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「デジタルトランスフォーメーション」って、一体何?

2019年10月23日、私たちの想像を超えた未来が訪れることを予感させるニュースが世界中を駆けめぐりました。Google社の量子コンピューターが、最先端のスーパーコンピューターで約1万年かかる計算を、たったの3分20秒で解いたというのです。研究グループは「コンピューターの開発史において1903年のライト兄弟の友人飛行に匹敵する意味をもつ」とコメントしており(『日本経済新聞』2019.10.24朝刊)、今後この技術がどう実用化されていくかに、大きな注目が集まっています。

テクノロジーの進化は、私たちの日常生活に多大なる恩恵を与えてくれていますが、ビジネスの世界には熾烈な競争をもたらしています。新たなビジネス領域への参入障壁は格段に低下し、いつどのような企業が自社の競合として躍り出てくるかがわからない時代になっています。そんななか、世界中の企業が次にとるべき一手として注目しているのが「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation、DX)」です。

日本企業の競争力向上を後押しすべく、経済産業省は2018年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置し、「DXレポート〜 ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」という報告書を取りまとめました。

この「DXレポート」の中で、デジタルトランスフォーメーションの定義が紹介されています(「DXレポート〜 ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」(経済産業省)をもとに一部加工して作成)。

「第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して」、「新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して」、「顧客エクスペリエンスの変革を図る」とは、一体どういうことなのでしょうか。私たちは何を目指して、「デジタルトランスフォーメーション」に取り組めば良いのでしょうか。

いつの時代もイノベーションの源泉は「顧客」にあり

デジタルトランスフォーメーションへの取り組みを考えるうえで、注目したいのが「顧客」というキーワードです。デジタル技術の有無にかかわらず、いつの時代もイノベーションの源泉には「顧客」の存在があります。1985 年出版のP・F・ドラッカーの著書”Innovation and Entrepreneurship“には、次のように書かれています。

「製品なりサービスは昔からあるものでよい。その昔からある製品やサービスを新しい何かに 変える。効用や価値、あるいは経済的な特性を変化させる。物理的にはいかなる変化も起こさなくてよい。しかし経済的にはまったく新しい価値を創造する。それらの企業家戦略には一つの共通項がある。いずれも顧客を創造する。顧客の創造こそ常に事業が目的とするものである」

(P.F.ドラッカー著、上田惇生訳、『イノベーションと企業家精神』ダイヤモンド出版、2007年, Kindle版 位置No.3784)

イノベーションというと、この世の中に存在しないものを生み出すような印象がありますが、ドラッカーはすでに存在する製品やサービスを新たな視点でとらえ直し、顧客に対して新しい価値を創造することこそがイノベーションだと語っています。

例えば、ハロイド社(現ゼロックス社)はコピー機を機械本体の価格ではなく、コピー1枚にかかる価格で販売するというビジネスモデルを生み出しました。カーボン紙を使うことが当たり前の時代に、高額なコピー機を購入する人はほとんどいません。しかし「1枚のコピー」への対価を支払うということであれば、顧客はコピー機を利用した分だけの料金で済むので、納得がいきます。顧客の事情を最優先に考えたこの仕組みは顧客の心をわしづかみにしました。実は総額として企業が顧客から得る金額はほとんど変わらなかったのですが、機械そのものではなく、1枚のコピーにお金を支払うというビジネスモデルを創出することで、誰もが手軽にコピー機を使えるようになり、人々の生活は大きく変わったのです。

顧客とつながり続けることが、デジタルトランスフォーメーションの鍵

もちろん、ハロイド社のようなイノベーションを起こすことは簡単ではありません。しかし、イノベーションの鍵が「顧客」にあるのだとしたら、今の私たちはいつでもどこでも顧客とつながることができるデジタルネットワークという大きな武器を手にしていることになります。

デジタルトランスフォーメーションの成功事例とも言われているUber、Airbnb、Spotify、Netflixも、タクシーに乗る、宿を借りる、音楽を聴く、映画を見るなど、顧客が最終的に手にしているサービスは、昔と何ら変わりありません。しかしデジタルプラットフォームに載り、顧客と直接つながることで、これらのサービスは全く新しいものへと生まれ変わり、社会に対して新たな価値を生み出し続けています。

2016年にDell Technologies社が開催した「Dell EMC World」というイベントの講演で、サブスクリプションビジネスを営む企業向けのソリューションを提供するZuora社のCEO、ティエン・ツォ氏が非常に興味深いことを語っています。

「フォーチュン500企業において最も急成長しているAmazon、Google、 Appleは、自分たちをプロダクトカンパニーだとは考えていません。顧客との関係を築き上げることを最優先に考えています。みなさんはAmazon ID、Google ID、Apple ID、Facebook IDを持っていて、家にいる時も仕事をしている時も、常に何らかのIDを使用しているはずです。これらの企業では、顧客との関係はすべてIDの中に刻まれており、顧客との関係を維持するだけではなく、何か新しいことを始める時にも、常にこのIDから得られる情報を最も重視しています。今やAppleはiPhone やiPadなどの製品をどれだけ多く出荷するかよりも、どれだけ多くのApple IDを得られるかに力を注いでいます。そのためにiCloudやAppleMusicなどのサービスを提供していると言っても過言ではありません。企業にとっては、顧客中心の文化をいかに作るかが重要なのです」(翻訳・要約 筆者)

Dell EMC World Keynote (Part 3): Tien Tzuo https://www.youtube.com/watch?v=JzG0M_lcs6I

企業側の発想を起点とし、姿が見えない匿名の顧客のために大量生産した商品やサービスを、企業側の効率に基づいて提供する時代は終わりに近づいています。クラウド・IoT・モバイルなどのテクノロジーによって、あらゆることを可視化できるようになった今、企業はどのような属性の顧客が、どこで、どのような行動を取っているのかを即座に知ることができるようになりました。テクノロジーを利用して顧客とつながり、顧客を起点として新しい商品やサービスを生み出すこと、そして簡単に心変わりする顧客のニーズを満たすため、新たな体験を提供し続けることが、デジタルトランスフォーメーション時代の企業には求められています。

しかし、そこに至るまでには乗り越えなければならないたくさんの課題があります。次回は経済産業省のDXレポートで語られている「2025年の崖」問題について取り上げ、デジタルトランスフォーメーションへの第一歩をどのように踏み出すかについて考えてみたいと思います。

筆者プロフィール

大澤 香織
大澤 香織
上智大学外国語学部卒業後、SAPジャパン株式会社に入社し、コンサルタントとして大手企業における導入プロジェクトに携わる。その後、転職サイト「Green」を運営する株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)に入社し、ライターとしてスタートアップ企業の取材・執筆を行う。2012年からフリーランスとして活動。
北海道札幌市在住。

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