デジタルトランスフォーメーションを考える(16)~ダイナミックプライシングが社会に与える影響とは?〜

ダイナミックプライシングとは

先日、ある飲食店のドアに掲示された貼り紙が、SNS上で話題となりました。この飲食店のメニューは定食1種類のみですが、貼り紙には「本日の価格予測表」として「11時30分〜 1100円、12時1分〜 1500円」など、時間帯によって異なる価格が記載されていました。混雑しそうな時間帯に価格を上げ、来店が少ない時間帯には価格を下げることで、訪れる顧客の数を調整し、店内での新型コロナウィルスの感染を避けることがねらいのようです。

この飲食店のように、商品やサービスの価格を需要と供給に基づいて変動させる手法を「ダイナミックプライシング」といいます。

航空券やホテルなど、季節やイベントの有無によって商品・サービスの価格が変動する仕組みは古くから存在しており、とくに目新しいものではありません。しかし、技術革新によって消費データをはじめ、あらゆる情報を即座に取得することが可能となった今、AIなどを使って需要予測を行い、より高頻度に商品やサービスの価格を変動させる動きが広がっています。

 

ダイナミックプライシングの手法

これまでのダイナミックプライシングは「競合他社の価格よりも安く設定する」、「消費期限が2日以内のものは30%値引きする」など、人が予め決めたルールに従って段階的に商品価格を変更するというのが主な方法でした。

一方で、最近主流となっているのが、機械学習をもとに需要予測を行う方法です。天気や近隣のイベントの有無、曜日など、考えうるあらゆる変数をもとにその時々で需要予測を行い、それをもとに価格を決定します。

 

Amazonはダイナミックプライシングを最も積極的に活用している企業のひとつです。同社は競合他社の商品価格を基準とするだけではなく、過去の売れ行きなどのビックデータ分析から予測された商品の需要情報や、ユーザーの購買履歴などを考慮し、常に収益を最大化できる価格を商品に適用させています。ご存知の方も多いと思いますが、Amazonでは1日に何度も商品の価格が変わります。商品を購入した直後に、同じ商品を見ると、もう価格が変わっている、ということも珍しくはありません。Amazonを筆頭に、ECでは激しい価格競争が繰り広げられています。

ECにおける価格競争は、リアル店舗にも広がっています。ビックカメラは昨年、値札に電子ペーパーを使い、表示価格を随時変更するシステムを採用しました。家電量販店はこれまでも、他店の動向を見ながら値札を常に差し替えるということを積極的に行ってきました。しかし、値札の張り替えには人手がかかります。値札を電子化することで、機動的に価格を変更することが可能になったため、常に変動するEC価格に合わせ、ほぼリアルタイムで店頭価格も変動させています。

その他、スポーツ業界やエンターテイメント業界などにもダイナミックプライシングは広がりを見せています。国内のエンターテイメント施設では、ユニバーサルスタジオジャパンがいち早く採用し、注目を集めました。スポーツ業界では、Jリーグやプロ野球の球団でもすでにダイナミックプライシングが採用されています。

ダイナミックプライシングが抱える課題

同じ商品・サービスの価格が時と場合によって変更されることに、それほど違和感を感じなくなってきている今日この頃ですが、ダイナミックプライシングは、企業が顧客の信頼を失うリスクもはらんでいます。

2019年11月に開催されたある音楽フェスは「日本初、ダイナミックプライシングで全席を販売」とうたってチケットを販売し、業界内外から注目を集めました。しかし、チケット販売直後に1万円以上の価格で販売されていた席が、イベント開催直前には数千円で販売されたり、突然席種が変更されたりするなどの混乱が起き、SNSなどで大炎上してしまいました。購入意欲が高いロイヤルカスタマーほど損をしたように感じてしまったことが炎上の原因でした。このような価格設定では、顧客は到底納得することはできないでしょう。

ダイナミックプライシングは企業側が収益を最大化するための手法なので、価格を決定する企業側が圧倒的に有利な立場にあります。したがって顧客が納得できるような理由が示されなかったり、顧客が理解できないほどの幅で価格が変動したりすると、顧客の信頼を失い、顧客が離れていく可能性があります。商品やサービスの価格設定には、顧客の納得感や価格変動の背景にあるストーリーを丁寧に説明することが不可欠です。

 

AIの機械学習はどのようなデータを学習するかによって計算結果が大きく変わってきます。収益を最大化しつつも、顧客が納得できるような価格を導き出すために、プライシングの担当者がこれまで積み上げてきた経験や勘をAIにどう学習させるかが、現状のダイナミックプライシングの大きな課題となっています。

 

社会の非効率を解消するダイナミックプライシング

さて、ダイナミックプライシングは、交通渋滞や非効率な電力消費などの社会問題を解決する力も秘めています。

例えば高速道路の交通量を予測し、交通量の多い時間に高い料金を設定すれば、利用者に対して価格の安いタイミングでの移動をうながし混雑を緩和できる可能性があります。アメリカのミネソタ州などではすでにダイナミックプライシングによる混雑緩和の効果が見られており、日本でも高速道路における実証実験が進められています。

また経済産業省は、2024年までに全国の5,000万世帯にスマートメーター(次世代型デジタル電力量計)を設置する計画を発表しています。スマートメーターが取りつけられれば、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)を活用して、30分単位での電気使用量を電力会社が把握できるようになります。季節・時刻等による電力需要の変動を予測し、それをもとに電気料金を決めることができるようになるため、例えば夏場の需要の多い昼間には電気料金を高く設定し、需要の少ない深夜には安く設定することで、電力需要の逼迫を解消できるといわれています。

 

ダイナミックプライシングは、フードロスを削減する手段としても期待されています。現在、スーパーマーケットなどでは、電子タグ(RFID)などを活用し、賞味・消費期限に応じて電子値札の表示の変更やSNSを使った顧客への通知を自動的に行う取り組みが進められています。これは、商品に添付した電子タグに賞味・消費期限を記録しておき、棚に設置したリーダーで読み取ると、電子値札にその期限に応じた値下げ価格が自動的に表示されるというしくみです。この情報をSNSと連動させれば、値引き情報の通知を受け取ったタイミングで顧客が来店し、商品を購入するという展開も考えられます。

価格は人の行動を決める大きなモチベーションになります。このコロナ禍では、顧客を集めることと混雑を避けることを両立しなければならないという難しい状況にあります。価格を変動させることで集客をコントロールするという方法が、今後さまざまな場面で積極的に展開されていくかもしれません。

 

ホテル・民泊業界で急成長中のインド発スタートアップOYO(オヨ)は、2019年9月にダイナミックプライシングの開発を行うデータサイエンス企業Danamica(ダナミカ)を約10億円で買収しました。Danamicaは賃貸物件のダイナミックプライシングに特化した企業です。OYOはダイナミックプライシングによって、不動産所有者の効率と収益性を向上するとともに、宿泊者も満足できる価格でのサービス提供を強みとしていくようです。

 

人々のニーズが個別化し、ビジネス環境が複雑化するなか、価格を設定するうえで考慮しなければならないポイントも非常に増えています。企業の収益と顧客満足度を最大化するプライシングはとても難しく、多くの企業が価格設定に悩んでいます。今後はプライシング専門のテック企業が増えていくかもしれません。いずれにせよ、このダイナミックプライシングが人々にとってより身近なものになっていくことは間違いないでしょう。

 

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