【インタビュー】ワーク・ライフブレンドを実現するテレワーク全社導入までのプロセス

株式会社バンテックは、半世紀以上にわたって自動車部品物流の分野で培ってきたノウハウを活かし、グローバルに成長を続ける総合物流企業グループです。

2016年からテレワークを段階的に導入し、徐々にその対象を広げ2018年8月には厚生労働省「平成30年度テレワーク宣言応援事業」宣言企業の新規募集3社のうちの1社に選定。2018年10月から全社的にテレワークの本格導入を行います。

本日は、株式会社バンテック 戦略イノベーション本部 ブランド&マーケティング戦略部 仁多見様、平野様にお話を伺いました。(インタビューの内容は取材時2018年9月時点のご紹介です)

育児・介護との両立に「在宅勤務制度」を検討

—「働き方改革」や「テレワーク」の検討を始めた目的、背景を教えてください。

当社代表は、社員の個々の生活に合った柔軟な働き方を選択できる環境づくりと、それを実現する制度を導入し、業務効率・生産性向上を図るよう進めています。それによって生み出した時間が、プライベートを充実させ、プライベートが充実すると日々の仕事にも良い循環が生まれると考えています。

 

取り組みへのきっかけは、働き方改革や女性の活躍推進、ボード・オブ・ダイバーシティなどの取り組みに向けたディスカッションから生まれました。「在宅で子育てや介護をしながら働きたい」という声が上がり、「育児・介護中の社員」が「自宅」での勤務を可能とする「在宅勤務」導入の検討を始めました。

 

また、同じ時期に当社代表が経営者向けセミナーに参加した際、「テレワーク」に関する話を聞き、育児・介護を行う社員はもちろん、それ以外の社員にも、オフィス以外の場所で働くことを可能とする「テレワーク」が働き方の多様性やモチベーション向上に役立つのではないのかと、興味を持ち始めたことです。

スモールスタートで徐々にトライアルの対象範囲を拡げていく

—どのような取り組みをしたのですか。

最初のステップとして、在宅勤務導入の声が社内で大きくなってきたことをきっかけに「在宅勤務制度」の検討を開始しました。2016年夏に「育児・介護中の社員」を対象としたトライアルを行い、2017年4月に制度化しました。

 

その後、対象範囲を拡げ「育児・介護中でない社員」もオフィス以外の場所で勤務を可能とする「テレワーク制度」の実現に向けた取り組みを開始しました。2017年12月にテレワークが実施可能だと思われる部署をピックアップし、社内説明会を開催した上で、翌2018年1月より週1回の実施を目安としたプレトライアルを開始しました。

 

2018年7月「テレワーク・デイズ」には特別協力団体として参加し、社員約120名がテレワークを実施しました。テレワーク・デイズ実施後に、社内アンケートを実施し、現状のテレワークの課題の洗い出しを行い、今後の導入や運用時までに少しでも障壁となるものを取り除いていきたいと考えています。2018年8月には「テレワーク勤務細則」を制定しました。

 

・バンテック社「テレワーク導入ステップ」

効果を検証し課題を抽出すること

—トライアルで行ったことを教えてください

在宅勤務制度のトライアル段階から徐々に対象範囲を拡げ、自宅以外でのテレワークも実施していく中で効果の検証と課題の抽出を繰り返しました。

 

内容は、会社へ出社した日の時間の使い方を予め聴取した上で、テレワークした日の時間の使い方の違いなどを確認しました。

 

場所は、「自宅」のほか、民間企業が運営する「サテライトオフィス」、別拠点間の社員同士でも作業できる環境を整えた「タッチダウンオフィス」、「カフェ」などで行いました。

 

仕事は会社でしかできないという固定観念を破る

—トライアルで苦労された点はありましたか。

「仕事は会社でしかできない」という固定観念を破ることです。テレワークの導入にあたり、テレワークに向いている業務と不向きの業務があるため、業務の棚卸しと見直しを行ってもらいます。この棚卸しをする際に、「仕事は会社でしかできない」という固定観念を持たないようにお願いしています。

 

また、今後もっとテレワーク導入について理解してもらうための説明会を開催するなど、テレワークによって得られるメリットを多く感じてもらえるように努めていく必要があると感じています。

