同一労働同一賃金に関する法整備と最高裁判決

同一労働同一賃金の考え方

日本の人口動態の変化に伴う労働力人口の不足やそれにより出てくる様々な問題の解決のため、最重要課題とも位置づけられている働き方改革ですが、その改革の目指すところは大きく下記の二つです。

  1. 長時間労働の是正・多様で柔軟な働き方の実現
  2. 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

同一労働同一賃金というのはこの「2. 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を指しています。

同一労働同一賃金の目指すところをもう少し噛み砕いて言うと「同じ会社や組織内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、派遣労働者、有期雇用労働者)の間では不合理な待遇差はやめにしましょう」ということです。

 

それでは、この同一労働同一賃金は実現に向けて、これまではどのような経緯経てきたのでしょうか。

概略を下記に記載します。

 

平成28年12月

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇差がどのような場合に不合理とされるかを事例等で示す 「同一労働同一賃金ガイドライン案」 を 「働き方改革実現会議」 に提示

平成29年9月

労働政策審議会から法律案要綱の答申

平成30年4月

29年9月の答申に基づき作成した法律案 を国会へ提出

平成30年6月29日

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立

(平成30年7月6日公布)

 

上記のような経緯を経て今年6月に改正法が成立しました。

それでは、旧法と改正法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)の主な変更点はどのようなものか見てみましょう。

  1. 労働者の待遇に関する説明義務強化
    • 待遇内容や待遇決定に際しての考慮事項に関する説明義務
      • 旧法  : 短時間労働者・派遣労働者は規定あり / 有期雇用労働者は規定なし
      • 改正法 : 有期雇用労働者についても説明義務を創設
    • 説明義務の対象内容
      • 旧法  : 基本的に「本人の待遇」関することのみ、正規雇用労働者との待遇差の内容やその理由は説明義務なし
      • 改正法 : 事業主に対し、短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者が求めた場合、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等の説明義務を創設
    • 説明を求めた場合の不利益取扱い禁止を規定
    • 説明義務の有無に関する変更内容一覧表
短時間労働者有期雇用労働者派遣労働者
待遇内容有り→有り無し→有り有り→有り
待遇決定に際しての

考慮事項

有り→有り無し→有り有り→有り
待遇差の内容・理由無し→有り無し→有り無し→有り

 

  1. 不合理な待遇差を解消するための規定の整備(短時間労働者・有期雇用労働者)
    • 均等待遇規定(①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が同一の場合の差別的取扱禁止)
      • 旧法  : 短時間労働者についてのみ規定。有期雇用労働者については規定なし
      • 改正法 : 有期雇用労働者も均等待遇規定の対象とする
    • 均衡待遇規定(①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情、の相違を考慮して不合理な待遇差を禁止)
      • 旧法  : 不合理な待遇差の内容が不明確
      • 改正法 : 均衡待遇規定の明確化を図った。基本給、賞与、役職手当等のそれぞれの待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切にと認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化
    • 均等・均衡待遇規定の解釈明確化のためのガイドラインの策定根拠を規定

 

  1. 不合理な待遇差を解消するための規定の整備(派遣労働者)
    • 派遣労働者と派遣先労働者の待遇差に関する均等・均衡待遇規定
      • 旧法  : 均等待遇規定・均衡待遇規定ともに無し ※配慮義務規定のみあり
      • 改正法 : 下記のいずれかを確保することを義務化
        1. 派遣先労働者との均等・均衡待遇
        2. 一定の要件を満たす労使協定による待遇
    • 派遣元事業者が派遣労働者に対し派遣先労働者との均等・均衡待遇を遵守できるようにするための配慮義務を派遣先事業者に課す
    • 均等・均衡待遇規定の解釈明確化のためのガイドラインの策定根拠を規定

以上が今年成立した改正法による主な変更点です。

 

今年示された最高裁判決

今年に入って2つ労働事件で最高裁判決が出ました。

その中で正雇用労働者と非正規雇用労働者の間の待遇差について判断を示している部分があるので、ご紹介します。

  1. A事件(最高裁6.1)

元々業務委託先の委託ドライバーで、委託契約終了後被告会社と有期労働契約を締結した人物が起こした裁判です。

  1. B事件(最高裁6.1)

被告会社を定年退職後、嘱託社員として再雇用された人物が起こした裁判です。

この二つの裁判で労働条件の相違の不合理性がどのように判断されたのかを見ていきたいと思います。

まずはじめに、均等・均衡待遇規定の判断基準に照らし合わせた場合の各事件の原告の分類をしてみると下記のような状況でした。

二つの裁判における均等・均衡待遇規定を考えるための分類

A事件B事件
①    職務内容同一同一
②    変更の範囲異なる(全国転勤有り)同一
③    その他の事情特に無し定年後再雇用である点

 

均衡待遇についてはそれぞれの待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべきですので、それぞれの待遇ごとに示された判断は下記の通りでした。

待遇ごとの判決内容(A事件)

正社員契約社員結論
無事故手当10,000円支給なし違反
作業手当10,000円支給なし違反
給食手当3,500円支給なし違反
通勤手当上限5万円支給なし違反
皆勤手当10,000円支給なし違反
住宅手当20,000円支給なし違反なし
家族手当あり支給なし判断せず
定期昇給原則あり原則なし判断せず
賞与原則あり原則なし判断せず
退職金原則あり原則なし判断せず

 

待遇ごとの判決内容(B事件)

正社員嘱託社員結論
給与

①    基本給

②    能率給

③    職務給

対正社員比2%~12%減違反なし
精勤手当5,000円支給なし違反
時間外手当支給あり支給はあるが精勤手当が基礎賃金に含まれていない違反
住宅手当10,000円支給なし違反なし
家族手当支給あり支給なし違反なし
役付手当支給あり支給なし違反なし
賞与支給あり支給なし違反なし

 

判決内容を分析すると傾向としては

  1. 不合理かどうかの判断は一つ一つの労働条件(各種手当や待遇)ごとに判断される。したがって、代わりに何かで補填しているので支給総額ではそれほど差が無いといった主張は原則通用しない。
  1. 職務に関連する手当(無事故手当、皆勤手当 等)は職務内容が同一であれば雇用形態によって差異を設けることは不合理と判断される傾向にある。
  1. 職務には関連しない生活手当(通勤手当、住宅手当 等)については特殊事情があれば不合理では無いと判断されるケースもある。例)住宅手当:全国転勤のある社員は住居費負担が大きくなるという事情がある

 

まとめ

職務内容が同一であったり、特殊事情が何もなければ基本的に労働条件に差異を設けることを認めていないと言え、今回の改正法の趣旨に則った判断が示されているのではないでしょうか。

 

逆に言えば責任の程度や配置変更の範囲の違いなどが明確になっていれば、労働条件に相応の差異が存在しても不合理ではないと判断されることも十分にあるということが言えます。

 

職務内容、責任の程度、転勤の可能性、人材活用の仕組み(将来会社の中核として登用される可能性)等の様々な事情に応じて、必ずしも労働条件に差異を設けることが悪いというわけではなく、それぞれ個別に不合理か否かを鑑みて判断する必要があるということですね。

 

不合理な待遇差を是正し、誰もが納得して働くことができる社会を実現すれば働き方改革が目指す労働力人口の減少対策、労働生産性の向上に一歩前進することができるのではないでしょうか。

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