第九回 先行企業に学ぶ!働き方改革の取組事例

働き方改革に取り組む企業が年々増えています。

本記事では、働き方改革を進めるにあたって皆様に有益な示唆を与えられるよう、
働き方改革への取り組みの先行事例を紹介していきます。

事例:ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社は、携帯電話等の移動体通信事業を展開する大手の通信事業者です。

「Smart & Fun!」というスローガンのもと、ITやAIを駆使した働き方、メリハリのある働き方により時間を創出し、新しい取り組みへのチャレンジや自己成長にその時間を充てることで、クリエイティブでイノベーティブな働き方の実現を目指しています。

2017年4月には、働き方改革を推進すべく、新しい人事制度の導入を行っています。

背景・目的

働き方改革および新制度導入の背景として、以下の要素が挙げられます。

出典)ソフトバンク株式会社 「時代の変化が求めるワークスタイルとは〜ソフトバンク流「働き方改革」」
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20170412_01 より筆者作成

 

近年、政府の強い働きかけにより、働き方改革の考え方が社会に浸透してきており、日本企業の意識も、「長時間労働を前提としたオペレーションを改める」、また、「制約のある方でも働けるよう、多様な働き方を許容する」という方向に変わりつつあります。

また、ソフトバンクのメインの事業である移動通信事業は、近年成熟期に入っており、AIやIoT、ロボット等、新しい領域への事業展開を進めていることから、社員の働き方を再考する局面にあると判断しました。

筆者は、働き方改革に関する一連の取り組みのテーマを次のように整理しました。
以下、テーマごとに主だった取り組み施策の概要をご紹介します。

出典)ソフトバンク株式会社「スマートワークスタイルの推進」
https://www.softbank.jp/corp/hr/personnel/workstyle/ より筆者作成

時間の有効活用

・スーパーフレックスタイム制の導入
現行のフレックスタイム制からコアタイムを廃止して、より柔軟に就業時間帯を調整できるようにします。

・在宅勤務の拡充
在宅勤務が可能な回数を増やし、対象となる社員の範囲も拡大します。

・オフィス改革(サテライトオフィス活用推進)
サテライトオフィスの利用を推進することで、働く場所の選択肢を増やします。

・プレミアムフライデーの全社実施
プレミアムフライデーがスタートした2017年2月24日から、毎月最終金曜日の午後3時退社を奨励し、実施を促します。

業務改善・改革

・ITやAIの業務活用
ITやAIを活用することで業務効率を上げ、より付加価値のある仕事に時間を充てられるようにします。

イノベーションの創出

・オフィス改革
グループアドレス制を推進し、社内のコミュニケーションの活性化、生産性向上をはかります。

・副業の許可・他社交流会の実施
社員のスキルアップや成長につながる副業について、会社の許可を前提に認めます。また、他社との交流の機会を継続的に提供します。既存の知見と、社外活動を通じて得る新しい知見を組み合わせ、イノベーションを創出することを目的としています。

自己成長への投資支援

・Smart & Fun!支援金の支給
業務効率化によって生まれた時間を自己成長機会に投資してもらうために、全社員に毎月1万円を支給します(2年間)。

取り組みまとめ

生産性向上には、業務効率の向上と、付加価値の向上という2つの方向性があります。

ソフトバンクの働き方改革は、「時間を有効活用することで、生産性の向上と成果の最大化を行う」ことを目指しており 、労働時間の削減だけでなく、付加価値の向上に関する施策も展開していることが特徴といえます。

 

生産性=付加価値額/労働時間数 で定義できますから、業務削減によって業務時間を減らすことができたとしても、その分事業成果が下がってしまうのでは、結局生産性は変わりません。

捻出した労働時間を付加価値を生む仕事にあて、事業成果を向上させることで、はじめて生産性を高めることができます。

ソフトバンクは、社員が業務効率向上によって作った時間を、新しい仕事の創出や自己成長機会等の、付加価値向上のために使用する一連の仕組みを用意しています。

単に労働時間削減だけにフォーカスした取り組みだけを実施するよりも、高い生産性向上効果が期待できると言えるでしょう。

事例:サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社は、グループウェアの開発・販売・運用支援を主たる事業とするソフトウェア開発会社です。

背景・目的

1997年の創業以来離職率は毎年15~20%前後で推移していましたが、長時間労働や休日出勤が常態化してきた結果、2005年には28%という高い離職率を記録しました。

離職者が多い状況下で企業が成長を継続していくためには、辞めた分の人材を新たに採用し、絶えず人材を補充していかなければなりません。しかし、採用と教育にはコストが発生します。

年間で3割弱の社員が辞めていくとなると、そのコストは多大なものになり、企業の利益を圧迫します。
また、離職者が多いと、社員の入れ替わりが激しくなることにより、社員同士の一体感が希薄化するという悪影響もあります。

サイボウズは、離職率を下げ人材の定着をはかり、社員個人、チームの生産性を上げるため、ワークスタイル変革の一連の取り組みに着手することを決めました。

方針

100人いれば100通りの働き方があってよいという方針で、一人ひとりの個性が違うことを前提として、個人にあわせた働き方、報酬制度を実現する施策を展開することにしました。