 

日々の業務文書や申請手続きを電子化

—テレワーク勤務ができる環境整備においてインフラ面での整備について教えてください。

会社支給のノートPCやスマートフォンからVPN接続で社外からでも社内と同じ環境に安全にアクセスできるようにしています。

 

既存の業務書類や帳票や申請・決裁業務などを電子化(ペーパーレス化)することにより、場所を選ばず働ける環境整備を目指しています。出社しないと実施できない仕事もまだまだ残っていますが、今後もペーパーレス化を推進していきたいです。

 

業務ソフトはOffice 365を導入しています。
これまで対面でしかコミュニケーションを取っていない人は、テレワークにより相手の表情が見えなくて不安だという声がありますが、電話、メール、オンライン会議システム、チャットなどを利用することで日々のコミュニケーションを円滑に行うことができます。

 

また働き方改革の一環でもありますが、少し前にスマホ内線化を実現しました。
導入以前はデスクの固定電話を設置していましたが、2018年4月から一人一台のスマートフォンを支給し個人個人が直通番号を持つようになったため、オフィスでも外出先でも自宅でも内線通話が利用可能になりました。

 

その他にも、チャットツールや社内SNSなど様々なツールを自部署で試してみて、社内コミュニケーションを促進する良いツールがあれば全社展開していきたいと考えています。

 

「テレワークは想像より良い」という体験者の声

—テレワーク・トライアルについて社内での反響や導入効果はいかがですか。

2018年7月に参加したテレワーク・デイズ実施後に、「テレワーク・トライアルに関する満足度調査」を社員対象に実施したところ、65%の社員が「とても高い」または「高い」と回答しました。

 

・バンテック社「テレワーク・トライアルの満足度調査」
(n=116人)

テレワーク・デイズを終えて、インフラ面の整備が十分でなかったという反省点があります。本格導入に向けて、課題解決をする事で、利用者満足度はもっと高くなると考えています。テレワーク以前はテレワーク導入に消極的な意見が多くありましたが、体験後に「テレワークは想像より良かった」という声を多く聞いたので、まずは試しにやってもらうことが重要だと考えています。

 

また、非常時の事業継続計画(BCP対策)についても今後効果を発揮できると考えています。最近は大雨や台風などの被害が起こることが多いので、公共交通機関の大幅な遅れや混雑が予想されるときに、無理して出社せずにテレワークが出来るため、悪条件による通勤ストレスの軽減になると思います。

 

計画と実績の乖離分析による生産性向上

—その他の貴社の働き方改革や業務の効率化などの取り組みを教えて頂けますか。

テレワーク以外の業務効率化の取り組みとして、時間管理活動(TDM:タイム デザイン マネジメント)を展開しています。自分の業務をどのくらいの所要時間でこなすのか、1日単位、一週間単位などで計画を立て、その実績を記録していきます。

 

計画と実績を振り返る事で、思ったより時間がかかった事や、反対に早く完了できた事などを認識し、どのように時間をデザインして業務を効率化できるか、自ら考える事ができるツールとして利用しています。また、それに合わせて定期的に上司と部下の1対1の面談(One on One)を行っているので、計画と実績に大きな乖離が生じた場合は、課題や悩みなどを共有し、解決に導けるような体制をとっています。

 

定型業務について業務効率化ツールを導入

そのほか、現場で多く発生する帳票作業や、報告資料作成などの定型業務に、RPAやBIツールを導入し始めました。

 

物流業において業務のIT化は進んでいますが、まだまだ紙伝票が多いのが現状です。それに加え、社外とのやり取りで利用しているシステムが異なるため、データの変換や、別フォームへの転記など、結果的に重複してしまう業務が多くあり、負担になっています。

 

たとえば、業務伝票を社内システムへ転記する作業や、月次報告用資料に必要なデータをDBから抽出・集計し、報告用の定型フォーマットに転記する業務などをRPAやBIツールにて自動化し、業務効率化と生産性向上を目指します。

 

