製品の設計思想を理解し、試用に手間を惜しまない!導入に失敗しないための”正しい試用”の進め方とは?

本記事はEnterpriseZine「失敗しないERP選定<試用編>」転載記事です。(2017/01/30 7:00掲載)

前回の記事では、ERPを試用することにより、ユーザー企業自身がFIT&GAPをする事の意義について解説しました。最終回となる今回は、実際の試用の進め方について紹介します。

 

 

試用の範囲をベンダーに確認する

第1回目の記事「今後はクラウドERPを導入すべき?活況のERP市場、企業が選定する際のポイント」の際にも述べましたが、コンシュマー向けだけではなくエンタープライズ向け製品もクラウド=WEBシステムの時代となり、ほとんどのベンダーが試用環境を用意していると思います。しかし、提供される内容・条件はベンダーごとにそれぞれ異なります。試用の内容については、初回にベンダーと接触する段階から簡単にでも確認しておくことをおすすめします。 確認すべきことは下記のようなことです。

 

試用は可能か?

こうなってくると試用ができないパッケージは選定において不透明感を拭うことができず、選定に不利になるでしょう。

 

試用期間はどれくらいか?

通常は1ヶ月程度が平均的な期限ではないでしょうか。選定が続いていれば、延長に応じてくれる場合も多いと思います。

 

どこまでの機能が提供されるのか?

フルパッケージなのか、特定の機能だけなのか。全ての機能を開放している製品は少ないと思いますが、触りだけしか使えないのも困りますね。

 

データ投入はどこまで可能か

マスタの変更追加が可能か、といった制限です。本番データに近い形で行いたいと希望するユーザー企業もいらっしゃいますが、一概におすすめしません。(後述)

 

ユーザー数はどれくらいか?

同時ログインがどれだけできるかによって、作業の進め方も変わります。

 

その他条件はあるか?

WEBサイトから簡単に申し込みができる場合もありますし、アンケートの提出、営業に口頭で意思を伝えれば準備でしてくれる会社もあるでしょう。

 

このように、提供会社ごとに内容も違いますので、そちらに合わせてユーザー側のやり方も考える必要があります。

試用時期と期間、必要なリソースについて

ERPを選定するにあたり、何社かのベンダーと接触する事になります。5社なのか、10社か。ユーザー企業の属する業界や企業規模により前後するかと思いますが、接触したベンダー全ての製品について、本格的な試用をすることは現実的に不可能です。

 

従って、試用時期に関しては1次審査で2、3社に絞り込んだ上で、実施をする場合が一般的でしょう。期間に関しては、前述したとおり試用可能期間が1ヶ月程度ですので、絞込後の1ヶ月を試用期間(及び個別製品に関するディープな確認期間)とみなすのがいいのではないでしょうか。

 

いくつかを試用し、1つの製品を絞り込んだ上でさらにもう1ヶ月、という進め方をするお客様もいらっしゃいますが、それもよろしいかと思います。

 

試用の結果、○だったものが☓になったり、元々要件になかった機能が出てきたり、あるいはカスタマイズだったものが、なんとかなりそうだという判断もでき、それを踏まえて見積もりを再提出してもらえば、費用が膨らむ可能性を抑えることに繋がります。

 

下記、ベンダーへの接触から試用、選定までのスケジュールをモデルケースとして作成しましたので、ご参考ください。下記の内容以外に予算取りや社内調整といった時間のかかる作業がありますが、パッケージの内容を吟味するだけであれば、これくらいの期間があれば十分と思います。

 

図:選定までのスケジュール モデルケース

 

リソースに関しては、企業や検討範囲により異なりますが、大きく分けて2パターンが考えられます。

  • 複数名で機能ごとに分担して行う場合
  • 1、2名の少人数で行う場合

 

前者の場合は、機能別に想定される部門のメンバーに確認してもらうことになります。選定プロジェクトメンバーが業務の詳細まで理解していない場合や、「あとで現場に文句を言われないように先に使ってもらう」といった事情もあるでしょう。調整が大変ですが、会社全体の納得感は得られやすい方法です。

 

