デジタルトランスフォーメーションを考える(4)生活のすべてをサブスクリプションでまかなう時代がやってくる!?

あらゆる業界で急成長中のサブスクリプションビジネス

昨今、デジタルトランスフォーメーション時代ならではの新しいビジネスモデルが次々と生まれています。なかでも急成長しているのがサブスクリプションビジネスです。

サブスクリプションとは、「特定の期間に特定のサービスを使用できる権利を提供する契約方式」です。NetflixやAmazonプライムなどのデジタルコンテンツサービスやSaaSなどが代表的ですが、最近ではリアルな「モノ」や飲食店にまでサブスクリプションモデルが広がっています。国内での事例を挙げるとラクサス(高級ブランドバッグの定額使いたい放題)、メチャカリ(人気ブランドの洋服借り放題)、KINTO(トヨタの新車月額レンタルサービス)、subsclife(家具・家電の月額レンタルサービス)など、今やサブスクリプションビジネスと縁のない業界は一切ないと言っても過言ではないかもしれません。

株式会社矢野経済研究所の調査では、2018年度の国内のサブスクリプション(定額)サービス市場(8市場計)はエンドユーザー(消費者)支払額ベースで、5,627億3,600万円にのぼるとされています。2023年度には、この金額が8,623億5,000万円にまで成長すると予測しています(出典:株式会社矢野経済研究所「サブスクリプションサービス市場に関する調査(2018年)」[2019年4月9日発表])。

 

サブスクリプションビジネス向けのSaaSを提供するZuora社CEO、ティエン・ツォ氏は2016年のインタビューで「5年以内に私たちは何も買わなくなり、すべてをサブスクリプションという形で利用するだろう」と語りました。まだ「何も買わない」ところまでは行っていないものの、生活のすべてをサブスクリプションでまかなう時代は、そう遠くないかもしれません。

 

「定額制」と「サブスクリプション」は、何が違うのか?

先日、日経新聞に「『サブスク』江戸時代にも」という見出しの興味深い記事が掲載されていました。同記事では、サブスクリプションビジネスの歴史について、次のように書いています。

日本では千趣会が戦後の潤いが乏しかった時代に女性向けにカワイイこけしを定期的に届ける頒布会方式で成長した。社名の由来は「こけし千体趣味蒐(収)集の会」だ。江戸時代に始まった富山の置き薬もサブスクの一種だ。(日本経済新聞夕刊 2019年11月11日 )

こけしのサブスクリプションとは何ともかわいらしいですが、この時代のサブスクリプションと今のサブスクリプションは何が違うのでしょうか。それは「個々の顧客の要望に対応しているかどうか」です。こけしサブスクリプションも、顧客が喜びそうなこけしを厳選していたとは思いますが、一人ひとりの顧客がどのようなこけしを求めているのか、その実際の声を聞くことはなかったでしょう。顧客は、自分の好みと異なるこけしが送られてきても受け取り続けるか、解約するかの二択しかなかったはずです。「サブスクリプション」というよりは、単なる「定額制」と呼ぶべきかもしれません。

 

私たちが今「サブスクリプション」と呼んでいるビジネスモデルでは、顧客の利用状況に応じた価格設定をしたり、細かな顧客ニーズに対応するために様々なパターンでサービスを提供したりしています。先に挙げたサービスのWebサイトを見てみても、「季節や気分に合わせてどんどんいろんなバッグを借りかえられる」(ラクサス)、「返却期限がなく何度でも借りかえられる」(メチャカリ)、「レクサス6車種の中から6ヶ月ごとにお好きな車をお選びいただき、3年間お乗りいただけます」(KINTO)など、顧客のニーズに合わせた柔軟なサービスが提供されていることがわかります。

 

徹底的な顧客主義を実現するビジネスモデル

サブスクリプションは、高価なものを安く利用でき、いつでもどこでもほしい時にほしいサービスを手にすることができる非常に便利なビジネスモデルです。では、サービス提供者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