現在は、社内でRPAなどを普及させるためのユーザー育成段階です。現場の業務に即したツールを活用し、業務効率化の実現を目指しています。ファーストステップとして、社内のインストラクターが、各拠点のユーザーを数名教育しています。その後、親から子、子から孫というイメージでスキルを伝播する導入プロセスを予定しています。

 

本来の自分で仕事をすること~ワーク・ライフブレンドへ~

当社はかねてから働き方改革やワーク・ライフバランスについて前向きに取り組みながら業務効率化や生産性向上を目指しております。最近では、仕事とプライベートの顔を分けずに本来の自分でいきいきと働ける「ワーク・ライフブレンド」を意識した、働きがいのある職場環境づくりを行っています。

 

「ワーク・ライフバランス」は、仕事とプライベートを分けてそれぞれバランスをとって充実させるという考え方である一方で、「ワーク・ライフブレンド」とは、仕事とプライベートをブレンドし、全体として人生を充実させるということを目的としています。

 

プライベートの顔と会社の自分の顔を分けずに「本来の自分の姿で仕事をする」という考えのもと、2018年8月に社長室を開放して育児プレイルームの機能を持った部屋を作り、社員が子どもを会社に連れて来て、子どもの横で仕事ができるようにしました。子どもが会社に来ることで、新たな社員間の交流が生まれると考えています。

 

グループ社員900名対象に「テレワーク本格導入開始」

—今後の予定について教えてください

2018年10月からグループ会社も含めた「テレワーク制度」の本格導入をいたします。
事務職、営業職などのデスクワークに従事しているグループ社員約900名を対象に、月間の全勤務日数の2分の1を上限とし、自宅やサテライトオフィス、社内のタッチダウンオフィス、カフェ等で仕事ができるようになります。スムーズな導入ができるよう対象者に週1回以上のテレワークを実施してもらうよう社内への広報を含め推進していく予定です。

 

また、現場で働く社員から「テレワークは現場では無理」「本社とは業務が違うから不公平感がある」という声を聞きます。職務によりテレワークができないなど、それぞれの状況があります。現在は事務職員の「ワーク・ライフブレンド」の実現としてテレワークの導入を行っていますが、現場における「ワーク・ライフブレンド」の実現についても対策を検討し全社レベルでの働き方改革を今後も続けていきたいと考えています。

 

まずは「できる!」を前提にチャレンジすること

—これから「働き方改革」を始める企業の担当者に向けてメッセージをお願いいたします。

まずは「できる!」ことを前提にチャレンジしてみることが大事だと思います。
「社員が働きすぎるのではないか」、「部下がさぼるのではないか」「セキュリティ対策はどうするか」など事前に悩みを挙げたらキリがないので、たとえ見切り発車の部分が多少あったとしても、スモールスタートでやってみることが重要だと思います。やってみたことで判明した課題について、必要な対応をしていけば活動は進んでいきます。

 

通勤時間の削減等、テレワークによって新たに生まれた時間を活かして、家族の育児や介護をしたり、ペットの面倒をみたり、新たな資格の勉強をしたり。また、従来と違う環境で仕事をすることでリフレッシュできたりと「多様な働き方を選択できる」ことで心の余裕が生まれ、「仕事面での生産性」についても改善効果が期待できると考えています。

 

■会社データ

 

https://www.vantec-gl.com/japanese/
社名:株式会社バンテック
所在地:神奈川県川崎市川崎区日進町1番地14 キューブ川崎
設立:2006年3月(創業1954年1月)
従業員数:8,381名(グループ) (2018年3月末時点)
資本金:38億7,400万円
連結売上高:1,052億円(2017年3月期)
代表取締役社長:児玉 幸信
業種:総合物流業
事業内容:一般貨物自動車運送事業、貨物利用運送事業(自動車・鉄道・内航海運・国内航空)、国内航空運送代理店業、港湾運送事業、回送運行業、海運代理店業、通関業、保税蔵置場、倉庫業、古物商

※上記内容はインタビュー時点の情報に基づき作成されています。
※Microsoft Office 365は、米国 及びその他の国における登録商標または商標です。
※その他、記載されている社名、製品名またはサービス名は各社の商標または登録商標です。

筆者プロフィール

WORK-PJ編集部
WORK-PJ編集部ビーブレイクシステムズ
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