ウィズコロナ、アフターコロナのMaaSを考える ②<デジタルトランスフォーメーションを考える15>

Beyond MaaSとは

ヨーロッパのMaaSが交通サービスに特化している一方で、日本ではモビリティ産業と異業種の連携による新たなビジネスモデルが生まれています。この流れは“Beyond MaaS”と呼ばれています。

日本では、古くから鉄道会社が都市形成において大きな役割を担ってきました。沿線の住宅開発・ターミナル駅での百貨店開業・観光ビジネスなど、輸送サービスと移動の目的となる事業を総合的に展開することで、ビジネスに相乗効果を生み出し、まちづくりに貢献してきました。交通と生活・娯楽を密着させ、多角的な事業を展開する土壌のある日本ならではのMaaSが、今、注目を集めています。

2019年3月に国土交通省が発表した「都市と地方のモビリティサービス懇談会」の中間とりまとめでは、日本版MaaSが目指すべき姿として、

利用者にとっては、例えばある一つのスマートフォンアプリを立ち上げれば、全国津々浦々の交通手段の検索から予約・決済までができるようになり、さらには、病院や飲食店、行政サービスなどの予約・決済もワンストップで行えるようになる。これにより、人々の外出や旅行など移動に対する抵抗感が低下することで、移動・交流意欲が高まり、健康が増進され、まちや地域全体も活性化し、豊かな生活が実現すること

としています。

まだ芽が出たばかりの日本版MaaSですが、さまざまな分野でサービスが提供され始めています。

 

モビリティ×生活サービス

小田急電鉄は2019年10月に「Emot(エモット)」というMaaSアプリをスタートさせました。Emotでは、鉄道・バス・タクシー・シェアサイクルなどを組み合わせた経路検索ができるほか(予約・決済機能については、今後追加される予定)、企画乗車券や観光きっぷの電子チケットを購入することができます。また商業施設で一定金額の買い物をすると、バスの無料乗車券が電子チケットとしてプレゼントされるなどの取り組みも行っており、デジタルならではの運賃の柔軟化、外出ニーズの喚起、キャッシュレス化などを積極的に推し進めています。Emotのユニークな点は、駅構内の飲食店で利用できる定額制の電子チケットも購入できるということです。現時点では新宿駅と新百合ケ丘駅のみでの展開となっていますが、移動も飲食もサブスクリプションで提供されるようになれば、人々の生活スタイルは大きく変化しそうです。

 

モビリティ×不動産

トヨタ自動車とソフトバンクが出資して設立されたMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)は、日鉄興亜不動産と提携し、マンションの住民向けMaaS「FRECRU(フリクル)」の実証実験をスタートしました。FRECRUはマンション専用のオンデマンドモビリティサービスです。通勤時間帯には、マンションから駅までシャトルバスが運行され、それ以外の時間帯は、このバスをオンデマンドバスとして利用することができます。オンデマンドバスとは、スマートフォンアプリで予約した乗客のリクエストに応じ、AI が効率的なルートを選びながら運行する乗り合いサービスです。人気が下がりつつある郊外物件にいつでも便利に利用できる移動サービスを付加することで、不動産の価値を高めようというのが、このサービスのねらいです。

また、月額制で全国の家に自由に住めるという多拠点ライフプラットフォームサービスを展開する「ADDress(アドレス)」は、ANAと提携し、航空券定額制サービスを提供しています。ADDressのユーザーは、月額3万円の追加料金を支払うことでANA国内線の指定便を片道月4回分まで利用できます。新型コロナウィルスにより、テレワークの導入が一気に進んだ今、住む場所に対する人々の価値観も大きく変革しています。好きなときに住みたいところに住む、好きなときに好きなところで仕事をするという新たなライフスタイルを創出しようとしています。

 

モビリティ×飲食店

「Mellow(メロウ)」は、フードトラック・プラットフォームとしてビルの空きスペースとフードトラックをマッチングするサービスです。東京・横浜を中心とした190ヶ所以上のランチスペースの運営や、イベントの飲食エリアの運営を行っています。Mellowは、昨年の豪雨によって停電が続く千葉県にいち早くフードトラックを派遣しました。さらに今回の新型コロナウィルスでも、自粛の影響を受けた飲食店の事業の継続を支援するため、飲食店が手軽にフードトラックを開業できるサブスプリクションサービスを開始しています。

 

新型コロナウィルスの影響により、顧客が移動せずにサービスを受けられる流れが、あらゆる分野で加速しています。オンラインサービスや宅配、サービス提供側が顧客の元へと移動するなど、その形はさまざまですが、「いかに人を呼ぶか」ではなく、「どうすれば人を呼ばすにサービスを提供できるか」という発想は、コロナ禍だからこそ生まれたものだといえます。MONET Technologies も、医療機関やコンビニエンスストアなどの役割を果たす車が顧客の近くまで移動してサービスを提供する構想を掲げており、将来的にはそれを自動運転車に置き換えることを視野に入れています。

人々の移動や密集が制限されている今、このような移動サービスや、フードトラックやキャンピングカーのシェアリングサービスは、災害時の避難生活支援・医療支援の面でも大きく期待されています。

 

ウィズコロナ・アフターコロナ時代のMaaS

緊急事態宣言が解除され、生活が徐々に元に戻ろうとしています。とはいえ、感染拡大のリスクが減少しているわけでは決してなく、大都市では通勤・通学における感染予防が非常に重要になっています。

JR東日本をはじめ、東急・小田急などの私鉄各社、乗換案内・地図アプリ各社は、駅や車両の混雑率などをリアルタイムで確認できるサービスの提供を始めました。国土交通省も、バスなど公共交通機関の混雑状況を可視化できるアプリを開発することを発表しています。以前に比べて交通のデジタル化は進んでいるものの、移動手段が変わるたびに別のアプリやWebサービスを使用しなくてはいけないというのは、MaaSの観点からすると、まだまだ発展途上です。

 

より多くの人に便利で快適な生活を提供しながら、環境に優しい交通体系を実現させるためには、官民でデータを共有し、多種多様なプレーヤーのサービスを統合することが不可欠です。フィンランドでは、国家レベルでオープンなエコシステムの構築を目指した規制緩和・規制整備を推進しており、交通事業者にオープンデータやオープンAPIを義務づける法律がすでに国会に提出されています。前回のウィズコロナ、アフターコロナのMaaSを考える ①で紹介したレベル4に通じるモビリティプラットフォームが確立すれば、人々の交通行動に関するデータの量と質が格段に高まり、新たなビジネスの創出が期待できます。

 

日本では国の支援のもとでのMaaSの実証実験がスタートしたばかりです。先日、経済産業省は昨年の取り組みで得られた知見を整理・公開するとともに、令和2年度の新たなパイロット地域の公募を発表しました(経済産業省ニュースリリース「新しい地域MaaS創出を推進!今年度もスマートモビリティチャレンジを牽引する先進パイロット地域を公募します(2020年4月22日発表)」より)。

新型コロナウィルスの影響により、「人々の移動にともなって、経済活動が促進される」というモビリティサービスの前提が、根底から覆されることになってしまいましたが、このような状況だからこそ求められるサービスも次々と生まれています。人々の暮らしに密着したモビリティプラットフォームは、あらゆる分野のビジネスチャンスを秘めています。

どの事業者がイニシアチブをとるのか、規制やプライバシーの問題など、課題は多くありますが、百年に一度の大変革ともいわれているこの大きな動きのなかで、MaaS×自社サービスの可能性を考えてみるのも、面白いかもしれません。

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。

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