3Dプリンターが世界を変える!? アディティブ・マニュファクチャリングとは<デジタルトランスフォーメーションを考える11>

コロナウイルスの感染拡大のなかで注目を集める3Dプリンティング技術

新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中の医療機関が危機的状況に陥るなか、さまざまな企業・組織が3Dプリンティング技術を使って医療に貢献しようとしています。

中国国内で感染が広がっていた2月には、上海の企業が3Dプリンターでつくった隔離病室を咸寧(かんねい)市の病院に寄贈したとの報道がなされました。保温性・気密性に優れ、エアコン・トイレ・シャワー完備のおよそ10平方メートルの病室を、1室たった2時間で完成させたというニュースは、私たちを大きく驚かせました。

この事例からはじまって今日まで、多くの企業が3Dプリンターを活用した支援に乗り出しています。一例を挙げてみました。

 

<海外>

  • Formlabs(アメリカ、3Dプリンター企業):新型コロナウイルス感染症の検査に使用するための鼻腔用綿棒を製造。
  • Isinnova(イタリア、3Dプリンター企業):シュノーケリングマスクと人工呼吸器をつなぐ医療用バルブを作製。
  • Nagami Design(スペイン、デザイン会社):医療用フェイスシールドを生産。
  • adidas(ドイツ、スポーツアパレル):アメリカ・Carbon社と共同でフェイスシールドの製造を開始。Carbon社は誰でも製造できるよう、3Dプリンターのプリントファイルも公開。
  • Daimler (ドイツ、自動車製造):フェイスシールドや人工呼吸器などの医療機器を生産。
  • Volkswagen(ドイツ、自動車製造):フェイスシールド用ホルダーの生産を開始。

 

<日本>

  • COVIDVENTILATOR PROJECT(国立病院機構新潟病院、広島大など): 3Dプリンターでの人工呼吸器のモデルが作れる製図データを世界に無償提供。
  • イグアス(IT企業): 繰り返し利用可能な3Dマスクを開発し、3Dデータも無償公開。
  • 大阪大学:シャルマン(眼鏡メーカー)と共同で、クリアファイルと3Dプリンターを使って作れるフェイスガードを開発。設計図を無料公開。
  • トヨタ:日本・アメリカ・ヨーロッパで、医療用フェイスシールドを製作。
  • Apple Tree (3Dプリンター企業):マスク装着中の耳を保護するイヤーガードの3Dプリントデータ(STL)を無償公開。

 

アディティブ・マニュファクチャリングって、一体何?

3Dプリンターを使用した製造方法は、アディティブ・マニュファクチャリング(積層造形)と呼ばれます。アディティブ・マニュファクチャリングとは、立体(3D)データをもとに、熱で溶かした樹脂や金属などの材料を積層してものを作っていく製造方法です。現在の日本の主流は、金型を使った成形や切削加工でモノを作っていく製造方法で、サブトラクティブ・マニュファクチャリング(除去加工)と呼ばれています。

ここ数年、3Dプリンターは、ものづくりのあり方を大きく変える技術として注目を集めてきました。2015年には、航空機メーカーのエアバス社が、新型航空機に使われる部品の多くを3Dプリンターで製造することを発表しました。飛行機の部品は種類が多く、また特注品が多いために部品単価が高いことが大きな課題でした。その部品を3Dプリンターで製造することで、大幅なコスト削減を実現したのです。

航空宇宙事業・ロボット事業など特注部品が多い業界で、主に部品の製造に活用されてきた3Dプリンターですが、技術の発展にともなって、モルタル・石こうなど原材料の応用範囲も拡大し、一般消費者向けの最終製品の製造に活用される事例も増えています。細胞などを原材料としたバイオ3Dプリンターは、再生医療や創薬の研究分野に新たな成果をもたらすことが期待され、技術開発や実用化・商用化に向けた取り組みが進められています。

もちろん、ものづくりのすべてが3Dプリンターに置き換えられるわけではありません。しかし、細胞から住宅まで対応できるアディティブ・マニュファクチャリング市場は、今後、大きく成長することが予想されます。

 

アディティブ・マニュファクチャリングのメリット

アディティブ・マニュファクチャリングには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

 

