社員のモチベーションを向上させるために人事が知っておくべきこと 目標設定と内発的動機づけ
「社員のモチベーションが低い・・・」
「社員の離職率が上がっている気がする・・・」
社員のモチベーションについて課題を感じている人事や経営層の方も多いのではないでしょうか。
社員の主体性を高めて成果を出すためのモチベーション・マネジメント(考え方編)では、社員のモチベーションを上げるために有用な考え方を紹介しました。
モチベーションの向上には、大きく分けて外発的動機づけと内発的動機づけの二つの方向性があります。
外発的動機とは、報酬や職場環境等の外部からの刺激によって生じるやる気のことであり、内発的動機とは、「面白い」、「楽しい」という自発的な気持ちに基づくやる気のことを指します。
クリエイティブな発想が求められる仕事が増えた現代では、内発的な動機の方が、外発的動機よりも労働成果に寄与する度合いが高いと多くの研究で明らかになっています。
本記事では、引き続き内発的動機づけに着目し、人事や経営層向けに、社員のモチベーションをアップし成果を高めるための内容を「目標設定」というテーマで考えていきます。
目次
内発的動機づけと自律性
内発的意欲の向上方法を検討するのに役立つのが、デシとライアンというアメリカの心理学者が提唱した「自己決定理論」です。
自己決定理論は、人間には生理的欲求のほかに自律性や有能感、他社との関係性を志向する欲求があるという前提に立って構築されています。
この理論のポイントは、内発的動機の要素として最も重要なのは自律性であり、「自ら考え、自分の決定によって行動できている」と実感することによって内発的な意欲が高まるということです。
外発的動機づけを利用して内発的意欲を高める
ところが、いざ内発的動機づけの方法を検討しようとすると以下のような壁に直面します。
- 内的要因に個人差があり、全社員に汎用的に適用することが難しい
- 人によってはそもそも仕事に興味や関心が薄く動機づけが難しいケースがある
一方、外発的動機づけには以下のようなメリットがあります。
- 個人差が少なく、汎用性が高い
- 誰にでも共通する欲求を満たすことができ、動機づけを行いやすい
外発的動機をうまく利用できれば、先ほどの内発的動機づけのデメリットを解消し、モチベーションを向上させることが可能です。
例えば、頑張ることによって良い評価や高い報酬を得られた。裁量も大きくなってきた。それによって有能感や仕事が上手くいく楽しさを味わうことができた。昇進してポジションが上がることによって仕事が面白くなり、内発的意欲が高まった。
このように、外発的動機によって内発的な意欲が高まった実感がある方も多いのではないでしょうか。
やらされ感が生まれないように外発的動機づけを利用する
外発的動機づけを利用するにあたっては注意が必要です。
アンダーマイニング効果という現象があります。アンダーマイニング効果とは、金銭的報酬等の外発的動機づけが内発的意欲を削ぐ現象のことです。
はじめは「楽しいからやる」だったのが、「お金のためにやる」に動機がかわり、内発的な動機が失われてしまうんですね。
アンダーマイニング効果が起こらないようにするためには、先ほどの自己決定理論の説明の際に紹介した「自律性」や「有能感」といった欲求を削がないようにすることが必要です。
報酬を期待して物事に取り組むと、「自分が行動を決定している」のではなく「他人に行動をコントロールされている」やらされ感や統制感が生まれてしまうと言われています。
やらされ感が高まると、「これをやりたい、楽しい」という内発的モチベーションは続きづらくなってしまうのです。わかりやすい金銭等の報酬のために働くだけになってしまうわけですね。
目標設定理論
外発的動機づけと内発的動機づけの両者のよい点を活かした施策を検討する上で参考にしたいのがロックとレイサムという心理学者が提唱した「目標設定理論」です。
目標設定理論では、モチベーションの度合いや働きは目標設定の仕方によって変わってくるとされます。
人は、当初に設定した目標を達成し評価や報酬を得ることで、満足感を感じます。満足感はモチベーションを高め、自己効力感を高めます。それによってもっと高い目標を志向するようになるというわけです。
初めは報酬のためにやり始めたことも、精神的な満足感や自己の成長を感じるようになると、自ら進んで自主的に取り組むようになります。
目標や報酬は外発的動機となりますが、目標を達成し報酬を得ることによる満足感や自己効力感は内発的動機の要素となるものです。外発的動機と内発的動機がうまく相互作用をしてモチベーションの向上に役立っていきます。
目標へのコミットメント
最も重要なのは「本人が目標をどれだけ自分のものとして受容しているか」です。目標への受容度が高いと、当然「自分の決定によって行動できている」という意識である自律性も高くなりますし、目標が外発的刺激としてよりも内発的な意欲として作用しやすくなります。
組織から与えられる目標でも構いませんが、当然、自分で考えた目標のほうが自分ごととして受け止めやすいので望ましいです。
人は、何か立場を表明するとその立場を一貫させようとする心理が働きます。多くの研究でコミットメントの重要要因は「自分で決めることである」と明らかになっています。
トップダウンで目標を設定するのであれば、その背景や理由をきちんと社員に説明し、目標が個人にとっても大切なものであると認識させることが必要です。
また、目標は組織のビジョンと近いほうが望ましいです。なぜなら、目標が組織のビジョンとずれていると、仕事を遂行する際に軋轢が生じる可能性があるからです。
仕事をスムーズに進めるためにも、個人の目標は組織の目標と整合性が取れているべきであり、マネージャーと本人が相談して目標を設定するのがよいでしょう。
自己効力感に応じた目標設定
「特定の行動を遂行することができる」という確信や期待のことを自己効力感と呼びます。
目標を達成することで自己効力感が上がり、自己効力感が向上することによって内的な満足感と意欲が生まれモチベーションが上がっていきます。
目標は易しすぎても難しすぎてもいけず、頑張れば達成可能であるという自己効力感にちょうどよく合致する難易度で設定される必要があります。
易しすぎると達成しても内的な満足感は味わえませんし、難しすぎるととても自分には無理だと思い目標の受容ができないからです。
適切なフィードバック
フィードバックは目標に対しての成果に関する情報であり、目標はフィードバックがあってこそ意味をなします。
成果が目標に対してどの程度であるかを本人が知ることによって満足感を得、自信が生まれるのです。
フィードバックのタイミングも重要であり、できれば早めに行うことが望ましいです。改善しても間に合わないタイミングにフィードバックを受けても、目標達成に対してどうすることもできずかえってモチベーションが下がることになりかねません。
最後に
本記事では、モチベーションの向上のために役立つ考え方を目標設定の観点から紹介しました。
- 現代では、内発的な動機の方が、外発的動機よりも、労働成果に寄与する度合いが高いと言われています。
- 外発的動機から内発的意欲が生まれることがあります。内発的動機づけは汎用性が低いため、汎用性の高い外発的動機づけと組み合わせた目標管理体勢の構築が有用です。
- 目標管理によって内発的モチベーションを向上させるために有用なポイントは以下の三点です。
- 目標へのコミットメント
- 自己効力感に応じた目標設定
- 適切なフィードバック
以上ご参考となれば幸いです。
筆者プロフィール
- 新しい「働き方」やそれを支えるITツールにアンテナを張っています。面白い働き方を実践している人はぜひ教えてください!
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