最大のポイントは、「リカーリングレベニュー《繰り延べ収益》モデル」にあります。将来にわたって、一定の利用金額の支払いが毎月期待できるビジネスモデルを「リカーリングレベニューモデル」と呼びます。一度顧客が入会すれば継続的に収益を得られるため、売り上げが安定するのが特徴です。

さて、このリカーリングレベニューモデルを成立させるための重要な指標が「チャーンレイト」です。チャーンとは、解約・離脱を意味します。つまり「チャーンレイト」とは顧客の解約率のことです。サブスクリプションでは、顧客は使った分だけを支払うので、従来の商品・サービスの販売に比べると一時的な売上は下がります。しかし顧客が解約しない限り、顧客が生涯にわたって企業にもたらす価値は増えていきます。損益分岐点を超えれば、非常に強力なビジネスモデルと言えます。

一方、どれだけ新規顧客の流入が多くても、解約率が高ければ継続的な収入が消えてしまいます。サブスクリプションビジネスでは、常に「チャーンレイト」を注視し、既存顧客の解約を防ぎながら、新規顧客を増やし続けなければなりません。そのためにも顧客と長期的な関係を築き、顧客の実態を把握し、商品やサービスを改善し続けることが重要です。あらゆる場面で、徹底的な顧客主義が求められるのです。

 

既存顧客を維持し続けることと一見矛盾するようですが、「徹底的な顧客主義」という意味では、すぐに解約できることすら重要なサービスとなります。先日、これを体感するできごとがありました。我が家はプロ野球の試合を観るために、あるスポーツ専門の動画配信サービスに加入しています。野球シーズンが終わりしばらく視聴しないので、一度解約しようと思い、サイトにログインしました。これまで加入していた様々な会員サービスは、解約を妨げるためにあえて煩雑な手順を求める印象がありましたが、同サイトでは一目で退会ボタンがわかり、それだけで好印象を受けました。さらに退会ボタンをクリックすると、「退会ではなく、3/19の開幕日まで休止しませんか?その日になったら自動で視聴できるようになります。休止中は利用料をいただきません」というメッセージが表示されました。もちろん迷わず「休止」を選択しました。単純ではありますが、すぐに退会できるという安心感と「必要な時だけ利用してください」という提案により、このサービスに対する印象は格段にアップしました。

目の前の売上の増減にとらわれず、休止やダウングレードもしっかりと選択肢に入れる。顧客が求めるのであれば、解約の邪魔もしない。サブスクリプションでは、顧客に1日でも長く利用し続けてもらうために、細かい施策をうち続けることが重要です。

 

サブスクリプションビジネス参入の背景にあるのは、企業の「危機感」

大手企業がサブスクリプションへとビジネスモデルを転換させた事例として最も有名なのが、アドビ社でしょう。当時のアドビ社は決して事業不振ではありませんでした。しかし、実は長年の事業拡大は売上価格が向上したからにすぎず、ユーザー数は伸び悩んでいたのです。2008年の大不況で打撃を受けた後、マーケティングを強化し、こまめに製品のアップデートを実施しましたが、どちらも大きな効果はもたらしませんでした。状況を打開すべく、同社は2011年にソフトウェアをクラウドベースのサブスクリプションサービスとして提供し始めました。当初は投資家やメディアから不評を買い、短期的には売上額も減少しましたが、時間をかけて新規ユーザーの獲得に成功し、2016年には過去最高の収益を達成しました。

人口減少社会の到来により、消費市場の単純な拡大は見込めなくなっています。細かく変化する人々の嗜好を、企業が予測することが難しい時代でもあります。従来のビジネスモデルが限界を迎えつつある今、危機感を感じた企業が、いち早くサブスクリプションビジネスに参入している印象です。企業が新規顧客を獲得するためには、新しい価値を提供しなければなりません。そんな厳しい時代が、もう目の前に迫っているのです。

 

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。