今後はクラウドERPを導入すべき?活況のERP市場、企業が選定する際のポイント
本記事はEnterpriseZine「失敗しないERP選定<試用編>」転載記事です。(2016/11/16 7:00掲載)
成熟期を終えようとしていたERP市場ですが、クラウド技術の進展とともに再び活気づいています。中小企業にもERP導入の裾野が広がる中で、はじめてのERPをどのような基準で選定すればいいのでしょうか。本連載は、困難なERPの選定作業の中で軽視しがちな購入前の試用にフォーカスし、ERPの選定、ひいてはERP導入の成功を手助けする事を目的としています。今回は、クラウドERPの導入形式と、クラウド化に伴って整備された試用環境について記述しています。
目次
ERP市場の現況
ERPベンダーの先駆けであるSAP社が日本に支社を設立してから、来年(2017年)で25年が経ち、この間、ERPという単語もビジネスの現場位においては一般化したといえるのではないでしょうか。
矢野経済研究所の調査では、ERP市場は年8%程度の成長をしており、今後の見通しも堅調です。
図1:ERPパッケージライセンス市場の市場規模推移と予測 出所:矢野経済研究所
また、レポートには次のように書かれています。
不安定な外部環境に的確に対応できる経営のプラットフォームを構築したいという戦略的な理由でERPを再構築するユーザー企業も増えている。それに伴い、導入スピードが短く柔軟性の高いクラウドサービスの利用も拡大しており、クラウド化はERPのトレンドの一つとなっていると考える。
私は営業担当者であり、提案先がERP導入を検討する上で、何らかの形でクラウド利用を想定する事はここ1、2年で一気に増えているという印象です。しかしながら、選択肢が多くなったことは良いことですが、初めてERP導入を検討する企業には、選定を難しくする原因ともなっているのではないでしょうか。
クラウドサービスの類型
そもそもクラウドERPって何?という話から始めると大変難しいのですが、というのも、「クラウドERP」は「クラウド」と「ERP」の2つの単語が合成されたものです。
「クラウド」も「ERP」も定義が難しい上に、意味が変化している節もあり、各社が提供するサービスもそれぞれ異なっています。
クラウドの利用形態として代表的なものがIaaS、PaaS、SaaSです。この分類もスッパリと分けられるものではなく、定義付けが難しなってきています。通常、上記3つの分類ですが、稼働環境(ハードウェア、ミドルウェア)とアプリケーションの関係から、下記3形態に分けてみました。
図2:クラウド形式と提供されるサービス
IaaS/PaaS
クラウドの稼働環境のみを利用し、その上に好きなERPを稼働させる形式です。IaaSとPaaSでは、前者はハードウェア、後者はOS/DB等ミドルウェアも含む、といった違いはありますが、アプリケーション側がユーザーの管理下にあるため、SaaSに比べるとIaaS/PaaSには大きな差はなく、従来のオンプレミスに一番近い形式といえます。
PaaS/SaaS
PaaSの範囲はミドルウェアだけでなく開発環境/フレームワークを含む場合もありますが、その場合、SaaSで提供されている基本アプリケーションに加え、PaaS環境からカスタマイズや独自機能を追加することができる形でクラウドサービスを提供している事業者があります。Force.comとSalesForceの関係がこれにあたります。
SaaS
アプリケーションもベンダー側がサービスとして提供する形式です。純粋なSaaS形式はカスタマイズができない場合が多いので、SFAや人事など特定機能のアプリケーション(※1)に比べ、複雑で多機能であるERP分野ではSaaSサービスの提供は遅れていましたが、ここ数年で既存のオンプレミスベンダーがSaaS形式に進出してきました。
純粋なSaaSと言うには、「ワンアプリケーション・マルチテナント」「完全従量課金で課金対象はユーザーが自由に増減可能」といった特性を備えている必要があるのでしょうが、オンプレミス主体のベンダーが「SaaS版」として提供する場合は、顧客(テナント)ごとのサーバーになっているなど、前述のIaaS形式に近い場合もあります。
※1:特定機能に特化したサービスも「ERP」という呼称を使う場合が見受けられますので、今は業務システム=ERPくらいの認識に変わっているのかもしれません。
今後はクラウドERPを導入すべき?
このように、クラウドの中でも分類がありますが、「クラウドが流行っているし、これからはクラウドの時代だから、クラウドERPを第一候補として考えるか、サーバーは必ずクラウドに置くべきか」といえば、そんなことはもちろんありません。
ガートナー社が提唱する2層ERP(2-Tier ERP)やハイブリッドERPという概念がありますが、これは、規模の大きい本社や主幹事業は重厚長大な据え置きERPを使い、子会社や新事業等(あるいはSFA等特定業務)のためには、短期かつ安価に導入しやすいクラウドERPを導入し、各システム間で連携しましょう、という考え方です。つまり、現段階ではオンプレミスERPとクラウドERPは、用途に合わせて使い分けられており、共存していることになります。
クラウド時代のERP選定方法
上記のように様々な新たな概念、仕組みが生まれる中で、ユーザー企業はどのようにERPシステムを選定していけばいいのでしょうか。
クラウドか、オンプレミスか、というのも無視できない問題でありますが、システム選定で核になるのは、まずもって機能要件ではないでしょうか。
クラウドサービスというのは、インターネットによりサービスが提供され、WEBブラウザにて使用する形式となります。
基幹システムのような“お硬い”分野のシステムにおいては、比較的枯れた技術が好まれます。また、今でもCOBOL言語で作られたシステムがたくさん残っている事などからも分かる通り、ユーザー/ベンダーともに既存資産を一気に置き換える/作り変える事は困難です。
そのような経緯から、少し前まではクライアント/サーバー型のERPがほとんどでした。しかし、インターネット・モバイル環境、それに伴うクラウドサービスの進展から、オンプレミスERPも2010年前後より、次々とWEBシステムに移行しています。
つまり、クラウド・オンプレミスいずれの提供形態にかかわらず、利用はWEBでという事になります。システムの入れ替えが7-10年周期と考えると、前回の導入時にはWEBという選択肢は少なかったはずです。
WEBになることにより、選定段階で何がユーザー側のプラスになったかというと、試用が容易になったということがあります。
クライアント/サーバー型のシステムを使用するためには、一般的に、個別のPCにアプリケーションをインストールするか、あるいはERPシステムがインストールされたPCの貸与を受けて試用する必要がありました。この場合、試用開始のハードルが高く、また、複数の人間が同時に試用し様々な要件に関するテストをすることが困難でした。
しかしWEBであれば、URL、ID、パスワードを発行して貰えば、すぐにでもそれぞれのPCから同時に試用することができます。
購入する前の”試用”が簡単にできる時代
前置きが長くなりましたが、本記事の主題は、選定における試用をもっと重視するべきではないか、ということです。営業の現場に接する中で、RFPをきっちりと仕上げてくるお客様でも、試用はほぼしないまま選定する場合も見受けられます。
前述のとおり、クラウド化・WEB化により、購入する前の試用が簡単にできる時代となりましたので、これを利用しない手はありません。カスタマイズの是非はともかく、機能が合わなかった場合、業務を変更する、運用で回避する、カスタマイズをする、といった何らかの解決策を考える必要がありますが、合うか合わないかをベンダー任せではなく、ユーザー自身が確認することは非常に重要です。
もちろん、試用にも時間的・人員的なリソースが必要になりますが、それを割くだけの価値があると考えます。次回以降、試用の意義、そして試用の進め方について解説していきます。
筆者プロフィール
- 新しい「働き方」やそれを支えるITツールにアンテナを張っています。面白い働き方を実践している人はぜひ教えてください!