サステナビリティ時代の企業の生き残りを左右する!? サーキュラー・エコノミーとは?<デジタルトランスフォーメーションを考える36>

リニア・エコノミー(線形経済)からサーキュラー・エコノミー(循環経済)へ

近年、ESG指標に基づいた経営の重要性が増しています。Bloombergによれば2025年末までにESG投資額は53兆ドルに達するとも予想されており、ESGに取り組む企業が高い価値を有するという見方が一般的になりつつあります。そんななか、注目されているのが「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」という言葉です。

 

サーキュラー・エコノミーとは、従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」のリニアな経済(線形経済)に代わる、 製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小化した経済を指します(参照:サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環分野の取組について 経済産業省・環境省 )。

 

リニア・エコノミー(線形経済)とは、資源を「採取し」、製品を「作って」、「廃棄する」という一方通行の経済システムです。これまでの社会はこのリニア・エコノミーのもとで成り立ってきましたが、大量生産・大量消費・大量廃棄の経済システムは地球環境に大きな環境負荷を与えており、海洋プラスチック問題や地球温暖化は避けられない課題として目の前に迫っています。さらに、ここ数年の新興国の急速な経済発展によって資源需要も増加しており、将来的に資源の安定確保が困難になる可能性も指摘されています。従来のリニア・エコノミー線形経済に限界が見え始めている今、グローバル規模で「廃棄物を出すことなく資源を循環させる」サーキュラー・エコノミーにスポットライトが当たり始めているのです。

 

日本では1990年に「再生資源利用促進法」が制定され、”Reduce”(資源の使用と廃棄物の排出抑制)、”Reuse”(再使用)、”Recycle”(再生利用)の“3R” をスローガンとした環境政策が推進されてきました。この”3R”は「発生した廃棄物の活用・処理するか」に取り組むものであり、廃棄物を排出することが前提となっています。一方、サーキュラー・エコノミーは「廃棄物と汚染を発生させない」ことを第一の目的としています。

 

サーキュラー・エコノミーで雇用と市場競争力の向上を目指すヨーロッパ各国

サーキュラー・エコノミーを引っ張っているのは、ヨーロッパの産業界です。オランダやフランス、ドイツでは国を挙げて取り組みを進めており、サーキュラー・エコノミー型のビジネスモデルを経営の中核にすえて活動する企業も増えています。

 

ヨーロッパがサーキュラー・エコノミーに向けて大きく動き出すきっかけとなったのが2015年に欧州委員会が発表した「サーキュラー・エコノミー(CE)制作パッケージ」です。同パッケージの主な目標は2030年までに「加盟国全体での廃棄物の65%および包装廃棄物の75%をリサイクルし、埋め立てを10%削減する」というものです。そのほか食品廃棄物削減のための行動計画やプラスチックについての戦略、水の再利用に関する一連の行動計画などが含まれています。このパッケージが特徴的なのは、環境保護にとどまるのではなく、資源の有効活用と雇用確保を結びつけ、ビジネスチャンスを創出して市場競争力を向上させることを目指しているところにあります。環境問題への取り組みというと日本ではCSR活動のイメージが強いかもしれません。しかしヨーロッパの先駆的企業は、「そもそも廃棄物が発生しにくい製品設計をする」、「ビジネスモデルごと変換する」など、環境保護を超えた新たなビジネス戦略に取り組んでいるのです。

 

サーキュラー・エコノミーに関する5つのビジネスモデル

ドイツのシーメンス社のリッツェンキルヘン環境保護担当副社長は、サーキュラー・エコノミーに関するビジネスモデルについて、次のように語っています。

「サーキュラー・エコノミーに関する5つのビジネスモデルとして、まず製品寿命の延長、そしてプラットフォームを活用したシェアリングモデル、さらにリースによるPaaS(プロダクトアズアサービス)、廃棄物の再利用、製品の再利用が挙げられます」(梅田靖・21世紀研究所著、『サーキュラー・エコノミー –循環経済がビジネスを変える』 勁草書房、2021年、kindle版、 位置No.333)

 

今、欧米ではサーキュラー・エコノミーとデジタル戦略を融合させることにより、他企業との差別化を図る動きが生まれています。では、企業はこの5つのビジネスモデルをどのように組み込んでいるのでしょうか

