キャリア開発が必要とされている理由と推進のポイント・方法

最近、キャリア開発という言葉をよく聞くようになりました。

グローバル化・情報化が進展した現代、事業環境の変化が激しくなっており、企業の中長期的な繁栄のため、社員の能力やスキルをどう伸ばしていくかに注目が集まっています。

今回は、キャリア開発が注目されている理由と、具体的にどのような観点で進めていけばよいかについて紹介していきたいと思います。

 

そもそもキャリア開発とは

キャリア開発とは、「個人の能力の獲得や職務の構築を長い観点で計画し支援する」ことです。

まず、社員が自分自身の過去の職務や経験を見直し、今後どんな職業人になりたいか、何をしたいかを考えキャリアのビジョンを作ります。研修や面談等を通じてビジョンの作成、あるいは達成の支援をすることがキャリア開発の具体的な中身ですね。

似た言葉に人材開発という言葉がありますが、人材開発は、どちらかというと組織寄りの視点で人材の能力を高める施策を行うものです。一方で、キャリア開発は、あくまでも個人視点で行うという違いがあります。

 

キャリア開発が注目されている背景

日本の会社では、これまでもキャリア開発は行われてきました。しかし、戦後から90年代頃までは、どちらかというと組織主導の人材開発という側面が強かったといえます。

高度経済成長期で事業がどんどん拡大し、終身雇用、年功序列制度を前提とした人事制度のもと、会社が行う昇進や配置変更は絶対的な価値基準になっていました。社員側も、用意したレールにのって昇進することが成功であると会社のモノサシを受け入れ、組織主導の人材開発に進んで巻き込まれていきました。この時代は、個人のキャリア意向と組織の人材開発の方針とのギャップが少なく、企業が意識的に個人の側に寄り添ってキャリア開発を行う必要はあまりなかったわけです。

 

しかし最近では、以下のような要因で、職業人生を一つの会社で全うするということが現実的ではなくなりつつあります。

  • 人生100年時代といわれるように健康寿命が伸びており、職業人生の長期化が見込まれる
  • 事業環境の変化が激しくなり、事業の寿命が短期化している

 

個人の価値観や就業意識が多様化し、従来型のキャリア形成に不安を持つ人が増え、転職やキャリアチェンジを望む労働者が増加しています。組織側からいうと、従業員に目指すべき目標や価値を提示できなくなってきたといえます。

就業意識が多様化している中で、画一的なモノサシを押し付けるのではなく、個人の意向を尊重して行うキャリア開発の必要性が高まってきています。

 

キャリア開発が必要な理由

企業にとってキャリア開発が必要な理由を紹介します。

自律性が高い社員の確保

外部環境の変動の大きい時代にあり、企業は思考停止でこれまでと同じ活動を続けていくのではなく、競争に脱落しないよう経営方針や事業方針を絶えず再定義していくことが求められます。

このような状況下で必要なのは、指示待ちではなく、自ら考えて行動できる人材です。

キャリア開発を行うことで、自分が何をやりたいのかをはっきり自覚し、自分の仕事に能動的に関わっていける人を増やすことが期待できます。

 

優秀人材の確保

キャリア支援の充実は、転職応募者や新卒の応募者にとって魅力的に映ります。成長意欲の高い人材にとっては、キャリア支援が充実している会社は自分の成長機会、自己実現の機会も多くあると感じられるでしょう。

今いる社員も、「自己実現の機会が多くある会社で長く働き続けたい」という意識が高まり、既存の優秀人材の定着にも繋がります。

 

モチベーション/生産性向上

限られたリソースで持続的な成長をはかるためには、生産性の向上が不可欠です。

職務の希望を汲み取ってもらえる環境やキャリア支援が充実している環境を提供することで社員のモチベーションが高まり、活き活きと働くことで生産性の向上も期待できます。

 

キャリア開発の体制構築のポイント

企業の人事管理の構成要素をいくつかピックアップし、個人の視点で置き換えてみるとどうなるかを考えることで、キャリア開発の体制構築のポイントを考えていきたいと思います。

報酬

管理職のポストを十分に用意できなくなる企業が増え、従来のキャリアアップ型の昇給や昇進を前提とした外的報酬に限界が出てきました。

上昇を前提とした仕組みでは、報酬はうまく機能しなくなってきています。

「社員の主体性を高めて成果を出すためのモチベーション・マネジメント(考え方編)」でもご紹介しましたが、待遇などの外的報酬だけでなく、信頼や貢献感、達成感等の内的報酬の重要性が高まってきています。

従来型の報酬に加えて、上記のような内的報酬を重視する人が増えてきており、個人視点では、上記を織り込んだ総合的な報酬の概念の設定が今後重要になってきます。

 

評価

従来は、組織への貢献という視点から社員の生産性や成果が評価されていました。個人観点でいうと、自身が立てたキャリアの目標に対する総合的な達成度合いもあわせて評価すべきです。

組織が提示する画一的な指標に対してではなく、個人ごとに異なる目標設定に対しての評価を行うことが必要になってきます。また、評価の仕方も多様な能力、スキル、その発揮度合いの総合評価に変わっていきます。

さらに踏み込んでいうと、能動的なキャリア開発の推進のため、単なる上司からの一方的な評価ではなく、個々人が自分自身の職務や姿勢を自己評価し、自己理解を進めていける仕組みになっていることが重要です。

