持続可能な社会の実現に貢献する「フードテック」<デジタルトランスフォーメーションを考える17>

テクノロジーの力で食品廃棄・食品ロスの問題を解決する

記録的豪雨により、九州から中部地方の広い範囲で被害が拡大しています。このたびの令和2年7月豪雨により被災された皆さまに、心からお見舞い申し上げます。日本だけではなく中国でも、長江流域などで大雨による洪水や土砂崩れなどが起き、多数の死者が出ています。世界中で頻発し、年々厳しさを増す印象がある自然災害は、地球温暖化と無関係とはいえないでしょう。

 

地球温暖化は、人間の活動で排出される温室効果ガスの増加が原因とみられています。地球環境に負荷をかける要因はさまざまですが、その一つに食品廃棄・食品ロス(フードロス)(※1)の問題があります。世界では、生産される食料の3分の1が廃棄され、その量は1年あたり約13億トンともいわれています(出典 : 国連食糧農業機関「世界の食料ロスと食料廃棄(2011年)」)。日本で1日に出る食品廃棄量はトラック1760台分。日本の年間の食品廃棄処理費用は2兆円に上ります(出典:消費者庁 「食品ロス削減関係参考資料(令和元年7月11日版)」)。

(※1)「食品廃棄」は可食部以外の部分や腐敗してしまった部分など、本来食べられないものを廃棄すること、「食品ロス」は売れ残りや期限を超えた食品や食べ残しなど、本来食べられるにも関わらず捨てられてしまうものを指します。

 

デジタルトランスフォーメーションを考える(5)今、注目すべきビジネスキーワード、 “SDGs”とは?でご紹介したSDGsでは、2030年までに小売・消費における一人あたりの食料廃棄を半減させ、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる目標を掲げています。日本政府も「SDGsアクションプラン2019」の中で、家庭における食品ロス削減の取り組みの普及啓発や、サプライチェーンの商習慣の見直しなど、食品廃棄物の削減や活用に向けた取り組みを始めています。

 

新型コロナウィルスでは、飲食店の営業停止やイベントの中止、サプライチェーンの崩壊などにより、世界各地で大量の食物が廃棄処分となったり、食料品の供給が不安定になったりなども事態が起こりました。食品ロスや食の安定供給の問題が改めて浮き彫りになるなか、先端技術でこれらの問題を解決する「フードテック」の動きは活発になっており、投資家からの注目を集めています。

 

アメリカの調査会社ピッチブックによると、フードテックへの世界の投資額は2018年には75億ドル(約8100億円)に達しています。フードテックは、食の生産・加工・流通過程でのソリューションにとどまらず、植物肉や昆虫食などの代替食の研究開発、IoTやAIを活用したスマート農業、インターネットと家電が連携したりするスマートキッチンなど、あらゆる分野へと広がっています。今回は、その中から注目度の高い事例をいくつかご紹介します。

 

2億5000万ドルを調達した注目のフードテック企業

フードテック分野で、先日、2億5000万ドル(約270億円)を調達して注目を集めたのが、アメリカのApeel Sciences (アピール・サイエンシズ)社です。同社は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団から受けた10万ドル(約1070万円)の助成金で会社をスタートし、地道に事業開発に取り組んできました。今回、司会者のオプラ・ウィンフリー、歌手のケイティー・ペリー、またシンガポールが所有する投資会社などの大手投資会社の支援を受け、時価総額10億ドル(約1070億円)超えの世界的企業へと成長しています。

Apeel Sciences社は、植物由来の物質を新鮮な農産品の表面にスプレーし、コーティングする(第二の皮”peel”をつくる)ことで腐敗を遅らせる技術を開発しています。これまでは収穫後の農産物に殺菌剤、防かび剤を塗布することで長持ちさせたり、使い捨てプラスティック包装を使って輸送中の破損を防いだりしてきましたが、これらの方法は、食品ロスとはまた別の深刻な環境問題の原因ともなっています。しかしApeel Sciences社の技術を使えば、人体にも環境にも安全な方法で、青果物を従来の2~3倍長持ちさせことができます。

また、保冷インフラが整っていない発展途上国では、収穫後の農産物が簡単に腐敗してしまうことから、食品ロスが深刻な課題となっています。Apeel Sciences社はアフリカ、南米などの青果物生産者とも契約し、保冷することなしに鮮度を維持したまま北半球(米国、ヨーロッパなど)の消費者が年間を通じて新鮮な青果物を入手できるよう物流システムを構築しています。

 

画像解析AI技術を使って、外食産業における食品廃棄を削減

アメリカのWinnow Solutions(ウィノウ・ソリューションズ)社が提供するのは、画像解析AI技術を使って、外食産業における食品廃棄物を削減するソリューションです。レストランの厨房のゴミ箱にスマートスケールを取りつけると、食品を廃棄した瞬間に画像がキャプチャされ、廃棄された食材の種類と重さと金額が自動的に算出されます。何をどのくらい捨てたのかという分析レポートが毎日配信されるため、レストラン経営者・スタッフは、メニューや食材の購入量、調理法などを日々改善することができます。

IKEAは同社のソリューションを活用し、イギリス国内の店舗で発生する食品ロスを半減させられたと発表しています。また、世界でホテルを展開するインターコンチネンタルホテルズグループも、グループ全体で同社のソリューションを採用することを計画しています。先行してサービスを導入したアラブ首長国連邦のインターコンチネンタル・フジャイラ・リゾートでは、わずか6か月で、食品廃棄物を50%以上削減することに成功しました。

 

マッチングアプリで行き場を失った食品を救う

新型コロナウィルスの蔓延により世界各国で、外食産業や給食、イベントなどに卸す予定だった大量の食材が行き場を失ってしまいました。一方で、サプライチェーンが分断されたことにより、スーパーマーケットには食品が何もないという状況が続きました。イギリスのスタートアップ企業FruPro(フルプロ)社は、この危機に対応しようと、余った生鮮食品を在庫に持つ食品卸や外食・給食などの売り手と、それらを必要としている小売などの買い手をつなぐマッチングプラットフォームを立ち上げました。当初は手数料を徴収するビジネスモデルを計画していましたが、新型コロナウィルスでダメージを受ける業界を支援するため、無償版をリリースしています。大手食品卸業のReynolds社がこのプラットフォームに参画したことで注目を集めていますが、同社は今後、チェーン店のみならず、より小さい町の食品店やフードバンクなどに余剰食品をマッチングさせることを目指しています。

FruProはB to Bのサービスですが、日本ではB to Cのサービスがいくつか登場しています。フードシェアリングサービスTABETEは、売れ残りなどにより廃棄の危機に面している食品と「食べ手」をつなぐサービスです。消費者にとっては、もとの値段よりも割安で購入することができ、飲食店にとっては、フードロスを削減するだけではなく、新規顧客の開拓や売上向上につなげることができるというメリットがあります。会員数は800店舗25万人にまで拡大しています。

 

食のサプライチェーンは、生産者・加工業者・食品メーカー・卸売業者・小売業者などが関与し、商習慣が複雑化しています。また農作物の生産量や物流事情、気象、消費者の購買行動など、様々な要因に影響を受けやすいという特性があります。AIなどによって、高度な需要予測も実現されつつありますが、パンデミックや災害など不測の事態を正確に予測して生産を調整することは非常に困難です。災害時にも対応できるフードテック、また防災面でも役立つフードテックが今後さらに強く求められていくのではないでしょうか。

 

温暖化対策、サステナビリティが世界のメガトレンドとなるなか、新型コロナウィルスで得た経験と知見を生かしたフードテックに、今後も注目していきたいと思います。

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。

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