 

1.製品寿命の延長

製品の回収、修理、アップグレード、再製造、再販売などにより製品を保守・改善し、新たな価値を加えて可能な限り製品寿命を延長すること。例えばエレベータメーカーのシンドラー社は、エレベーターロープ用の素材や駆動装置を新たに開発することで、製品寿命を延ばすだけでなく、エネルギー消費や資材の利用削減に取り組んでいます。

 

2.プラットフォームを利用したシェアリングモデル

今や車や宿泊施設、日用品から人のスキル(能力)まで、あらゆる分野にシェアリングサービスは拡大しています。遊休資産を有効活用するシェアリングサービスは、サーキュラー・エコノミーを実現する重要なビジネスモデルとして考えられています。

 

3.リースによるPaaS(Product as a Service)

PaaSというと”Platform as a Service”が真っ先に思い浮かぶかもしれませんが、ここでいうPaaSは”Product as a Service”、つまり製品のサービス化です。以前のコラム「あらゆるものが『as a service化』する!?」では、ミシュラン社の例を紹介しました。ミシュランはタイヤを売る会社ではなく、「走行サービス」を売る会社に進化しています。製品を売り切ってしまうと製品の所有権はユーザーに移ってしまい、メーカーが利用状況を管理することができません。製品を売るのではなく、IoTなども活用しながら機能・価値をサービスとして提供するビジネスモデルへと転換することで、メンテナンスからリサイクルまでのすべてのプロセスをメーカー側が管理することができるようになります。トータルサービスとして提供すれば、廃棄を出さずに済むだけではなく企業の収益も向上させることができます。

 

4. 廃棄物の再利用

オランダのベンチャー企業Black Bear社は、廃タイヤをもとに塗料やインク、新品タイヤの製造を行っています。またCO2排出量の少ない製造方法も開発しており、大きな注目を集めています。 またこちらはカナダの企業ですが、ビットコインのマイニングサービスを提供するMintGreen社は、エネルギー会社と提携し、ビットコインのマイニングで生まれた予熱を家庭の暖房やウィスキー醸造・製塩などの産業に利用する計画を発表しています。ビットコインは過剰にエネルギーを消費することがひとつの課題となっています。既存ビジネスにおける負の副産物や廃棄物を資産として活用する新しいビジネスが、今後どんどん生まれてくることが期待されています。

 

5. 製品の再利用

ものを売り切るのではなく、製品のリユースを推進させ、一定のルール・規格の下で機能や価値を取引・交換するビジネスモデルです。オランダの医療機器メーカー、ロイヤルフィリップス社は技術の進化により古くなってしまった医療機器を再生し、新製品と同様の品質保証と保証期間を持った製品を 新製品の価格の 60~85%で販売しています。これにより、廃棄を削減し医療機関のコスト削減にも貢献しています。

 

サーキュラー・エコノミーは企業の存続にも影響を与える

2021年9月には、ヨーロッパ委員会がスマートフォンなどの充電ポートを「USBタイプC」に統一する指令案を発表し、話題となりました。すべての電子機器の充電ポートが「USBタイプC」に統一されてしまったら、Lightning端子を採用しているApple 製品は大きな影響を受けることとなります。このように、今後さまざまな分野でサーキュラー・エコノミーを前提とした規制化・標準化が進むことが考えられます。規制化・標準化が100%良いことなのかというのは議論が必要ではありますが、規制が進めば企業は新たなルールに対応せざるを得なくなります。製品やサービスのライフサイクル思考や製品・部品の長寿命化が当たり前になれば、新たなソリューションビジネスやプラットフォームサービスを開発することが不可欠となります。

 

サーキュラー・エコノミーは、企業活動のおまけとして「環境に優しくしましょう」というレベルではなく、企業の生き残りに関わる大きな動きになることは間違いないでしょう。日本では、経済産業省が2020年5月に「循環経済ビジョン2020」を発表し、日本が重点的に取り組むべき内容を挙げています。サーキュラー・エコノミー時代に向けて、事業そのもので環境問題を解決するような経営戦略を打ち出し、自ら市場を創造するようなイノベーションを起こす姿勢が、今、企業に求められています。