スピードがはやい

3Dプリンターは、もともとは試作スピードを上げるためのツールとして開発されました。従来のサブトラクティブ・マニュファクチャリングでは、製品試作の際には、まず図面を引き、そこから製造を始めるというプロセスが必要でしたが、3D プリンターを利用すれば、人の手では数日かかるような試作品を数時間で完成させることができます。ビジネススピードが加速している今、3Dプリンターを活用することで、試行錯誤と検証を早いサイクルで繰り返すことができます。

 

多品種少量生産が可能

3Dプリンターは、設計図データをもとに粉末や樹脂フィラメント(糸状の樹脂)などの材料を積み重ねて造形するため、人の手や工作機械では難しい複雑なデザインに対応でき、1品単位で製造することができます。顧客一人ひとりに対応したカスタマイズが可能になるため、製品の付加価値を高めることができるのです。在庫を抱える心配もなく、スピーディーに生産することができるため、顧客起点の新たなビジネスモデルを実現する大きな可能性を秘めています。

 

廃棄物が少なく、環境にやさしい

3Dプリンターによるものづくりは製造に無駄がなく、廃棄物も少ないため、CO2排出量の削減や温暖化の抑止にも貢献できるといわれています(一方で、3Dプリンターはエネルギー消費量が非常に大きいため、環境にやさしいとする説に反論する声もあります)。

また最近では、廃棄食材を原料として3Dプリンターで新たな食品をつくるリサイクル3Dプリントプロジェクトや、豆と海藻をベースとした3Dプリント製「肉」の開発、廃棄自動車部品・ペットボトル・食品生ごみなどを3Dプリンターの原材料に再生するプロジェクトなど、環境に考慮したさまざまな取り組みが行われています。持続可能な生活を実現するツールとして3Dプリンターが活躍する場は、今後さらに増えていきそうです。

 

いつでもどこでも、ものづくりができる

今回のパンデミックでは、工場や物流の停止によりグローバルサプライチェーンが崩壊し、経済活動に大きな打撃を与えています。人や物の流れが途絶えた時に、どう対応するのか。企業は、ビジネスモデルやサプライチェーンのあり方を見直さなくてはならない事態に直面しています。

そんななか、物流依存度を下げる一つの鍵となるのが3Dプリンターです。3Dモデルはデジタル送信できるので、設計データを受信できるネットワーク環境と3Dプリンターさえあれば、物流の途絶えた地域でも、ものづくりをすることが可能です。

コラムの冒頭で、イタリアのIsinnova社が3Dプリンターを使って人工呼吸器のバルブを製造した例を紹介しましたが、これは、ロンバルディア州の病院で人工呼吸器の弁が壊れた時に、3Dプリンターで製造することで急場をしのいだことがきっかけでした。メーカーが納品できず危機的状況にあったところを、3Dプリンターメーカーが救ったのです。

今回のコロナウィルスの感染拡大は、いつどんなことが起こるかわからないということを人々に痛感させる出来事となりました。不測の事態に対応するうえで、物理的な「モノの輸送」を「データ通信」に置き換え、「地産地消」を実現する—たとえ一時的な対応だとしても、これが今後のサプライチェーンのポイントになるのかもしれません。

 

一般市民がサプライチェーンの一端を担う時代が来る!?

3Dプリンターを使って医療品不足の解消に貢献しようとしているのは、企業だけではありません。イギリスでは、医師の呼びかけで3Dプリンターを所有するボランティアが、数千枚のマスクを3Dプリンターで作製し、病院や薬局などに寄贈したというニュースが報道されました。マスクだけではなく、これまでに3万9000個のフェイスシールドが、90の病院に寄贈されています(3D Crowd UKプロジェクト)。

 

今後さらに技術が進化し、家庭にも当たり前のように3Dプリンターが置かれるような時代が来れば、今回のようなマスク不足の場合にも、国が設計データを配布して、各家庭でマスクを作製するというようなことが起こるかもしれません。日用品や修理部品なども、完成品を購入するのではなく、3Dモデルデータを購入し、自宅で完成品を出力するということも考えられます。もしかしたら、欲しいものの3Dモデルを自分で簡単に作ることすらできるようになるかもしれません。そうなると製造業のかたちが今とは完全に変わってしまいます。一般市民がサプライチェーンの一端を担う未来も、もしかしたらそう遠くはないのかもしれません。

 

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。

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