また、制度の利用を浸透させるためには制度の構築だけでは不十分で、それを実現するツールや会社風土の変革をセットで行うことが不可欠だと考え、風土を変革する取り組みを行いました。

出典)サイボウズ株式会社「ワークスタイル|多様な働き方へのチャレンジ」
https://cybozu.co.jp/company/work-style/ より筆者作成

以下、主要な施策の内容をご紹介します。

制度

・選択型人事制度
個人の事情に応じて勤務時間や勤務場所を選択できる制度です。
もともとは働く「時間」を自由に選べるという観点で、以下の3つを選択肢として用意していました。

出典)経済産業省 ダイバーシティ経営企業100選「平成25年度|サイボウズ株式会社」
http://www.meti.go.jp/policy/sme_chiiki/torikumi/pdf/diversity/77cybozu.pdf
より筆者作成

2010年に在宅勤務制度を本格的に採用して以後は、「時間」だけでなく、「場所」も選べるようになり、時間と場所の2軸で9通りの働き方を選べるようになりました。

また、2018年の春からは、100人100通りの働き方を目指し、社員一人ひとりが働き方を選択できるようになりました。

出典)サイボウズ株式会社「ワークスタイル|多様な働き方へのチャレンジ」
https://cybozu.co.jp/company/work-style/ より筆者作成

・ウルトラワーク

選択した働き方と異なる働き方を一時的に単発で行うことができる制度です。
例えば、普段はC1で、短時間で働いている育児中の社員が、1日だけ在宅で働く等の調整が挙げられます。また、台風等の天候不良で出勤が困難な時に在宅で働く等の調整が可能です。

 

風土

制度を活用しやすい雰囲気、環境をつくるため、会社風土の醸成に力を入れました。
以下に代表的な要素を挙げます。

 

・公明正大

サイボウズで一番重要な規範として掲げられている要素です。
「公の場で明るみに出ても、正しいと大きな声で言えること」と定義しています。

多様性が増すほど、バックグラウンドや考えが異なる人が多くなり、画一的な組織と比べて、お互いの考えを理解することが難しくなります。

お互いを理解しづらい環境下にあるからこそ、嘘や隠し事をしないことが重要になります。

 

・自立と議論

多様性のある組織では、全員を一律に扱わず、個々の意見やニーズを汲み取って制度を構築します。
個々にあわせるということは、裏を返すと、一人ひとりが自立して意見を表明する必要があるということでもあります。

また、様々な考え方を受け入れると、意見に食い違いや衝突が起きやすくなります。

全員が一律に満足する解を実現することはできませんから、議論を避けることなく、建設的に話し合い、なぜこのような結論にいたったのか皆が理解し納得できることが重要です。

意見を表明し、議論から逃げない姿勢である「説明責任・質問責任」という考え方を重視しています。

取り組みまとめ

一連の取り組みの結果、2013年に離職率は4%にまで低下しました。

サイボウズは、価値観が近い社員で会社を固める方向に舵を切るのではなく、多様性を受け入れ、一人ひとりの異なる考えを尊重し、多様な働き方を許容する会社にすることに注力してきました。

多様な働き方の実現という目標は、単に新しい制度を導入するだけで達成できるものではないでしょう。
「意見が異なる社員同士がお互いを理解し、建設的に議論を重ねる」会社風土をつくることにより、制度への納得感を高め、制度を利用しやすい環境を醸成でき、高い成果が得られたといえます。

終わりに

IT企業の働き方改革の取組事例を2例紹介しました。いかがでしたでしょうか。

ソフトバンクの事例からは、業務効率向上と付加価値向上の二つの観点で取り組みを進めることの重要性を、サイボウズの事例からは、制度導入とあわせて社内風土を変革することの重要性を述べました。

また、ソフトバンクは「Smart & Fun!」というスローガンからも分かるように、社員がスマートに楽しく、また主体的に働き方改革に取り組む仕組みを、サイボウズは社員が自ら意見を表明し、議論を深めるという規範を作ることで、主体的に取り組むことができる土壌を作っています。

制度や施策だけ用意しても、社員がそれに取り組まないまま終わっては意味がありません。

企業側の一方的な視点のみで進めるのではなく、社員の立場に立ってどのようにすれば自発的に取り組みが進むかということを考え、社員自ら主体的に働き方改革に取り組める仕組みを用意することが重要です。

 

【参考】

ソフトバンク株式会社 「時代の変化が求めるワークスタイルとは〜ソフトバンク流「働き方改革」」
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20170412_01/

ソフトバンク株式会社「働き方改革推進第2弾として、オフィス改革や副業の許可など新たな取り組みを開始」
https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2017/20171011_01/

ソフトバンク株式会社「新たな人事制度の導入により働き方改革を推進」
https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2017/20170213_01/

CAREER HACK「サイボウズ青野社長に聞く、離職率を28%から4%に下げる方法。」
http://careerhack.en-japan.com/report/detail/215

サイボウズ株式会社「ワークスタイル|多様な働き方へのチャレンジ」
https://cybozu.co.jp/company/work-style/

経済産業省 ダイバーシティ経営企業100選「平成25年度|サイボウズ株式会社」
http://www.meti.go.jp/policy/sme_chiiki/torikumi/pdf/diversity/77cybozu.pdf

青野 慶久(著)「チームのことだけ、考えた」株式会社ダイヤモンド社