正されてから、半年が経過しました。今回の改正では債権に関する法律が多数変更されましたが、そのなかから請負契約に関する内容について本記事では解説します。

 

請負契約とは

請負契約とは、請負人となる事業者が目的物を完成させ、注文者となる相手が、その完成した目的物と引き換えに報酬を支払う契約を指します。建設業やソフトウェア開発業において一般的な契約形態です。

今回、この請負契約に関する改正は大きく分けて4つあります。

 

今回の改正内容

請負契約の報酬に関する改正

前述したように、請負とは目的物と引き換えに報酬を支払う契約であるため、完成に至るまでは報酬の請求はできませんでした。

ここで請負人に何かしらの問題が発生し、目的物の完成が見込めなくなった場合を想定してみましょう。目的物の完成が見込めない以上、契約解除等の対応がとられます。この際、注文者側に一切の利益がなければこの対応には何ら問題はないでしょう。一方で、仕事は途中であるものの、そこまでの成果でも注文者が利益を得られるとしたらどうでしょうか。

例えば、『ある作業を全て自動化するためのソウトウェアを発注していたが、請負人の都合で開発は途中で止まってしまった。しかし、作業の前半50%を自動化できるところまでは完成していたので、せっかくなら使おう』というような場合です。もしくは、50%までは開発したが、そこから先は別の事業者に仕事を引き継いだ場合等も該当します。

この場合、請負人としては、完成はできなかったけれど、利益を与えてはいるのだから、途中までの報酬を請求してもいいのではないかと考えると思います。

 

これまで民法にはこのような途中で契約解除された場合の報酬について明記されていませんでしたが、判例においては利益の割合に応じた報酬の請求は可能との判断が下されてきました。

こうしたルールの曖昧さから、請負人と注文者との間で紛争に発展するケースも少なくありませんでした。

そこで今回の改正では、

  1. 目的物の完成が見込めなくなった場合
  2. 請負契約が目的物の完成前に解除された場合

について、未完成の目的物によって注文者が利益を得ることができる場合、請負人は利益の割合に従って報酬を請求できることが明文化されました。

補足として、目的物の完成が見込めなくなった原因が注文者にある場合は、請負人は報酬の全額を請求することが可能となっています。

 

請負人の担保責任の整理

1つ目の改正点は請負人に有利な内容でしたが、これ以降は注文者に有利なものとなっています。

請負契約において目的物に問題があった場合、注文者は請負人に対して担保責任を追及することができます。

注文者はこれまで責任の追及方法として、

①修補の請求
②損害賠償請求
③契約の解除

から選択することができました。

一方、請負契約ではなく売買契約において商品に問題があった場合にも、買い手は売り主に担保責任を取らせることができます。この場合の追及方法としては、

②損害賠償請求
③契約の解除

のどちらかを選択できましたが、今回これらに加えて、

④代金減額請求

を認める運びとなりました。

この変更により、請負では①~③、売買は②~④が選択肢となります。

しかし、請負契約と売買契約は、どちらも財・サービスの提供に対して金銭を支払うという点で、契約形式としては類似しています。その2つの間で責任追及の選択肢に明らかな差があるのは合理的ではありません。

よって、今回の改正ではどちらの契約形態でも①~④から選択できるように変更されました。

また、改正前の民法では、仕事の目的物に『瑕疵』があった場合に請負人が担保責任を負うと規定されていました(瑕疵担保責任)。瑕疵という言葉は本来、傷や欠点を意味します。

しかし、現代ではこの規定における瑕疵という言葉は、『目的物の契約内容と一致しないところ』として解釈されており、あまり適切ではない用語となっていました。

そのため、今回の改正で瑕疵担保責任は廃止され、代わりに、目的物と契約の内容に不一致がある場合に、請負人が担保責任を負う、契約不適合責任が改めて規定されました。

 

担保責任追及期限の見直し

前述した担保責任の追及について、これまでは目的物の受け渡しから1年以内に権利を行使しなければならないという制限がありました(例外として建築請負は5年以内、かつ、その建築物が石造、金属造等なら10年以内)。

この規定の問題点としては、まず契約内容と一致しない点を引き渡しから1年以上経過してから知った場合にどうすることもできないという、注文者にとって不利な点があげられます。

また仮に期間内に気付けたとしても、1年以内に権利行使まで行わなければいけないので、注文者の負担が重いことも課題でした。

そのため、今回の改正で、契約に適合しないことを知ってから1年以内に、その旨の通知が必要と改められました。

また、改正に伴い建物等の例外的取扱いは廃止されました。

 

建物等の建築請負における解除権の制限の見直し

これまで土地工作物(土地に接着している設備全般)の請負では、目的物に深刻な瑕疵があっても、注文者は契約を解除することができませんでした。注文者にとって不利な規定となっており、これは注文者の損失よりも社会経済上の損失を考慮すべきという価値観があったためだといわれています。

とはいえ、現代においては受け入れがたい内容です。加えて、判例では建替費用に相当する金額の損害賠償が認められています。

そのためこの規定は事実上無意味な法文と化していましたので、今回の改正で削除されることになりました。

 

今後の対応

今回の改正によりビジネスの現場では少なからず影響がでることが予想されます。最後に、請負人としての立場と注文者としての立場、それぞれで注意すべき点をあげていきます。

 

請負人

請負人の立場では、途中で契約解除となった場合にも、部分的な報酬の請求が可能であると明文化されたのが、特に重要な点です。部分的な請求を行う場合、注文者が得る利益の割合によって報酬が決定されるため、その割合の算出方法等を予め契約書類に記載しておくと、トラブルが避けられるでしょう。

それに伴い、完成に至らなかった際の損失を最大限に防ぐためにも、社内における工程の管理をしっかりと行うことをおすすめします。

反対に、担保責任の追及に関しては請負人に不利な改正です。念のため、契約書の瑕疵担保責任に関連する条文が、契約不適合責任に対応しているか確認するとよいでしょう。そのうえで、(特に建設を請け負う場合は)従業員への教育を強化し、注文内容と齟齬がないよう設計、作成をすることが求められます。

 

注文者

今回の改正には注文者に有利な内容が多く含まれています。注意点としては、契約不適合責任は任意規定であり、契約書に別途記載がある場合そちらが優先されます。そのため、請負契約を締結する際は、請負人側の条件が改正法に則っているかを確認することが重要です。具体的には、担保責任追及の範囲がどうなっているのか、目的物の不適合を知った場合、通知の受理に関してはどう対応してもらえるのかが明記されているか注視するべきでしょう。

また、注文者に不利な改正として、未完成時にも報酬を支払わなければならない可能性が強まりました。この点に関しても、どの程度のリスク要因となり得るかを慎重に判断することを推奨します。

 

参考:

  • 法務局 民法(債権関係)の改正に関する説明資料 http://www.moj.go.jp/content/001259612.pdf

 

※本記事の正確性については最善を尽くしますが、これらについて何ら保証するものではありません。本記事の情報は執筆時点(2020年10月)における情報であり、掲載情報が実際と一致しなくなる場合があります。必ず最新情報をご確認ください。

 

筆者プロフィール

田中 悠喜
田中 悠喜ビーブレイクシステムズ
営業部所属。ERPパッケージ「MA-EYES」の営業に携わっている。大のカラオケ好きで、ほぼ毎週行っている。

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