電子インボイス制度によってどう変わる? 日本の電子請求書の普及について考える

2020年の請求書電子化に関する動き

WORK-PJでは過去数回にわたって請求書の電子化に関する記事を掲載してきました。その中でも、2020年には電子帳簿保存法の改正や、電子請求書の仕様を統一することを目的とした、電子インボイス推進協議会の発足といった大きな動きがありました。こうした法改正や協議会の設立により、電子請求書普及への流れは着実に進んでいます。

当記事で紹介する電子インボイス制度の設立は、昨今の電子請求書普及に向けた取り組みをますます加速させることが想定されます。以下では請求書電子化の現状を確認したうえで、日本における電子インボイス制度設立の状況、海外の電子インボイス普及に向けた取り組みを紹介していきます。

 

なかなか進まない請求書の電子化

コロナウイルスの蔓延によるテレワークの普及により、これまで紙で処理を行ってきた請求書や契約書の電子化のニーズが高まりました。請求書の電子化が進むと、請求書処理業務の効率化の他に、コスト削減、電子化による内部統制の強化、などが期待できます。

一方で電子化を実現するためには、高度な法的要件を満たし、かつ取引先から電子請求書の承認をもらわなければなりません。2020年の電子帳簿保存法の改正により、法的要件の緩和が行われていますが、それでもなお、電子化へのハードルは低いとはいえないでしょう。請求書や契約書の電子化をより促進するには一部企業のみが電子化を推進するのではなく、多くの企業が電子化に参入しやすい環境を構築することが課題となっています。

 

電子インボイス制度とは

電子インボイス制度は企業や政府が国内外の取引相手と電子請求書をオンラインで授受することを目指した制度です。

電子インボイス制度が設立される背景には、2019年10月に実施された消費税の税率変更があります。消費税額は8%から10%に変更されましたが、食料品などの一部商品の税率は8%に据え置かれたため、商品によって税率の差異が生じています。こうした複数の税率に対応した請求書を適格請求書と呼び、適格請求書をデジタルで運用することで企業や政府の事務処理コストの削減を目指しています。

 

電子インボイス推進協議会の取り組み

電子インボイス制度(適格請求書保存方式制度)は2023年10月の制度開始に向けて、電子インボイス推進協議会が取組みを進めています。

電子インボイス推進協議会は民間企業を主体とした団体であり、電子インボイスの標準仕様を策定、実証し、普及するために設立されました。最近の活動としては、2020年12月に電子インボイス制度の標準仕様に、国際規格である「Peppol」を採用することを決定しました。PeppolはOpenPEPPOLという非営利団体が管理している、電子文書の交換を目的とした国際規格です。電子インボイス推進協議会は今後の流れとして、2021年6月末までに電子インボイス標準仕様書の公開を予定しており、2022年秋には企業が対応ソフトを使用できる状態にする予定です。

内閣官房IT総合戦略室「電子インボイスに関わる取り組み状況について」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/katsuryoku_kojyo/katsuryoku_kojyo/dai1/siryou3.pdf)より

Peppolの日本標準仕様化によって、日本独自の商習慣や法規制に合わせた形での電子インボイス制度の導入が進められています。Peppolを利用するユーザは、政府機関や民間企業が想定されており、システムの導入が難しい中小企業や小規模事業者等も低コストで利用できるように、サービスが提供される予定です。

イメージとしては以下のようなアーキテクチャが想定されています。業界ごとに異なるEDIを使っていてもアクセスポイントを介してPeppolのネットワークと接続することで、柔軟な電子データのやり取りが実現できるようになっています。

 

内閣官房IT総合戦略室「電子インボイスに関わる取り組み状況について」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/katsuryoku_kojyo/katsuryoku_kojyo/dai1/siryou3.pdf)より

 

電子インボイス制度普及に向けた各国の取り組み

電子インボイス制度をいち早く導入したのはEU諸国です。2010年には、電子インボイス制度の基盤を整え、請求書や発注書を電子化し、EU内でのシームレスな電子取引を可能にしました。また、2019年にはEU加盟国内における行政機関において、電子インボイスによる処理が義務付けられ、イタリアにおいてはBtoB取引においても電子インボイスの発行が義務付けられました。EU加盟国においては、政府主導で電子インボイスの使用を義務付ける動きが進んでおり、2020年4月までにEU加盟国の国内法に、電子インボイスの標準ルールを盛り込むことを義務付けました。

EU以外にはシンガポールが2018年5月、オーストラリアが2019年2月に電子インボイスの標準規格にPeppolの採用を発表しています。両国ともにインボイスの電子化を促進し、中小企業の競争力を強化する方針です。

 

電子インボイス制度への期待

日本で普及が目指されるPeppolを用いた電子インボイス制度ですが、どのような制度がつくられるのか、どういったメリットが期待できるのか、不明な部分が多くあります。一方でEUにおけるPeppolを用いた運用状況を見ると、以下のようなポイントが期待できそうです。(欧州委員会 eInvoicing – Internal Market, Industry, Entrepreneurship and SMEs より筆者翻訳抜粋)

  • 紙の請求書と比較して、電子インボイスは処理が簡単で、顧客に届くまでの時間が短く、低コストで一元的に保存することができます。レポートによると、企業間取引の分野だけでも、ヨーロッパ全体で年間400億ユーロの利益があると予測されています。
  • 請求書や支払いにかかる時間を短縮し、顧客からの資金回収を迅速に行うことができます。
  • 印刷・郵送費・保管コストの削減が期待できます。
  • 電子請求書の情報を直接企業の支払・会計システムに入力することができるため、より迅速かつ低コストの処理が可能です。

 

まとめ

年々普及が進む請求書の電子化ですが、法規制や実務上の理由によりなかなか着手できない企業が多い状況です。電子インボイス制度の構築はまだ始まったばかりで、制度の概要から詳細な仕組みまで不明な部分が多々ありますが、行政機関や民間企業が使用しやすい制度が構築されれば、電子請求書はより一層普及することが期待できます。

2021年の6月には標準仕様が公開される予定のため、WORK-PJでも情報を随時更新していければと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

参考:

・内閣官房IT総合戦略室「電子インボイスに関わる取り組み状況について」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/katsuryoku_kojyo/katsuryoku_kojyo/dai1/siryou3.pdf

・CSAJ 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会 電子インボイス推進協議会
https://www.csaj.jp/activity/project/eipa.html

・OpenPEPPOL
https://peppol.eu

・欧州委員会(European Commission)
https://ec.europa.eu/

 

※本記事の正確性については最善を尽くしますが、これらについて何ら保証するものではありません。本記事の情報は執筆時点(2021年1月)における情報であり、掲載情報が実際と一致しなくなる場合があります。必ず最新情報をご確認ください。

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