ERP選定プロジェクトの担当が、他の仕事を抑えられており試用に集中できる状況であれば、後者での対応も可能でしょう。一貫した視点から評価ができるので、全体の業務を俯瞰している方がいらっしゃればこちらの方法でも良いでしょう。

 

また、前述の通りベンダーによって提供される同時接続数が異なりますので、1アカウントしか接続できないのであれば、少人数で操作せざるを得ないといった場合もあります。

 

シナリオを作る

要件○☓表が、ユーザー側の視点から本当に整合性が取れているのかを確認するのが基本的な作業ですが、業務というのは個別の機能の集合体ではなく、フローがあるものですので、業務に沿ってデータを入力していきます。

 

販売管理システムであれば、100万円の受注があり、配送先はエンドユーザー、請求・入金は販売店、仕入れが80万円、支払いは……といったように、自社で行われている取引形態に合わせてサンプルの契約を作り、始まりから終わりまで実際に入力をしていきます。

 

RFP作成の段階で、業務フロー図も作成している場合(あるいは既にある)も多いかと思いますので、そちらも活用できるでしょう。

 

試用は、検収テストではないので、そこまで厳密なデータで行うことではないと個人的には思いますが、稀に「試用の段階でマスタ類やワークフローの設定も本番同様にしたい」「1ヶ月分の実データを全部入力し、同じ結果になるか試したい」というユーザー企業もいらっしゃいます。

 

そうなりますと試用を超えてほとんどテスト稼働になってしまうので、時間やリソースの関係からおすすめしません。ベンダー側も、試用環境でのリアルなデータの投入を禁じている場合もあるでしょう。そこまでやるとすれば、内示後とは言わないまでも、1社に絞ってからであれば、ベンダーと交渉して、IP制限等を実施した専用の環境を用意してもらえる可能性があります。

 

製品の設計思想を理解する

前回の記事「ベンダーが〇を多く付けていても、自社の業務にフィットするわけではない!ERP選定における試用の重要性」では、「ベンダーの回答してくる○☓を鵜呑みにせずに自らの目で確かめる」事が必要である、と試用の意義について説明しました。もう一つ大事なことがありまして、ERPシステムは、業種別に設定やテンプレートが別れていますが、同じ業種でも全く違うやり方をしている場合も多々あります。

 

ベンダーが何もない所からパッケージを作るという事は稀で、どこか特定の企業向けに作ったものであるとか、自社導入のために作ったシステムをパッケージ化したとか、ベースとなる仕組みがあって、そこから様々な機能を追加していったというパターンが多いのですが、このベースとなる考え方(つまり、設計思想)を理解できるのが、○☓のフィット率だけではない試用の大きな意義と考えます。

 

「検索機能が充実している」とか「入力補助機能」がある、といった「使いやすさ」は誰にとっても等しく有益ですが、「うちの会社」にとっての使いやすさはそういうところではありません。

 

設計思想というと固く聞こえますが、例えばこのシステムの目線は現場寄りなのか、経営者寄りなのか、業務ごとに多数のユーザーが入力していく分業型を想定しているのか、営業や管理者が一括で入力する事を前提としているのか、そういった部分で、「うちの会社」にとっての使いやすさが異なってくるのです。

 

この感覚は簡単にでも操作してみればわかるので、機能の深い検証とは別に、検討の初期段階で一通りの製品をさらっと使ってみる事も考えられます。

 

試用の手間を惜しまず失敗のない選定を!

今回を含め全3回の記事にて、ERPのクラウド化に伴う試用環境の拡充、意義、実際の進め方についてご説明させていただきました。

 

私が営業として担当するお客様では、試用をきっちり実施したお客様は最後までスムーズに導入プロジェクトを終える可能性が高く、試用の重要性をご理解いただきたいという思いから、今回の連載「失敗しないERP選定<試用編>」を執筆するに至りました。

 

試用するのは時間も人員も必要ですが、選定後、あれができなかった、これもあったとなれば、またさらに追加の費用が必要となったり、結局システム稼働に至らなかったり、という可能性もあります。5年、10年と使うかもしれないシステムです。ぜひ、手間を惜しまず時間的、人員的コストをかけていただければと思います。記事をご覧頂いた皆さま、ありがとうございました。