 

教育

従来は、業務上必要なスキルや知識の向上を目的に教育が行われていました。個人視点では、単純な業務スキルの向上ではなく、個人のキャリアの選択肢を拡大させるために有用なスキルの獲得に貢献する教育機会の提供が重要です。

画一的な教育機会を用意するのではなくて、個々人の志向にあわせた多様な機会が豊富に用意されていることが望ましいです。

 

人材配置

どのような職務、部署で働くか、あるいはどのポジションで働くかは、キャリアそのものを形作る非常に大きな要素にあたります。キャリア開発の観点でいうと、人材配置はある程度個人の希望を汲み取ることができる枠組みになっていることが望ましいです。

組織都合での異動ではなく、個人の自己責任でキャリアやライフスタイルを構築できることが重要です。

とはいえ、完全に従業員の希望だけで人材配置を決めるわけにはいきませんから、組織の人事計画との整合性を取れる仕組みでないといけません。

 

キャリア開発の代表的手法

キャリア開発の代表的な方法を4種類紹介します。

情報提供

どのようなキャリアプランが用意されているか、どのようなスキルや経験が重視されているか、会社の側から情報を随時発信し、社員が認識できる環境づくりを行います。

個人が自分のキャリアを考える際の基準は、組織から提供される情報をもとに形作られます。研修や面談等の手法がうまくいくかどうかは組織側の情報提供が十分なされているかによって左右されます。

 

研修

管理職向け研修や専門領域・スキルに関する研修等の機会をこれまで設けてきた企業は多いです。

キャリア開発には、上記にプラスして自らのキャリア自体について考える機会を設ける「キャリア研修」が有効です。キャリア研修では、自分の過去を振り返り、自分の強みや特性を把握し、今後どのような職務を経験し、どんな職業人になりたいのかを考えます。

これから3年後あるいは5年後のキャリアを考えてくださいと言われてもなかなかイメージがわかない方も多いと思います。そんな社員がキャリアについて前向きに考えるとっかかりをつくる機会として研修を活用できます。

キャリア開発で重要なのは個人の主体性です。研修が個人のモチベーションや当事者意識を育むきっかけとなり、主体性の向上が期待できます。

 

面談

多くの会社で業績評価、フィードバックの場として面談が使われています。

人事計画とキャリア開発の方向性を調整して制度をうまく回していくために、要所要所で面談を活用し、上司と本人との対話をして組織の意向を中心とした仕事目標とキャリア目標の方針のすり合わせを行うことが有効です。

また、面談を単なる業績評価だけでなく、キャリア開発の目標設定支援、進捗評価、アドバイスの場として活用していきましょう。

年度や半期に行う目標管理用の面談は短期の業績評価中心で構いませんが、節目の年度の前後ではキャリア中心の面談を設定し中期的なスキル獲得やポジションの話をする、上司にとどまらず、キャリアコンサルタントとの面談を設けて将来的なキャリア構築を中心に話をする等、特性によって異なるタイプの面談をうまく活用し、情報をある程度一元化して管理していくことが望ましいです。

 

配置

個人の希望を社内の人事配置・異動に反映させることで、個々のキャリアの実現を大きくバックアップできます。例えば、以下のような仕組みがあります。

  • 人員が不足している職種やポジションを公開し、社員の応募を受け付ける社内公募制度
  • 自分の強みやスキルを希望部署にアピールして移籍を可能にする社内FA制度
  • 社員が自分で業務の成果や職務の希望を報告させる自己申告制度

このような仕組みはこれまでにも数多く活用されてきました。社内の活性化やモチベーション向上という狙いで行ってきた会社が多いです。

個人のキャリア開発という観点では、もう少し踏み込んだ制度化がポイントになります。例えば、社内応募に失敗した際のフォロー対応の実施やキャリアコンサルタントとの面談義務化等、制度を利用する前後のフォローアップを強化するのが望ましいといえます。

 

まとめ

今回はキャリア開発が注目されている背景や、個人主体のキャリア開発に必要な要素について考えてきました。

個人の価値観や志向が多様化している現代にあっては、組織の画一的な方針の押しつけではなく、個人の希望をヒアリングしてそれを人事計画に反映させる、さらに踏み込んで個人のライフスタイルまでカバーしキャリアデザインの構築を支援する個人主体でのキャリアの推進が必要です。

これらをうまく制度として設計するために、以下のことに留意する必要があります。

  • キャリア開発と人事労務管理の方針との整合性を取ること

例えば、自身のキャリア目標の達成が企業にとって何ら評価されないと、個人のモチベーションが高まりづらく、会社が用意したキャリア開発のメニューを誰もやりたがらないでしょう。逆に、研修や教育が充実していて個人のモチベーションが高かったとしても、業務の生産性向上や人材の確保等の成果につながらない場合、キャリア開発に企業側のメリットがありませんね。

個人主導とはいえ、企業が望む人材開発の方向性と個々人のキャリア開発の仕組みが連動している必要があります。

人事労務管理の一分野が人材育成であり、さらにその人材育成の中にキャリア開発が位置づけられるということを頭に入れ、ご紹介の内容を参考にしていただきながらキャリア開発の仕組みを作っていきましょう。

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